7歳の時に父親に「おい、映画を観に行こう」と言われて市内の映画館で観たのがこの映画「チャンプ」だ。何かとっても悲しい映画だったな、という印象だけ覚えていて、ストーリーはもう全く忘れていた。自分と同じ誕生日のフェイ・ダナウェイが出ている事さえ知らなかった。いやー、これは泣けますよ。この子役の演技が素晴らしい。この子がこの映画の全てを引っ張っていく感じ。70年代のフィルムの画質も好きだしね。味がある。80年代は何か中途半端に進歩した感じで映画も音楽もあまり好きではない。ちなみに田舎の映画館は基本2本立てなので、この映画の同時上映は大竹しのぶの「ああ、野麦峠」で、その映画も悲惨なストーリーなので、映画館を出てから家に帰るまで、父親と何も言葉を交わさなかったような気がします。でも父親も亡くなったので、ある意味、いい思い出ではありますね。
あれはもう32年前の話だ。
語学留学の為にニューヨークにやって来た。
マンハッタンから電車で40分ほど北上した町、ブロンクスビルにある小さな大学の外国人の為の英語コースを一年程受けた。
キャンパス内にある寮に住んだ。
もちろん、普通のアメリカ人の大学生達も周りにいる。
まあ、色んな奴との思い出があるが、今日はデイヴについて書こう。
彼はオレより2歳年上の短い金髪で痩せっぽちの男だった。
割と誰にでもフレンドリーで、どこかイカサマ師みたいな感じもあった。
悪いやつじゃなかったし、オレも好感を持っていたんだが、彼は寮でも自分の部屋を持っていなくて、
空いてる部屋に勝手に住んだり、オレの部屋にも寝泊りしていた事もあった。
まあ、ちょいワルの憎めないやつ、という感じかな。
彼はエリック・クラプトンを崇拝していた。
ある時、オレが大学の隣町のフリートウッドのバーで何曲かビートルズなんかの曲をギターで歌った時に彼はそこにいて、
オレに対して一目置くようになった。
でもオレも初めての海外生活。
気が滅入る日もあってね。
自分の部屋にこもっていたりもした。
ある土曜日、授業は無くてオレは夕方までなにもせずにベッドでゴロゴロしていた。
誰かがドアをノックした。
デイヴだった。
「おい、カズ。軽くその辺のバーに飲みにいかないか?」
あんまり気が乗らなかった。そういう気分じゃなかった。
「うーん、今日はやめとくよ。」
「おい、行こうぜ。ずっと部屋にこもってるのも良くないよ。
軽く2,3杯ビールを飲んで帰ってくるだけだ。」
彼がしつこく誘ってくるので、こっちも折れて、
「うーん、オーケー、ビール2杯だけなら付き合うよ」
という事になった。
彼は色褪せた赤い車に乗っていた。
車種は思い出せない。
中古のアメリカ車だ。
彼がエンジンをスタートさせて、ラジオをつけた。
たまたま、ある音楽番組でエアロスミスのスティーブン・タイラーがゲストでMC/DJを務めていた。
「ハーイ、オレはエアロスミスのスティーブン・タイラーだ。そこの君、土曜の夜にそんな暗い顔してちゃだめだ。オレ達の曲を聴いてゴキゲンに過ごしてくれ!」
そしてエアロの「ジ・アザーサイド」がかかった。
なんか、急に気分が良くなった。
楽しくなった。
そうだ、これがアメリカだよ。
このノリだ。
ロックンロール。
オレ達は近所のバーでバドワイザーの瓶を何本か飲んで、とりとめのない話をして寮に帰ってきた。
「デイヴ。」
「何だ?」
「今日は誘ってくれてありがとう。楽しかったよ。」
「ああ、また行こうぜ。」
ある事に気付かされる時がある。
自分がこちら側の人間かあちら側の人間か。
幼い頃からそういう事に敏感であったし、今もそうなのであろう。
オレが言うあちら側の人間とは、この世の中を形成している大半の人々だ。
まあ、サラリーマン気質の人達といいうところだろうか。
作られたレールの上に乗っかって、特に自分の考えもなく一生を終えていく人達とも言えるかもしれない。
オレもそのレールに乗っかって生きていく事も出来た。
でもそうしなかった。そうじゃない何かが自分の中にあったし、
それに忠実だったからだ。
そうする事によってどこかで野垂れ死にしてもいいと思った。
自分に嘘をついて、嘘をついて、それから逃れるために、苦し紛れに、やっている行動が目に付く。
オレはこれからどうなろうとも、自分には正直だ。
チャールズ・ブコフスキー。
彼がその模範だ。
ロンドンに留学している時にクラスの先生がお薦めしてくれた。
彼は作家でもあり、詩人でもある。
彼の小説はほとんど読んだ。
酔いどれ詩人で言動も破天荒なんだけども、どこか憎めない。
U2のボノも彼が好きでコンサートに無料で招待していた。
彼と出会えてよかった。