勝川春潮は「好色図会十二侯」で色
事が好きな男女の「十二候」を描く。
その時季の絵には女と男の詞(こと
ば)が添えられ、これを愉しむこと
ができる。
<勝川春潮と「好色図会十二候」>
勝川春潮の生没年は不詳。安永から
寛政(1772-1801)にかけて活躍
する。
役者絵の勝川春章の門人だったが、
鳥居清長風の紅嫌いの美人画を描き、
文才もあり、画業を捨て窪俊萬の門
人となる。
<「好色図会十二候」>
「好色図会十二候」の暦は陰暦で現在
より1ヵ月ほど遅い時節になる。
第1図(2月)
床の間に紅梅あり。2月の初午の日、
店中で稲荷神社参りで、若夫婦が留
守番役で、この好機を生かして。
男
「今日はみんな王子稲荷へ行って留守
だから、俺も穴稲荷へ参ろう」
女
「なんぼ初午でもお前の者はあんまり
太いから息がはずむ。アアいっそもう、
ヲヲもモウモウ、いくいく」
第2図(3月)
窓の外の満開の桜をふたりで見る。
その枕元には白酒(隠水)の茶碗
(茶臼)が置かれている。
男
「なんぼ三月でもまるで雛祭の白酒
臼のようだ」
女
「どうもこんなやりかたでは気分が
のらないから、いつものようにしてお
くれよ。もう外れそうだよ。エゝモウ」
男
「この後で正常位しよう」
第3図(4月)
町家の二階の窓ぎわ。
女は目を閉じて窓の敷居に頬杖をつき、
片足を上げて踏ん張っており、若い亭
主が昼間から女房に迫っている。
男
「俺は半日でもしないと気色が悪くなる。
今日もこれで九番目だ。寝てからまた七、
八番しよう。」
女「アゝ気が遠くなるようだ。もっと奥
の上の方を、それ〱又いく〱、アゝヲゝ
〱」
空にはホトトギスが鳴きながら飛んでいる。
第4図(5月)
若い女がたまりかねて恋人の家に
押し掛ける。
男が目をやる庭には、雨が降って
いる。女は目を閉じ、男の乳首を
引っ張り、
女
「きつく抱き締めてくんな。アゝ〱、
いっそもう〱それ〱、アゝ〱〱もう
〱 お前のような 可愛い者はない。
どうぞ 一生こうして いたいものだ」
男
「雨は降る。今日は誰も来る気づかい
はねえ。とんだ気の利いた五月雨(さ
みだれ)だ」
第6図(7月)
窓の外に七夕の笹竹が見える町屋の寝
室。
ふたりとも蚊帳から外にずり出し、女
房は、天ノ川での男星と女星の年に一
度の逢瀬を想い
女
「今夜のような気持ちのいいこよはねえ。
大方、天の川のふたりもこうなるだろう。
それ又アゝ、ヲゝヲゝ」
亭主
「なんだか俺もいき続けだ、アゝいゝいゝ」
浮世絵春画の特徴。
春画では女性が男より上位で、とりわけ
女性が生(性)を愉しんでいる。
<参考>
<鈴木春信(1725-1770)。明和年間(1764-1772)活躍>
鈴木春信の春画(「風流 艶色真似ゑもん」)ー男と女の物語(40)
<磯田湖龍斎(1772-1789)。天明期(1772-1789)に活躍>
磯田湖龍斎の春画「風流十二季の栄花」ー男と女の物語(141)
2021.7.24
<勝川春潮(生没年不詳)。安永から寛政(1722-1801)活躍>
2021.7.25
勝川春潮の春画「好色図会十二候」ー男と女の物語(143)