明日はクリスマスライブと翌日にはファンクラブ設立記念日が控えていた。明後日にはニューヨークへ戻って、レコーディングの打ち合わせをする事になっていた。今日はテレビ生出演で午前中の空き時間の合間に少しだけ見舞いに行くことにした。事務所へ行くとグッズとCDが目についた。
 
(新しいアルバムでも渡しておくか……。プレイヤーとかも無さそうだったな……。電気屋に寄って見るか。)
 
電気屋へ行くと、店内はクリスマスソングか流れ、親子でおもちゃを買いに来たり、ぬいぐるみを買って貰ったりとはしゃいでいる子供たちがいた。

『うわぁ!たくさんおもちゃがあるね!いいなぁ〜。』

 頭の中でまた声がした。

「本当になんなんだよ!ちょこちょこ出てくるのやめてくれよな!」

 周りにいた人が奇妙な目つきでこちらを見てくる……。

『ごめんなさい……。だって……。ボク……。』
(わー!マジ怖いからさぁ!何?なんなの?)
『ごめんなさい……。ごめんなさい……。』

 なんだろう……。日本に帰っているとこの声が聞こえる気がする……。
 
(誰なんだよ!?)

 答えは返って来なかった。霊に取り憑かれているかもしれない恐怖感があった。とにかく、プレイヤーを買って……。

(名前……。なんだっけ……?)
『莉奈だよ……。』
(また出たー!)
『酷い……。』

 特に悪さをする訳でもなく、こうして話しかけてくる謎の少年らしき声……。一体何者なのか……。

『ボクの事知りたいの?』
「わー!ごめんなさい!ごめんなさい!話しかけないで!怖いんだよ〜!」
『パパは怖がりなんだね♡』
「パ、パ、パ、パパ〜!?」
『あ!いっちゃダメだったんだ!』

 周りの人が一斉に振り返る……。一斉に見られた事で恥ずかしくなってその場から立ち去り急いで車に乗り込んだ。

(なんだよ、何だよ!パパって!え?水子霊か?え?あの子とやった時か?それとも、あの子か?いや、あの子かも……。)
「わー!ごめんなさい!ごめんなさい!俺が手当り次第やっちゃったからこんな事になったんだよな?本当にごめんなさい!ちゃんとお墓行くから本当に許してください!」
『へー。酷いねぇ。その事、あの綺麗な細いお姉ちゃんに伝えておくね。』
「わー!頼むそれも言わないでー!」
『ほら!早く行かないと色々と遅れちゃうよ?』
「そうだ!急がないと!」

 何が何だか分からないうちに、電気屋を出て病院へ向かった。余りにも奇妙過ぎて車で運転している時にバッグミラーを常に見ていた。けれど車に乗っている最中や、歩いている時は何も話しかけて来ることはなかった。

 車で走っている途中に花屋が目に付いた。

(花買って行くか。『ガーベラ』と『かすみ草』は……。)

 花を作って貰い、後部座席に乗せた。
 
(これくらいの量で良いかな?足りないかな?でも、あるだけ全部してもらったから……。いいか?)

 正直、花束を購入する事が初めてでどれくらい買えばいいのか分からなかった。病院に到着し、花束を持って歩いていると周りの患者さんや看護師が花束をみて驚いていた。
 
(何かおかしいのか?確か……。病室5階だったよな?上の名前なんだっけ?アイツ『莉奈だよ』って言ってたよな?)
 
 病室を1件ずつ確認をしていると、『米田莉奈』の名前が出てきた。
 
(そうだ!この名前だ!)

 ノックをする所もなく、突然カーテンを開けるのも失礼だと思って声でノック音をたてた。すると、ゆっくりとカーテンを開き始めると丁度顔の真ん前に花束が来る感じになっていた。

「わっ!なに?」
「ヘヘッ!びっくりした?」
「え?なんで?」
「忘れたのかぁ?見舞いに来るって言ったじゃん。」
「え?本当に来ると思ってなかった!」
「俺は約束を破らないって。ところで調子はどう?歩けるようになった?」
「はい!もう入院してると退屈すぎておかしくなりそうですよ〜。」
「そっかぁ!今日は、そんなことだろうと思って!あ、これ!俺の新曲が入ったCD!あと、これプレイヤー。お見舞いだからな!」

CDを持ったまま、微動だにしなかった。

「え?持ってた?要らなかったか?」
「ハハハッ!だって、全てがサプライズすぎるんですもの。凄く嬉しいです!この花束もこんなに大きいし、一般人こんなに大きな花束買わないですよ!」
「え?そうなのか?まぁ、俺はスターだからなぁ。」

嬉しそうにCDを握りしめ瞳をきらめかせていた。
 
(そんなに嬉しかったのか?ある意味ちょっと恥ずかしいな。)
 
「CDも嬉しい!本当に嬉しい!グループじゃないんですよ!こうしてお見舞いに来てくれるなんて夢の様ですよ!」

 グループじゃないのにこんなに喜んでくれるのか?見舞いがそんなに嬉しい物なのか?俺がここに居ることがそんなに不思議なのか?
 
「でも、ちゃんと現実だからなぁ。こうして、ここに立ってる。」

 手を握ると嬉しそうに微笑んだ。
 
「私、デビューイベントに参加していたんですよ。こうして、握手してくれたんですよね。」
「お?来てくれたんだ!覚えてるよ!」
「嘘つき!絶対覚えてない!じゃ、聞くけどどんなヘアースタイルだった?」
「え?えっとな〜。確か……。三つ編みしてたな!」
「残念でした〜。ショートヘアーでした〜。」
「あー!そうだ!そうだよ!ショートだった!」
「……。大嘘つき!」

 楽しそうに笑顔を見せてくれるとこっちまで嬉しくなっていた。そういえば……。解散した後の事知らないんだろうな……。少し話をするか……。過去の辛かった時の話は余り語りたくはないが少しくらいならいいだろうと教えた。
 真剣に話を聞き、時には涙ぐんだりしていた。
 
 合間に看護師が検診にやってきて、その姿を見ていた。
(この子は一体どこが悪いのだろう……。後で看護師にこっそり聞いてみるか……。)

電気屋で少し時間を取ってしまったばっかりに収録時間が、迫ってきたいた。

「今日はテレビに生出演するんだ。」
「え?ほんとに!?絶対見なきゃ!かーくん出るんだもんね!うれしいなー!」
「で、明日はクリスマスライブだぞ!」
「えー!良いなぁ!行ってみたいなー!歌声生で聞いてみたい!」
「君、来られないもんな。よし!一曲歌ってあげるよ。」
 
 歌っていると突然目を潤ませて泣いていた。
 
「おいおい!泣かないでくれよぉ!」
「あ!ごめんなさい!なぜか分からないんですけど出ちゃいました。」

 自分の曲は泣かすほどなのだろうか……。ちゃんと伝わっているのだろうか……。
 
「ありがとうな。」
「え?」

 何故か頭を撫でていた。
 
 (な、なんだ!?なんで頭撫でたんだ?)
「なんだろな。無性に撫でてあげたくなった……。っと!そ、そろそろ仕事行かなきゃな!」

 自分のした行為が恥ずかしくなって誤魔化した。
 
「また、時間空いたら見舞いにくるからな。次は外で話をしような。」
「はい!色々とありがとうございました。花束もこんなにたくさんいただいて。」
 
「じゃぁな!」

 病室を出ると喜んでくれた事に気分が良かった。廊下を歩いていると検診をしてくれていた看護師が巡回をしていた。

(そうだ。彼女の病状教えてくれるかな?聞いてみよう。)
 
「看護師さん、ちょっといいですか?」
「はい?」
「あの子、どこが悪いのか教えて貰えますか?」
「あー。すいません。まだ、病状はよく分からないんです。精神的なものがあるのは確かなのですが……。」
「退院とかは?」
「決まっていないんですよ。精密検査が近日されるみたいなんですが…。御家族の方でないと詳しいことはお話出来なくて…。」
「そう……ですよね。わかりました。ありがとうございます。」
(そうだよな……。深入りする必要ないよな。聞く必要なんてない……。)
 
『支えてあげて。』
「え?」

 その一言を伝えられると声は聞こえなくなった。

(支えてあげてって言われても……。何?中途半端過ぎて気になるじゃん。)

 車に乗りテレビ局へ向かいメイクをし、軽く打ち合わせをし、本番に入る。

 久しぶりのテレビ番組収録で余計な事を言っていないか少し心配になったが、番組の最後に明日のライブの宣伝をし、無事終了した。
 
「お疲れ様でしたー。」
「今日は出演ありがとうございました!所で、星川さん時々話を聞いていない感じありましたけど何か悩み事でも?」
「え?そんな感じあった?」
「はい……。」
「あー。夕飯何を食べよーかなーってね!」
「はい?それであんなに真面目な表情されるんですか!?」
「こう見えても、俺はどんな事でも真面目に考えるからなぁ!」

 スタッフ一同は笑い、誤魔化した。あの子は番組を見て笑ってくれていたのだろうか?

 翌日はクリスマスライブで設立記念日でもあり、最高な1日を過ごすことが出来た。ライブが終わると雑誌の取材などを受けたり、年末のスペシャルゲストとして生出演が急遽決まった。

(なんか……、日本に帰ってから忙しいな。ニューヨークに戻るのが大晦日になりそうだな。それまでにもう一度……。って何会いに行こうとしてるんだ!?別に会いに行かなくてもいいんじゃないのか?ファンの子だぞ?そうだよ。別に……。)

 なんだかんだと大晦日にまで仕事が入り、飛行機のチケットも取れなくなり友人の自家用ジェットでニューヨークへ戻ることになった。事務所のスタッフは大掃除をしていた。花瓶の花を入れ替えしている姿をみて思い出した。

(あ……。あの子に送った花も、萎れている頃だろうな。)

「ちょっと出てくる。」
「かーくん、夕方には帰って来てよ?飛行機間に合わなくらるから。」
「わかった。」

 車に乗りこみ花屋へ向かった。男性店員に花束を繕ってもらっていると白いバラの花が1輪残っていた。

「すいません、この花もお願いします。」
「あ♡わかりました。」

 バラの花を1輪別に繕ってくれ手渡してくれた。

「頑張ってくださいね!」
「えっ?何よ?」
「白いバラの花束1本と言うことは……ですよね?」
「ち、違うよ!ほら、1本だけ残ってるじゃん!」
「在庫ありますよ?あ、在庫が必要と言うことは……!」
「あー!わかった!わかったよ!こ、これは挨拶だからな!」

 店員は笑顔を見せながらなだめていた。自分もバラを購入した時に彼女の笑顔を想像していた。

 白いバラ1本の花言葉は……。

『一目惚れ』

 美奈とは違った感情だった。