磯田湖龍斎の春画「風流十二季の

栄花」。

彼は鈴木春信の門人で、姓が磯田

で湖龍斎と号し、春信亡き後天明

期に活躍する。

 

湖龍斎の春画「風流十二季の栄花」

春画のもとは古代中国にあり、

この伝統を受け継ぎ、12図を

もって構成されている。

日本では四季(12か月)を主題

にする。

 

湖龍斎(1772-1789)の「風

流十二季の栄花」は、1年の行事

に懸けた俳句を主題にし、性風俗

を春画で描いている。

暦は陰暦で現在より1ヵ月ほど

遅い時節になる。

 

孟春(1月)

若い男女が盤双六しているうちに

居眠りをし、同じ初夢を見ており、

ふたりが手に手をとって歩む情景

が描かれる。

 

 

 

初夢や 春に女夫(みょうと)のゆめみあひ

 

如月(2月)

初午(はつうま)や今日を初めの

指焼草(さしもぐさ)

1年の初めの寺小屋にて。少年は

墨を摺りながら

少年

「そりゃ、温かでよかろう」

少女

「わたしゃ、痛くっても堪えてい

るによ」

と少年が勃起した指焼草を少女に

忍ばせている。

障子の破れ目からこの一部始終を

覗いてるものがいる。

 

 

初午(はつうま)や 今日を初めの 指焼草(さしもぐさ)

 

桜月(3月)

毛氈(もうせん)や花の時打ツ

越(こし)の海

 

花見の男女が、張った幕の内で一

儀におよび、女が越(こし)の海

の如く波うち、幕の外へ出てしま

う。

「早くすましてしまいな」といい、

男は狐の面をかぶり、通りすがり

の娘に興がり、娘は「おお恐い」

と言い見ぬふりをする。

 

 

 

毛氈(もうせん)や 花の時打ツ 越(こし)の海

 

卯月(4月)

花の名も よしや卯月の 色すがた

 

稽古屋の二階、男が女師匠に稽古を

つけてもらっている。

男は欲情がうずき、女師匠に仕掛け

ると、

女師匠

「エゝも、いっそどうしょうのう」

門人

「おれも もういくぞ 〱」

窓の外には卯花が咲き乱れ、空に

は初夏のホトトギスがするどい鳴

き声を発しながら飛んでゆく。

 

 

花の名も よしや卯月の 色すがた

 

皐月(5月)

菖蒲湯に 濡れの縁有り 入梅哉

 

端午の節句の日、女房が菖蒲湯に

入る姿を見て、亭主が欲情をもよ

おす。

この後、風呂場の縁では濡れがは

じまり、露(梅雨)となることで

あろう。

5月5日は田植えを前にはらたく女

性の慰労日で、女の宿ともいう。

 

 

菖蒲湯に 濡れの縁有り 入梅哉

 

水無月(6月)

一網(ひとあみ)にすくひ上げてや

海月(くらげ)とり

 

すでに庭先に朝顔が咲く夏の朝。

蚊帳ははずれており、女房は蚊

帳の外に顔を出し、目覚めた亭

主が女房の後ろから、ひと網に

海月(尻)をすくいあげ攻める。

亭主

「これはきつい鶏鳥(にわとり)じゃ」

女房

「アゝ、もっと上を〱」

 

 

一網(ひとあみ)に すくひ上げてや 海月(くらげ)とり

 

つづく

磯田湖龍斎の春画「風流十二季の栄花」

文月(7月)

命毛の あそばぬ筆や 男七夕

壮月(8月)

新鷹(あらたか)の またゝく間なし 玉兎

菊月(9月)

寸の間に 尺を越えたり 紅葉鮒(もみじぶな)

良月(10月)

お手づから いただくものや 冬牡丹

神楽月(11月)

帯解くと いふ名訝(いぶか)し ぬくめ鳥

臘月(12月)

寒声や ちょうど調子の 合うた同士

 

 

2021.7.20

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磯田湖龍斎の浮世絵(春画)ー男と女の物語(139)