磯田湖龍斎と鈴木春信

湖龍斎(1772-1789)は鈴木春

信の門人で、磯田湖龍斎と号し、

姓が磯田。鈴木春信亡き後天明期

に活躍し、人物の描写は春信と似

ている。

 

鈴木春信(1725-1770)は、錦

絵の考案者で、古い中国の時代の

画家仇英に私淑し、春信の春画は、

中国春画のようで、可憐な女性が

性を愉しむ絵に詞書(文)、書入

れ(セリフ)がはいる。

 

磯田湖龍斎の春画「風流十二季の栄花」

湖龍斎の春画は春信より背景描

写が詳しい。

画は古代中国からの伝統を受け

継ぎ12図をもって構成される。

湖龍斎の「風流十二季の栄花」

は1年12か月の江戸時代の性風

俗を描く。春画には、俳句があ

り、暦は陰暦で現在より1ヵ月

ほど遅い時節になる。

 

孟春(1月)

初夢や 春に女夫(みょうと)の

ゆめみあひ

 

如月(2月)

年の初めの寺小屋。少年は墨を摺

りながら勃起した指焼草を忍ばせ

ている。

少年

「そりゃ、温かでよかろう」

少女

「わたしゃ、痛くっても堪えて

いるによ」

障子の破れ目から覗いている

ものがいる。

 

 

初午(はつうま)や 今日を初めの 指焼草(さしもぐさ)

 

桜月(3月)

幕を張って、花見の男女が、興に

のり一儀におよび、越(こし)の

海の如く波うち幕の外へ出てしま

う。

女「早くすましてしまいな」とい

い、男は狐の面をかぶり、通りす

がりの娘に興がり、娘は「おお恐

い」といい見ぬふり。

 

 

毛氈(もうせん)や花の時打ツ越の海

 

磯田湖龍斎の春画「逸題組物」

安永5(1776)年作の「逸題

組物」。

「逸題(いつだい)」とあり、

題名は不明で、描写は春信の春

画と違い、人物がふくよかであ

る。

12図の各図には書き入れがあり、

四季折々の景色・花がひそかに

描き込まれ月次(つきなみ)春画

として構想されている。

 

第6図は6月。

蚊帳と団扇があり、ときは6月。

間男

「いやもう いやもう、大の待

ちかね山。 ちょっと ちょっと」

浮気女房

「今そっちへ行くよ。ここでは亭

主が目を 覚ますわな」

 

 

第9図は9月。

若い男女の傍に満開の菊がある。

縁側の若い男女の噺。

「アレサ、人がくるよ。あっちでさ」

若衆

「じきにしまう。そりゃそりゃいくぞ」

 

 

 

ピカソと浮世絵「逸題組物」

縁側の若い男女の浮世絵を持って

いたパブロ・ピカソ。

ピカソは日本の春画に興味をもち、

「私は大好きだ。たくさん持って

いる」という。

そのひとつが「逸題組物」の第9図。

晩年ピカソは、湖龍斎の春画「逸題

組物」に影響を受けており、幾つか

の銅板画を制作する。

 

 

 

ピカソの銅版画

 

 

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