ニューヨーク物語 122 | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ



遠くでジョディーとスコットの声がする…


意識が戻るも、朦朧としており、全てが定かではなかった。


ジョディーが私に何かを羽織らせた。


遠くで声がする…。


「カズミ?大丈夫?立てる?」


私は…


答えたのか?答えなかったのか?


スコットがパタパタと動き回る姿が、朧気に見えた…気がする…。



二人が私の身体を両側から支えて、起こした…様である…。


『何?どうしたんだろ…?』


私は、状況を把握出来ない。


私達3人はアパートの表に出た…らしい…。


スコットがジョディーに私の身体を任せて、通りに出て行くのが見えた。


ジョディー1人の力では支え切れず、私は路上に崩れてしまう。


「スコット!早く!」


ジョディーの声…。


「カズミ、しっかりして。」



次に気が付くと、私達はタクシーの中に居た。


私はジョディーとスコットの間でぐったりとしている。


「ジョディー…?何処…行くの?」


私が聞く。


「病院よ。」


「病院…?なんで…?」


「いいから!寄っ掛かってなさい。」


「俺を…病院に連れてくの…?」


「そうよ!」


「行かない…俺…。」


「行くのよ!」


私の意識が徐々にハッキリし始める。


「俺…どうしたの…?」


「トイレで吐いた後、気を失ったのよ。」


私達を乗せたタクシーは病院に到着したが、私には其処がどの辺の、何と言う病院かは分からなかった。


私は、ジョディーとスコットに身体を抱えられ、両足を引き摺られる様にして、病院のエントランスをくぐる。


「ダメだわ、スコット。カズミ、1人で立てない。手続きしてくるから、車椅子を用意してもらって頂戴。」


「わかった。」



私は、全身に力が全く入らない。


ほんの少しでも、支えてくれる力が減ると、そのまま倒れてしまいそうだ。


スコットが看護師を呼び止め、車椅子を持って来させた。


待合室に居る人達が、私を見ているのに気付く。


車椅子に座らせられた私はまた、半ば気を失った様な状態に陥った。


そして、次に気が付くと、私達は診察室が並ぶ廊下に居た。


気持ちが悪い…。


座っているのも辛い…。


「ジ…ジョディー…ダメだ…座ってられない…気持ち悪いよ…帰りたい…。」


「もうちょっとよ!頑張って!」


ジョディーの言う『もうちょっと』は2時間以上にも感じられたが、正確な時間の感覚など私には無く、果たして実際はどのくらいだったのか?全く分からなかった。


ただ…


この猛烈な不快感に堪える時間は、永遠より長い様に思われた。


私の意識は3度、4度…と失われ、意識が遠退く度に『俺は死ぬのか?』と思うほどだったのである。



あれほどまでに辛い状態に陥った事は、後にも先にもこの時限りである。


衰弱しきった私の身体は、痩せ細り、生物から物体へ変わってしまう寸前かの様に思われた。



そして、次に気が付くと、私達は診察室の中におり、私の目の前には、年配の女医が座っていた。


私の右脇にジョディー、スコットの気配が後頭部にあった。


ジョディーが女医と話している様だが、私の頭は二人の会話を理解する力が無かった。


不意にジョディーが大声をあげる。


「無理よ!この子の状態が目に入らないの!?」



『ジョディー…怒ってる…どうしたんだろ…?』


「大丈夫。自分で症状を話させて。」


女医が言った。


「こんな状態じゃ、症状を正確になんて話せないわ!」


「でも、貴女にだってこの子の感覚を正確に話せないわ。」


「それは…」


ジョディーが口ごもる。


どうやらこの目の前に居る女医は、私自身に身体の不調が如何なるものか?を説明させようとしているらしい。


「さぁ、話して頂戴。どんな具合?」


「彼の英語は完璧じゃ…」


「構わないわ。片言でもね。」


ジョディーの言葉を女医が遮った。


「喉が…痛い…すごく…。」


「それから?」


「身体に力が入らない…気持ち悪い…。」


「それから?」


「座ってるのが…辛い…。」


女医の質問は長く、細かかった。


私は度々、黙ってしまう。


言葉が出て来ない。


ムカムカする…と言う表現が思い浮かばない。


ゾクゾクする…と言う表現が思い浮かばない。


ガンガンする…と言う表現が思い浮かばない。


微妙な不快感を表す言葉が思い浮かばない。


頭が働かない。


私はもどかしさを感じながらも、苛立つ力も無かった。


女医の長い問診が終わると、私達はまた廊下に出された。


女医は問診だけで、診察はしなかった。


そこからまた、長い時間を待たされる。


遠退く意識…。


ジョディーが大声で何か言っている…。


『ジョディー…ごめんね…怒らないで…』




次に気が付くと、私は殆ど全裸で診察台の上に寝かされていた。


『寒い…冷たい…』


診察台の硬く冷たい感触が、背中に貼り付く様に感じられる。


うっすら目を開けた途端、痛みに近い眩しさ。


診察台の真上にある強い光が、私の目を刺した。


医師とおぼしき人達が、私の身体のあちこちを触る。


会話が聞こえて来るが、内容は理解出来ない。



私の意識は、また遠退いた…。




結果、私は扁桃炎であったが、症状は重く、扁桃腺が酷く腫れ上がっていた。


『こんな…40℃にも至る高熱を10日近くも我慢するなんて、感心を通り越して呆れる!』


と医師達が口を揃えた事を、後からジョディーに聞かされた。


最後の最後まで、ジョディーに面倒を掛けてしまった私であった。


医師から処方された薬に寄って、徐々に回復に向かった私であったが、結局、完治までに2週間近くもかかってしまったのである。