(冒頭に言っておきます。この映画についてのネタバレは限りなくゼロに近いと思います。)
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ちょっと前に観た「ドライブ・マイ・カー」が良かったので、
日本の映画も悪くないなと、
だから今話題になっている「パーフェクト・デイズ」も観てみようと、
すると監督はあの「パリス・テキサス」のヴィム・ヴェンダース。
あれ、日本の映画じゃないの?
でも、ソフィア・コッポラの「ロスト・イン・トランスレーション」みたいに日本が舞台でもアメリカ人の話、みたいなのとは
違う。
これはヴィムが撮った完璧な日本の映画でしょう。
観た感想をいうと、
これは良かった。
すごく良かった。
観てよかった。
大きな意味で希望を与えられた。
映画の中には失意みたなものも描かれていて、
エンディングも「ああー」っていう、
目に見える希望をしめしたものではなくて、
自分の感情をどこに置いていいのか、わからなかったんだけど。
2日、3日経っていくうちに、
「ああ、これでいいんだ。」って
思い始めるようになってきた。
でもドイツ人のヴィムがよく日本人を通してこんな映画撮ったな、と感心と驚嘆が入り混じっていたのだけれど、
彼は日本の監督、小津安二郎に影響を受けていたと知った。
ああ、小津安二郎か。
別にずっと知らなかった訳ではない。
ただ、なんとなくイメージ的に、
日本の普通の日常や家族愛なんかをうまいテクニックを使ってえがいてるんでしょ?
と、勝手な想像をしていたので、あまり興味がなく観るのをずっと避けてきた。
でも今回、「パーフェクト・デイズ」があまりにも良かったので、
そのヒントは小津映画にあるに違いないとふんだ。
よし、じゃあそろそろこの辺で腹を決めて、
小津映画を観てやろうじゃねえか。
ところが、先週は金、土、日と仕事と演奏、プラス、親会社の副社長が今月いっぱいで辞めるので、彼と飲みに行ったりして、(彼とは26年前に彼がまだ平社員だったころに出会って、長く知っている)時間もなければ疲労もたまった。
月曜日は死んだように、一日横たわっていて、おまけに胃が強烈に痛い。
飲み過ぎだ。
太田胃散、ジンジャーティー、おかゆ、中国の漢方薬。
身体の回復を優先させた。
火曜日も早朝から仕事で、一日じゅう「パーフェクト・デイズ」の事が頭を離れなかった。
よし、明日、あさってはまた休みだ。
今日の夜にいよいよ観よう。
最近、買ったプロジェクターでベッドの横の白い壁に映して観よう。
壁に映すと幅1.5メートル、高さ 1.2メートルのスクリーンになる。
なかなかいい感じで、特に白黒映画はまるで昔の劇場で観ているようないい雰囲気が出る。
しかし、今はまだ部屋を真っ暗に出来る暗幕のようなカーテンが無いので、辺りが暗くなるまで待たなければならない。
仕方なく夕食に永谷園のお茶漬けを口に注ぎ込み、たくあんをぱりぽりかじりながら待った。
オードリー・ヘップバーンの「暗くなるまで待って」というところだ。
よし暗くなったぞ。
さて何を観よう。
やはり一番人気のある「東京物語」だ。
ユーチューブをプロジェクターにつなぐ。
音声をブルートゥースでスピーカーに飛ばす。
部屋を真っ暗にしてスタート。
案の定、尾道の老夫婦が大きくなった子供達を東京に初めて訪ねていくというストーリー。
なんとなく平穏無事な感じで進んでいく。
尾道の言葉は自分の地元、岩国の言葉に似ているので、自分が育った環境を思い出す。
これから何かハプニングが起こるのだろうか?
不安に思いながら観続ける。
子供の中にいじわるな次女がいて、彼女は両親が泊まりに来ていることをあまりよく思っていない。
彼女ももういい大人でヘア・サロンをやっている。
彼女はみんなをうまく口車にのせて、両親を熱海旅行へ追いやってしまう。
その辺りから展開が面白くなり始めた。
まあ、あまりストーリーを話してもしょうがないので、ここでは書かない。
ただ、まあ、家族愛とはなんなのか?
親と子のつながりとは何なのか?
それは歳をとれば形が変わってしまうものなのか?
という世界中だれもがどこかで考えずにはいられない普遍的テーマを取り上げている。
それを戦後まだ8年しかたっていないのに、もう大都会に復活している東京、
そしてまだ昔馴染みの風景がそのまま残っている尾道と、
うまくコントラストを引き出して描ききっている。
素晴らしい作品だ、と思った。
でも若いころに観ていたら、恐らくわからなかっただろう。
自分は今まで観る事を待たされていたのだ。
1953年にこの映画が発表された時、世界中が驚愕したという。
これはある人が述べていた事をそのまま、書くのだが、
当時1950年代といえば特にアメリカは西部劇が流行り、ジョン・ウェインがライフルを握り、セクシーなエルビスがステージで歌い、セックスに殺人事件、あるいはアレキサンダー大王の偉業などにみんなが酔いしれ夢中になっている時代だった。
それが、小津が全く極々普通の家族の姿を通して、人間の普遍的テーマを提示してしまったのだ。
西洋の知識人達はショックだった。自分達が浮かれてはしゃいでいるうちにこんな映画が現れるなんて。
また映画を撮る技術も新しく独自でユニーク。
知識人達も自分達の世界を全く別のアングルから見ざるをえなかった。
恐らく「パーフェクト・デイズ」や「東京物語」を観て、自分に起こった事も同じだろう。
もちろん自分もいつもヒーローに憧れている。
でもそうじゃないんだし、そうでいんだ、という事。
ちなみにこの「東京物語」、名優揃いだ。
後に寅さんに出てくる笠智衆、当時の美人女優、原節子、同じく美人女優、香川京子、黒沢映画や水戸黄門で有名な東野英二郎、後、後に高倉健や片岡千恵蔵の映画で悪役スターになる安倍徹もちょい役で出ている。
しかし、意地悪な次女を演じる杉村春子の演技は素晴らしい。もう首をしめて殺したくなるくらい憎らしいし、ちょっとしたセリフや仕草がいちいちうまい。舞台の人だろうね。
さあ、今回も長々と書きました。
本当は「パーフェクト・デイズ」と「東京物語」は別々に書こうと思ったのだけど、一緒にした方がいろいろ辻褄が合うので、そうしました。
最後まで読んでくれた方には感謝します。