考えよう、日本を。-民主党が語る、この国のすがた- | 西陣に住んでます

考えよう、日本を。-民主党が語る、この国のすがた-




読売新聞によれば、民主党「アベノミクス」の問題点をアニメで説明する特設サイトを開設したそうです。

[アベノミクス、アニメで批判…民主が特設サイト]

民主党は、安倍首相の経済政策「アベノミクス」の問題点をアニメーションで説明する特設サイトを党のホームページに開設した。衆院選情勢調査で伸び悩む党勢を踏まえ、インターネットを活用して無党派層の支持獲得を狙う。特設サイトの「考えよう、日本を。」のコーナーでは、安倍内閣の2年間で変化した格差、雇用、原発などのデータに焦点を当てた。格差に関しては、「年収1000万円超の人は増えています。172万人(2012年)→186万人(13年)」と紹介しつつ、「年収200万円以下の人も増えています。1090万人(12年)→1120万人(13年)」と指摘した。党幹部は「客観的なデータを示し、無党派層に訴えることで、投票に行ってもらう戦略だ」と語った。共産党も特設サイトで、アベノミクスや原発再稼働などを批判している。

民主党は、前回の2012年の衆議院選挙で「民主党だからできたこと」と題して自己分析を行いました。しかしながら、その自己分析はあまりにも手前味噌な内容であり、肝入り政策を中心にその不合理を過去に指摘したことがあります。→[民主党だからできたこと/西陣に住んでます]

今回その民主党が[考えよう、日本を。データが語る、この国の姿]という題目でアベノミクスを批判したのですが、その内容は前回同様、「客観的なデータが語る」というよりは「主観的な民主党が語る」といった不合理な内容になっています。ここで具体的に一つ一つその内容を確認していきたいと思います。


日本の現状を知っていますか?


1経済

民主党は経済について次のように説明しています。

近年、株価は上がっています。
2012年1月 8803円(終値)
2014年10月 16414円(終値)
+7611円

給料(実質賃金)は16ヶ月連続マイナスです。

出典:厚生労働省(毎月勤労統計調査)


ここで書かれている内容にはほぼ異存がありません。

まず、近年、株価は大幅に上昇していることは事実です。ただし、株価が大きく上昇したのは民主党政権後半の2012年1月からではなく、民主党政権末期(レイムダック状態)で自民党が安倍体制になった2012年10月からです。実際には株価上昇のプロセスに民主党政権がほとんど寄与していないのは明らか(野田内閣に移行した点はマインド的によかったかもしれませんが・・・笑)であるにもかかわらず、その関与を匂わせるところはあまりにセコいといえます(笑)。

一方、実質賃金が16ヶ月連続マイナス(速報値を入れれば17ヶ月連続マイナス)であることも事実です。これはアベノミクスの効果が現在のことろ限定的であることを示すエヴィデンスであり、アベノミクスが現在に至るまで成功しているとは限らないと言えます。ただし、このことをもってアベノミクスが失敗であるというのも正しくありません。アベノミクスによる量的緩和は時間遅れ(delay)を伴う経済政策であり、デフレ脱却のキーとなるコアコアCPIの株価との相関もそろそろ効いてくる時期にあります。また現在のところ一部国民の給与所得の上昇、雇用増加、株価の上昇という点では効果がすでに生まれています。いずれにしても、政策が実施されて以来、まだ給与所得の増額を生む会計年度の始まりである4月を1回のみ経験しただけであり、しかもその4月は消費税値上げを伴っていたため、政策の効果を十分に評価することができない状況にあります。なお時間遅れ効果が存在することについては、以下の過去記事で定量的に示していますので参考にしてください。

[アベノミクスを考えるためのマクロ経済の統計分析-1][2][3]


2格差

民主党は格差について次のように説明しています。

年収1000万円超の人は増えています。
2012年 172万人
2013年 186万人
+14万人

年収200万円以下の人も増えています。

2012年 1090万人
2013年 1120万人
+30万人

出典:国税庁「民間給与実態統計調査」


一見以上の数値を見ると、アベノミクスによって大金持ちが増えているけれど、貧乏な人がそれ以上に増えているように見えます。実はこれにはレトリックがあります。

実は国税庁の「民間給与実態統計調査」をよく見ればわかるのですが、2012年から2013年の間に給与所得者が90万人増えています。つまり、2012年には給与所得がなかった90万人の人たちが収入を得るようになったということです。しかも年収200万円以下の人が30万人しか増えていないということは年収200万円以上の人が60万人増えている(=90万人-30万人)ということになります。

このような事実に反して、数字のマジックを用いることによって、あたかも貧乏な国民が増えているかのように書いていることは、まさに国民を騙す「許されざる暴挙」と言えます。・・・というか、単純に算数ができない恐ろしく劣化した政党である可能性もあります(笑)。いずれにしても、もし民主党に少しでも良心があるのであれば、国民に大きな誤解を与えるこの部分をすぐにでも撤回し、誤解を与えた国民に謝罪すべきであると考えます。


3雇用

民主党は雇用について次のように説明しています。

就業者は増えています。

2012年 6270万人
2013年10月 6390万人
+120万人

非正規雇用者も増えています。

2012年 1813万人
2014年10月 1980万人
+167万人

出典:総務省統計局「労働力調査」



一見以上の数値を見ると、アベノミクスによって就業者は増えているけれど、非正規雇用者がそれ以上に増えているように見えます。実はこれにもレトリックがあります。

総務省統計局「労働力調査」を基に分析してみたのですが、実は日本では雇用統計が始まって以来、雇用者数(就業者数)が増えるとその分非正規の雇用者数も増えることが知られています。好景気になれば、正規の労働者以外にも臨時の労働力が必要となるからです。下図は中曽根内閣以来の雇用者数と非正規雇用者の割合との関係を示したものです。

雇用者数と非正規の割合
(クリック拡大)

中曽根内閣から橋下内閣あたりまでは、雇用者数と非正規の割合の間に比例関係がありましたが、バブルが完全に崩壊した後の橋下内閣より後は、雇用者数がほとんど増えることがなく、非正規雇用者が増えていきました。しかしながら、小泉内閣からは正規雇用者が一定の割合でまた増えるようになりました。下図は小泉内閣から今回の安倍内閣までの状況をさらに詳しくみた図です。

雇用者数と非正規の割合
(クリック拡大)

小泉内閣から今回の2回目の安倍内閣まで、雇用者数が増えれば非正規の割合が増える関係にありますが、ここで注目すべきは民主党の鳩山内閣・菅内閣・野田内閣のプロットです。これらのプロットは1回目の安倍内閣・福田内閣・麻生内閣よりも相対的に上側、つまり同じ雇用者数に比べて非正規の割合が高くなっていると言えます。これが何を意味するかと言えば、民主党政権時代には自民党政権時代よりも非正規の割合が多かったということです。この値は年越し派遣村を契機として民主党(長妻氏を中心とする)から極悪人のように批判された麻生内閣の割合を大きく上回る値です。そのような実績の党が雇用者数を上昇させた今回の安倍内閣を猛批判しているのですからまったくをもって理不尽と言え、あきれ返ってしまいます(笑)。

しかも非正規雇用者の人達が正規雇用ではなく、非正規雇用を選択した理由も、民主党が日頃主張しているような階級闘争のようなものとは異なります。下図を見てください。

非正規雇用選択の理由

安倍内閣の発足以来、非正規雇用者が非正規雇用を選択した理由として、民主党がヒステリックに政府批判しているような「正規の職員・従業員の仕事がないから」や「家計の補助・学費を得たいから」という理由は減っていて、「自分の都合のよい時間に働きたいから」「家事・育児・介護等と両立しやすいから」「専門的な技能を生かせるから」という理由が増えています。つまり、非正規の方が正規よりも労働に課せられる環境条件が緩いので非正規を選択するようなトレンドが生まれていて、必ずしも「正規雇用よりも非正規雇用の方が劣る」という先入観をもつことは正しくないと言えるかと思います。


4エネルギー

民主党は原発について次のように説明しています。

国内の48基の原発は今は動いていません。
(2014年12月1日現在)

動いていない原発に多額の維持費がかかっています。
原発の維持費(念)
1.2兆円

出典:経済産業省調べ



原発については、クォリティを制約条件とした上で、他の電源との以下の各項目について比較を行うことで包括的な観点から精査すべきであると考えます。

・コスト(現有インフラのライフタイムを反映させることに注意)
・デリヴァリー(ベースロード電源としての供給可能性)
・リスク(ハザード×プロバビリティ)
・環境(CO2排出量等)

そんな中、「維持費」というコストのみで電源ミクスを評価しようとする民主党の主張はあまりにもナイーヴです。もし民主党が気にしているようにコストのみで議論するのであれば、エネルギー調達コストが廉価ですでにインフラが存在する原発を再稼働するのが最も安くて経済的であるという結論が得られます。

[みずほ総研(2011)]
2011年の総輸入金額は2010年から7.3兆円増加したが、そのうち年長(原油・LNG・石炭)輸入の増分が4.4兆円を占めている。

[資源エネルギー庁(2013)]
原子力発電の稼働停止に伴う火力発電の焚き増しによる2012、2013年度の燃料費の増加について試算したところ、2012年度は約3.1兆円、2013年度には約3.8兆円の増加と推計される。(1人あたり約3万円の負担)

[大和総研グループ(2014)]
約4兆円が原発停止に伴う輸入増の影響によるものである

[国際貿易投資研究所(2014)]
わが国の必要とする電力量は必要なだけ供給されると仮定したとき、2014年以降原子力使用をゼロとした場合の産業への影響をみると、2030年の実質GDPにおいて7.8兆円減(1.7%減)のマイナス効果をもたらす。2010年から2030年までの実質GDP の平均成長率はベースラインで0.18%のマイナスを見込んでいるが、原子力ゼロケースの成長率はマイナス0.27%とさらに成長が低下する。低成長経済のため伸び率の差はマイナス0.09%ポイントと小さいが、その伸び率のベースラインの伸び率に対する比率は1.5倍となっている。

[地球環境産業技術研究機(2012)]
原発代替に伴うコストは?―正しい理解のために―
原発代替に伴う中長期のコストや経済影響の推計は、筆者らが「中長期の電力供給と地球温暖化対策の分析・評価」で行っている。他方、他の研究者から、様々な試算もなされており、異なったような結論を導いているものも散見される。本稿では、そのような試算の中から典型的な報告について取り上げ、それがどのように算定されており、なぜ不適切なのかについて簡単にまとめた。(中略)今後のエネルギー戦略を立案するにあたって、どのような選択をするにせよ、正しい情報を基に意思決定を行っていくことが重要であり、このように誤った情報、偏った情報が氾濫することによって、重要な意思決定に不適当なバイアスがかかることは、避けたいものである。


ちなみに、蓄電コストが減少しない限り、風力や太陽光はベースロード電源としての運用はできないことも明記しておきます。電源ミクスの問題を単純化してポピュリズム選挙に利用するなど、日本の将来を真剣に考えていない愚の極みと言えます。


5支持政党

民主党は支持政党について次のように説明しています。

与党支持層は野党支持層の約2倍です。
でも一番多いのは無党派層です。

あなたが動けば、日本は変わります。
考えよう日本を


今回もし無党派層が動いたら、民主党はさらに当選者を減らすことになる可能性が高いと考えられます。各マスメディアの分析によれば、今回の無党派層は前回の選挙以上に自民党を支持しているということです。

[共同通信 2014/12/8]
無党派層も「民主党離れ」 12年衆院選よりも「自民支持」上がる

[毎日新聞 2014/12/8]
衆院選中盤情勢:無党派層は一転、与党…本社調査

[Yahoo]
ビッグデータが導き出した第47回衆院選の議席数予測


メモメモメモメモメモ


ホントに自ら墓穴を掘ってます(笑)

「考えよう、日本を。-データが語る、この国のすがた-」
ではなくて
「考えよう、民主党を。-データを分析できない、この党のすがた-」
の方が妥当なタイトルと言えます(笑)。

日本で2番目に多くの議席数をもった政党の軸となる選挙動画がこんなにツッコミどころがあるというのは本当に情けないと思います。とりわけ「格差」の分析に関しては小学生にも劣るような算数能力のなさを露呈しています。もしも民主党に少しでも良心があるとすれば、この部分をすぐにでも撤回すべきであると考えます。

なお、読売新聞によれば、共産党も与党批判の動画を作っているようですね。
[カクサン部]



最後に、具体的にどこの政党とは申しませんが・・・・

あくまで一般論として、世の中の諸事が生起するに至るメカニズムを完全に無視した上でただただ一次的に目に見える側面のみを問題視するという過度な単純化(Oversimplification)によってポピュリズム(populism)に訴える不合理な政策スローガン(標語)を作成すると同時に、論敵をネガティヴな言葉(Negative image words)悪魔化する手法というものは、公正な社会の形成にとって極めて不必要な障害に他ならないと考えます。

まともな議論をする野党が存在しないことは、
日本の国にとって本当に不幸なことだと思います。


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