フランス人の彼女 | カズモのロックなブルックリン▪︎ライフ!

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ブルックリン在住のシンガーソングライター、わたくしkazmo grooveが日々の暮らしや感じた事を綴っていきたいと思います。

今からもう12年も前の話になる。

 

オレが40歳の時だ。

 

あの頃、オレはイーストビレッジにあるロシアのバーで歌っていた。

 

確か、夜8時スタートで夜中の12時までの長丁場だ。

 

その日も4時間の演奏をして最後の曲を演っている時だった。

 

ある若い女の子が二人の男性と一緒に店に入って来た。

 

なぜか気になった。

 

でもオレは最後の曲を終え、「グッドナイト!」とマイクを通して告げた。

 

「えっ、もう終わりなの?私、今来たばっかりなんだけど。」

 

彼女はオレに言いに来た。

 

「悪いな。オレの今日の仕事は終わりだ。でも、どうしても聴きたいなら、あんたのテーブルに行って2,3曲やってもいいぜ。」

 

「ああ、来て、来て!」

 

オレはギターを持って彼女達が陣取っている店の角のテーブルに行った。

 

「ところであんた、どこから来たんだい?」

 

オレは彼女に訊いた。

 

「私? パリからよ。」

 

「フランス人か?じゃあマヌ・チャオ知ってるだろ?」

 

「もちろん、知ってるわよ。」

 

オレはマヌ・チャオの「クランデスティーノ」という有名な曲をやった。

 

まあ、みんな酔ってるし、うけにうけた。

 

その後、彼女としばらく話した。

 

「ニューヨークにはどのくらい住んでるの?」

 

「もう20年ぐらいかな。」

 

「まだ、ここに居たい?」

 

「いや、君が望むなら、違うバーに行ってもいいぜ。」

 

「いや、そういう意味じゃなくて。ニューヨーク。」

 

「ああ、そういう意味か。そうね、しばらくはここに居るかな。」

 

彼女と一緒に来た二人の男性の一人はポーランド人のヤヌシュ。

 

彼とは元々面識があった。

 

彼は当時、イーストビレッジにアパートがあった。

 

「よし、みんなこの後はオレのアパートでパーティーを続けよう!」

 

みんなで彼のアパートに行った。

 

オレが音楽担当で、みんな自由気ままに踊っていた。

 

コカインを鼻から吸った。

 

「これはコロンビア産のピュアなやつだぜ!」

 

ヤヌシュが言う。

 

ひと段落して、みんな椅子に座りこむ。

 

オレはその女の子の足元に座っていた。

 

なんかとても懐かしい気持ちになった。

 

初めて会ったのに。

 

今、振り返って思うのは彼女は前世で会っているんだよね。

 

オレは輪廻転生を信じるからね。

 

彼女はパリの大学を卒業したばかりの23歳の女の子。

 

卒業旅行としてニューヨークとオーストラリアに行くという事を決めていたらしい。

 

そこでニューヨークで会った男がたまたまオレだった、という事だ。

 

オレ達は恋に落ち、恋人たちがする事は全て楽しんだ。

 

でも、恋が絶頂の時に彼女はオーストラリアに旅立ってしまう。

 

オレはロックバンドのリードシンガーで、まあ、そこそこモテはした。

 

いろんな女性がオレの部屋にやってきた。

 

でも、深く恋に落ちた、となると片手の指で数えるほどだ。

 

彼女はもちろんその一人だ。

 

でもオレは彼女の卒業旅行の途中で出会った一人に過ぎない。

 

オレも普通にそう思ってやり過ごせばいいのに、彼女の事が忘れられなかった。

 

彼女はオーストラリアで同じ旅をしている男の子に出会い、一緒に旅をしていたみたいだ。

 

元々、そういう目的で旅をしているのだから、当然なんだけど、

彼女と恋に落ちてしまったオレからすれば、苦しい日々だった。

 

そんなある日、彼女がニューヨークに帰ってくる。

 

独立記念日で花火が飛び交っている頃だ。

 

そして再び会った。

 

でもどうも態度が違う。

 

彼女の心はオーストラリアで出会ったイスラエルの男の元にあった。

 

オレは彼女の目の前で涙があふれてきた。

 

彼女は手ぬぐいを出してきた。それはオレが以前、彼女に贈ったものだ。

 

「他の男が好きなのに、なんでオレが贈った手ぬぐいを出してくるんだよ?」

 

オレは彼女を恨んだ。

 

でも、彼女が何よりも好きだった。

 

そんな時にニューヨークのジプシー・フェスティバルにオレのバンドが出演する。

 

オレはダメ元で、彼女に来てくれとせがむ。

 

なんと、彼女はやって来た。

 

ハッキリ言って、クソみたいなフェスティバルだったんだけど、

彼女が来てくれた事で全てが帳消しになった。

 

丁度、その時にカリブのフェスティバルがブルックリンで行われていた。

 

オレ達はそこをめざした。

 

そのフェスティバルに合流した。

 

すごいエネルギーだ。

 

そこで、オレとフランス人の彼女は他の仲間たちと別れ別れになってしまった。

 

そこがロマンチックなところ。

 

まるで中森明菜のミ・アモーレみたいな世界。

 

その夜、オレは彼女の部屋で一夜を過ごした。

 

でもとてもプラトニックな世界。

 

セックスなど無いよ。(その時はね。)

 

大好きな女をこうして背中から抱きしめているのに。

 

朝になると、オレは仕事に行く。

 

仕事が終わる頃になると、彼女がオレの店まで迎えに来る。

 

そしてそのまま二人はニューヨークのいろんなレストランで食事をして、いろんな話をして、オレの家に帰る。

 

そんな日々が続いた。

 

彼女はわりと穏やかな人だったけど、それでも喧嘩はあった。

 

オレはロックしている時は激しい人間に変わる。日本風に言えば肉食動物系というのだろうか?

 

でも普段はおとなしい草食動物系だ。

 

だから、おとなしい人々もオレに接する時は本音を見せる事がある。

 

へえ、あんたにもそんな面が眠っているんだな!という感じ。

 

彼女もオレにそれを見せる事があった。

 

家に帰っていきなり、部屋にあるものを手あたり次第オレに投げつけてきたり。

 

おいおい、どうしたんだ、いきなり?

 

という感じ。

 

彼女もあとで、

 

「私は普段こんな感じじゃないのよ。でもあんたに対してはもっと自分を表現してもいいんじゃないか、という風に感じる時があるのよね。」

 

ああ、そう?

 

でも、投げるものを考えてくれよな。

 

毎回そうなってもこっちは困るぜ。

 

彼女との暮らしもそう長くは続かなかった。

 

ある日、彼女がヨーロッパに帰る時が来る。

 

「この先どうしたいの?」

 

彼女が訊いてくる。

 

「わかんねえ。」

 

オレはバンドがあった。

 

その時に全てを投げ出して、彼女と一緒にヨーロッパに行く事は出来なかった。

 

ニューアークの空港で彼女を見送った。

 

頭の中が真っ白になった。

 

そんな事初めてだ。

 

自分がどこにいるのか、何をしているのか、わからなくなった。

 

空港内をしばらくあてもなくうろうろしていた。

 

ようやくバスに乗って家に帰った。

 

また、ひとりぼっちのオレがいた。

 

その後はしばらく荒れた日々が続いた。

 

ストリップ・クラブに通った。

 

もう誰とも恋に落ちるものか、と思った。

 

でもそれが人生だよね。

 

今、彼女はベルリンに住み、子供を出産したばかりだ。

 

でも、今はお互いおだやかな気持ちでいる。

 

彼女がオレの事をどう思っているかは知らないが、

 

オレは彼女の幸せを願うばかりだ。

 

シェブールの雨傘という心境かな。