アベノミクスを考えるためのマクロ経済の統計分析-3
(日本銀行)
前記事までに、多変量時系列変動を構成するマクロ経済の各指標値が
他の各指標値に対してどのような時間遅れをもった
どのような相関構造を呈しているかについて分析しました(↓クリック拡大)。
この記事では、これらのファクターの寄与度合を分析することで
日本のマクロ経済メカニズムに存在する因果の法則性を明らかにし、
アベノミクスの今後を考えてみたいと思います。
前記事では、多変量経済時系列変動の相互相関関数(上図)を
算出することで、各指標値間の相関性と時間遅れを分析しましたが、
その寄与度合いについては言及していません。
寄与度合いを明らかにするにあたっては、
まず各指標値がどのような周期変動を示しているかを見てみます。
次の図は各指標値のパワースペクトル密度をプロットしたものです。
横軸は月の逆数を表し、
例えば、0.2(=1/5)は5ヵ月、0.1(=1/10)は10ヵ月を意味します。
もう少し具体的な値を上げておくと次のようになります。
0.1667:半年
0.0833:1年
0.0417:2年
0.0278:3年
0.0167:5年
0.0084:10年
この図を見ると、平均株価には明確なピークは認められませんが、
他の観測値にはいずれも0.12付近(8ヵ月)と0.04付近(約2年)に
ピークが存在し、この周期の変動が強いことがわかります。
各周期における各指標値の寄与度合いを表す統計量として
相対パワー寄与率(relative noise contribution)があります。
ここで、株価(日経平均株価)と長期金利(10年国債利回り)に分けて
相対パワー寄与率を算出し、相互相関関数と対比しながら
各ファクターの寄与度合いとその挙動を分析したいと思います。
株価変動を形成する経済メカニズム
以下に、被制御変数として、
日経平均株価、コアコアCPI、外貨準備高、円ドルレート、
操作変数として、政策金利、マネタリーベースを用いて
各被制御変数のパワー寄与率のグラフを見ていきます。
各グラフの縦軸は寄与度合い、横軸は周波数(=月の逆数)を表します。
日経平均株価
日経平均株価の変動は、短周期(高周波数)領域では
日経平均株価の自己相関が卓越しています。
しかしながら、2年周期以上(0.04以下)の長周期(低周波数)領域では
円ドルレートに強く影響を受けています。
このことは円ドルレートの変動に
2年以上観測されていないような大きな円安変動を生じさせれば、
株価は上昇する可能性が高いということです。
これまでの間に、
安倍首相はマネタリーベースを増やすという口先だけで円安誘導しましたが、
このことによって十分に円ドルレートの長期変動を創出したと言えます。
円ドルレートの推移の形状からすれば、
7年周期(2006年のピーク以来)にも匹敵するような大変動です。
ただし、円安の1年後には押し下げ効果が生じる可能性があります。
これを相殺するには、
(1)外貨準備高を増やす、(2)マネタリーベースを増やす
(3)金利を下げる(実際には現在のレベルよりも下げることは困難)
のいずれかが必要となります。
コアコアCPI
デフレの指標であるコアコアCPIに対するパワー寄与率をみると、
短周期から長周期にわたって他の要因にはほとんど影響を与えず、
自己相関がそのほとんどを占めています。
物価変動を制御することが困難であることがわかります。
外貨準備高
国際収支としての外貨準備高を増やすには、
マネタリーベースを増やすのが即効性があると言えます。
円ドルレート
口先ではなく、経済政策を持って円安誘導するには、
(1)株価の上昇、(2)外貨準備高の上昇(約半年の時間遅れを伴う)
などが必要となります。
マネタリーベースを増やすこと(量的金融緩和)は、
最初の1年はやや円高誘導となり、以降に円安誘導となります。
長期金利変動を形成する経済メカニズム
以下に、被制御変数として、
10年国債利回り、コアコアCPI、外貨準備高、円ドルレート、
操作変数として、政策金利、マネタリーベースを用いて
各被制御変数のパワー寄与率のグラフを見ていきます。
10年国債利回り
他の経済指標値の影響を受けやすいと言えます。
短周期から長周期にわたるコアコアCPI(物価)の上昇は、
約8ヵ月の時間遅れをピークに
10年国債利回り、つまり長期金利を上昇させます。
短周期から長周期にわたる外貨準備高の上昇も
長期金利の上昇に即効性があります。
マネタリーベースの上昇も約1年半の時間遅れを伴って
長期金利を上昇させます。
これらの各要因による長期金利の上昇効果は、
アベノミクスの最大の欠点と考えられます。
コアコアCPI
ここでも、コアコアCPIは自己相関が大きい結果となっています。
比較的短周期(3年)の国債利回りの上昇ノイズが
でコアコアCPIを上昇させる効果があるのがわかります。
外貨準備高
外貨準備高の上昇に即効し、約8ヵ月以降は下降に貢献します。
マネタリーベースの上昇は短周期から長周期にわたって
外貨準備高の上昇に強い影響を与えます。
円ドルレート
1年周期をピークに比較的短周期の国債利回りの上昇が、
約1年の時間遅れを伴って円安誘導します。
以上の統計分析結果から総合判断すると、
リフレ派が言うように、アベノミクスによって株価を上昇させ、
それによってデフレを脱却する可能性も十分にあると考えられます。
ただし、反リフレ派が言うように、デフレ脱却のプロセスにおいて
長期金利を上昇させてしまう可能性も高いというのが結論です。
アベノミクスを成功させるには、徹底したリスク管理の下で
日本の経済界が相互協力して景気を創出することで、
既存の経済メカニズムの因果の法則性に変化を与えることが
必要不可欠であると思います。
具体的には、インフレターゲットではなく、長期金利ターゲットを設定し、
その範囲内でデフレ脱却のロードマップを実現していくことであると思います。
時間遅れを伴う悪影響のファクターを達成スピードでキャンセルさせるような
知恵も重要であると考えます。
そして何よりもキーとなるのが公共投資です。
マスメディア等によってただただ悪玉として宣伝され、
国民にネガティヴな印象を植えつけられてきた公共投資が
デフレレジームからの脱却において有効なコントローリングファクターとして
利用できる可能性があります。
これについては、また別の機会に分析してみたいと考えます。
アベノミクスの成功をお祈りします。