春の嵐で空路大混乱 ~平成27年3月1日福岡空港滑走路閉鎖と羽田空港マイクロバースト 第2章~ | ごんたのつれづれ旅日記

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バスや鉄道を主体にした紀行を『のりもの風土記』として地域別、年代別にまとめ始めています。
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「春の嵐で空路大混乱~平成27年3月1日福岡空港滑走路閉鎖と羽田空港マイクロバースト 第1章~」の続き)

平成27年3月1日の日曜日夕刻に福岡空港で起きた全日空機立ち往生事件は、午後6時10分から7時45分まで同空港が滑走路が閉鎖するという事態を招き、発着便の遅れ、飛行中の航空機の引き返しやダイバートなどで大混乱になった。



 
定刻ならば19時に福岡を発つ羽田行きJAL330便が、滑走路オープンに伴って搭乗を開始したのが、午後8時過ぎのことである。
1時間もの待ちぼうけを食らった乗客たちは、それでも安堵の表情を浮かべながら搭乗口を次々と通っていく。
つい先程まで強ばった表情だった係員さんも、打って変わってにこやかに声をかけてくれる。

「お待たせ致しました」
「行ってらっしゃいませ」

この夜のJAL330便の機材は、ボーイング777-200型機である。
指定された前方左側の窓際席に収まった僕は、ホッとひと息ついて、窓外の暗い空港風景に目をやった。
どの飛行機の窓からも明々と光が漏れ、中で乗客たちが搭乗している様子が見てとれる。
手荷物を入れたコンテナが、次々と飛行機の貨物室に吸い込まれていく。

これから、福岡空港は、1時間半あまり停滞した鬱憤を晴らすように、一斉に各方面へ向けて飛行機が飛び立っていくはずであった。
ゴーッと重々しい爆音が繰り返し響いてくるのは、上空待機をしていた便が、続々と着陸しているのであろう。
空港が息を吹き返した様に、何となく胸が熱くなった。


 
1972年に制作されたアメリカ映画「大空港」は、様々な人間模様とともに、空港という巨大組織の裏表をきっちり描き出した名作である。
軸となるのは、雪の吹きだまりに突っ込んだ航空機が塞いだ滑走路を、どのように復旧するのかという展開であった。
乗客が持ち込んだ爆弾が爆発して満身創痍の飛行機が接近してくる中を、ジョージ・ケネディ扮する作業員の荒技によって航空機が移動された場面は、なかなか感動的である。

「滑走路2-9から障害物が取り除かれた!」
「滑走路2-9点灯!」
「これから滑走路の点検を行う」
「了解、待機します」

歓声が上がる中を、バート・ランカスター演じる主人公の空港長が、車で滑走路を走り抜ける。

「滑走路に障害物なし!」
「コントロールよりTGA002便、進路を285に向けよ!今、滑走路2-9の封鎖が解除された。レーダー誘導する」
「TGA002、了解、助かったよ、ありがとう!」



福岡空港でも、ブレーキの故障で立ち往生したB787を動かした時には、同じように感動的な光景だったのだろうか。

この映画の当時の最新鋭機はボーイング707であったが、それより7世代あとのボーイング777-200は、定員375名の大型機であるから、搭乗に要する時間が長くてもどかしい。
乗り込んでくる人の波がひと区切りつき、扉が閉められて、

「ドア・モードをアームドにして下さい」

との業務放送が流れたが、客の荷物の収納やシートベルトのチェックを行っていたCAたちは、その後もなかなか自席につこうとしない。
チーフらしき年配のCAが、何度も電話でどこかと話しているが、その表情が何となく曇ったように見えて、嫌な予感がした。
滑走路が閉鎖された時の搭乗口の係員さんが見せた表情と、全く同じだったからである。
通路を行き来するCAの動きが慌ただしくなり、チーフが意を決したようにマイクを兼ねた受話器を取り上げたのは、10~20分程が経過した頃である。

「御搭乗の皆様、お急ぎのところをお待たせして申し訳ありません。ただいま、キャンセルなさったお客様の手荷物を降ろす作業を行っております。この作業に30分ほど時間がかかる見込みでございます。離陸まで、もう少々お待ち下さい」

なるほど、と思った。
航空機は、乗らない客の荷物を積んで離陸することは絶対にしない。
もちろん、荷主にとっても、乗りもしないのに荷物だけ他所に運ばれてしまっては困るであろうし、また、航空会社としても、テロ防止の観点から、搭乗者と荷物の持ち主が必ず一致するよう、厳重にチェックすることになっている。

乗客は待合室で待たせて、手荷物だけを早々と積んでしまったとは、先走り過ぎて、いかにも段取りが悪い。
この段階で荷物を降ろしているということは、キャンセルした客が、まだ空港内にいるのであろう。
ならば、運航する見込みが立ったのだから、その客に搭乗券を再度販売して、乗っけてしまえばいいじゃないかとも思う。
キャンセル分を他の客に売ってしまったとでも言うのだろうか。

──などと心中あれこれ推察したり憤慨しながらも、黙って待つより仕方がない。
座席ポケットに入っている機内誌や通販カタログをめくりながら、隣りのANAがプッシュバックするのを、少々恨めしい思いで見つめるだけである。
何しろ飛行機は離陸態勢のままであるから、座席のリクライニングを倒す訳にもいかない。
Wi-Fiサービスは使って良いとのことだったので、スマホをいじることだけが気晴らしであった。
他の客も、まあしょうがないか、という諦め顔で、忍耐強く座席でじっとしている。



じりじりと長い待ち時間が過ぎ、言われた30分もとっくに過ぎた。
それでも飛行機はじっと同じ場所に鎮座したまま、全く動く気配がない。
翼にぶら下がった巨大なエンジンも、沈黙したままである。

搭乗して1時間、午後9時になろうかという時間になって、不意に、男性の声でアナウンスが流れた。

「御搭乗の皆様に、機長よりお知らせ致します。現在、羽田空港は悪天候で、着陸機がなかなか着陸できず、他空港に向かっている便も出ているとのことです。そのため、羽田の天候回復まで、出発便は各空港で待機するよう指示がありました。お急ぎのところを誠に申し訳ありませんが、今しばらくお待ちいただきますよう、お願い申し上げます」

続いて「Ladies and gentlemen……」と、流暢な英語で同じ内容が繰り返される。
機内に絶望的な溜め息が漏れた。

「大空港」の続編である「エアポート75」で、エフレム・ジンバリスト・Jrが演じるボーイング747の機長が、

「ロサンゼルス空港が悪天候のため、この機はソルトレークへ向かいます。どうか悪しからず」

とダイバートを知らせた時に、広い機内から一斉に「Oh!」と大きな嘆声が上がった場面を思い出した。



この映画はチャールトン・ヘストン主演で、僕が彼のファンになるきっかけとなった。
なぜ、そのシーンが印象深いのかと言えば、初めて鑑賞したのがテレビ放映で、チャールトン・ヘストンが納谷悟朗、ジョージ・ケネディが若山弦蔵、ダナ・アンドリュースが穂積隆信、カレン・ブラックが鈴木弘子、ヘレン・レディが池田昌子、そしてエフレム・ジンバリスト・Jrが黒沢良と、ファンが見たら涙モノの声優陣だったのだが、「Oh!」の場面だけは、明らかに吹き替えではなく、元の音声を使っていたからである。
嘆声1つ取り上げても、明らかに日本語と違うんだな、と幼心に感心したものだった。

日本の国内線であるJAL330便の機内では、映画ほど大袈裟な反応はなかったが、1人の男性が、険しい表情でベルトを外して立ち上がった。
クレームでもつけるのかとヒヤヒヤしながら見守っていると、キャビンアテンダントに声をかけてからトイレに消えた。
それを見て、数人の乗客も席を立つ。
待合室で手洗いにいくタイミングを逃し、上空でベルト着用サインが消えてから用足しを済まそうと考えていたのだろう。
かなり頑張って我慢していたに違いないから、その苦境には同情する。

他の客の中には、不機嫌そうな表情でリクライニングを倒し、目を瞑る人も見受けられた。
福岡空港のトラブルからようやく脱出できると安心していた矢先に、再び、先の見えない事態に巻き込まれてしまったという訳である。
ダブルパンチを食らった身の不運を嘆きながら、くつろぐしか仕方ないではないか。

「ひええ、まだ福岡離陸していない。羽田悪天候につき、羽田行き航空機は全て出発空港で待機だって。すげえ遅れそう。でも必ず帰るから待っていてね」

と妻にメールを送ったのが、午後9時01分である。
反応がなく、9時06分に、

「機内だから電話ができない。JAL のHPとかでJAL330便がどうなっているのか確認してね」

と追伸を送った。
直後に妻から返信が届いた。

「安全に帰って来てね。心配だよ。会えなくて寂しいよ。気を付けてね。のんびりのんびりね。待ってるからね。愛してるよ」

事態がよく飲み込めていないのであろう。
まだ何とかなると思っている風である妻のメールを読んで、胸が締め付けられた。
何と返事をすればいいのだろうか。
今夜中に、何としても妻のもとへ帰りたい、と泣きそうな思いで唇をかみしめた。

Twitterを見ると、事態を予感しているようなツィートを見かけた。

「夫によると、21:10頃のフライトになるみたい。ここ東京は強風が吹いて来たけど、もしこれで羽田に着陸できずにダイバートで成田とか関空に行ったら悲惨すぎる」

Twitterや巨大掲示板2chで、羽田空港の悪天候についてのコメントが書き込まれたのは、午後7時55分頃である。

「一方羽田は」

「ウインドシアで大変だろう。低気圧本体も近づいてる」

「福岡空港の滑走路閉鎖により90分遅延+羽田空港悪天候…さてさて…どうなることやら」

「強風により羽田になかなか着陸出来ず、相模湾~房総半島あたりでホールドになっている機体がいくつかあるようですね。さっきゴーアラウンドした航空機が我が家の上空を飛んで行ったし。ダイバートも出てるのか。#羽田空港」

「JL(日本航空)1690(岡山-羽田)がゴーアラウンド」

「JL1648(宇部-羽田)もゴーアラかな?」

「2回目失敗w」

「羽田でJL1648が2回ゴーアラ。何があった」

ゴーアラ、ゴーアラウンド(Go-around)とは着陸復航のことである。
着陸復航とは、航空機が着陸進入を断念し、上昇体制に移ることを指す。
パイロットが自身の判断で行うことも、また、管制官が滑走路又は航空交通の状況等の事由により到着機の進入継続が安全でないと判断される場合に指示を行うこともある。
着陸復行を行う場合として、
一定の高度(ディシジョン・ハイト・滑走路視認高度)まで降下しても、視界不良で滑走路が見えない場合。
背風または横風などで、安全な着陸が見込めない場合。
滑走路上に障害物や離陸機、先行着陸機との管制間隔を確保できないと判断した場合が挙げられる(Wikipediaより)。

僕も動画で見たことがあり、着陸態勢に入った航空機が、滑走路の寸前でエンジンを最大に吹かしながら上昇していく様はなかなか迫力があった。
自身の乗る飛行機がそのような羽目になった経験がないのは、幸いと言うべきであろう。


Twitterや2chでは、航空機の航跡を追うことができるアプリのFright traderを見ているのであろう、次々と実況が報告されていく。

「NH(全日空)858(ハノイ-羽田)はゴーアラ?」

「NH858、JL1896(宮崎-羽田)もゴーアラ」

「JL1690おめ」

JAL1690は着陸できたというのであろうか。

「JL1476(松山-羽田)は復航」

「NH410(秋田-羽田)もか。厳しいな」

「羽田ゴーアラだらけ」

「ゴーアラウンド多数みたいだね」

「羽田はゴーアラ祭りじゃないか」

「JL1648、JL1476、JL1896、JL132(伊丹-羽田)、NH410、NH858、もっとあるかも。そしてグルグル多数」

グルグルとは、着陸許可待ち、または着陸復航から再度着陸態勢に入るために空港周辺地域の上空で旋回していることを表現しているらしい。

「SNJ(ソラシドエア)22(熊本-羽田)、房総半島上空ですごいことになっているw」

「SNJ22 大丈夫か?」

「JL132が草加市上空でぐるぐる。ここでぐるぐるって珍しいよね」

「羽田のJAL達どこ行くんだ」

「羽田、もう20~30分は雨域抜けなさそう」

「羽田エリア輻輳しすぎワロタ」

「今度は羽田がダメみたいで伊丹を出発したのがまだ飛んでる。運航情報ではJL132、JL134、JL142の伊丹→羽田便、羽田に降りれず関空に向かってる」

「ゴーアラ大回転組、房総寸止め組、沖でぐるぐる待機組」

「千葉の空が賑やかだな」


Twitterでは、まとめ情報として、

「羽田空港では現在局地的な強風マイクロバーストが発生中とのことで到着便が多数旋回待機しています」

と書き込まれた。
JAL公式HPでも、

「東京羽田空港は、着陸コースの乱気流により、遅延・欠航・出発地への引き返し(エアターンバック(ATB))や他空港へ向かう(ダイバート(DVT))など、運航への影響が発生しております。
各便の運航状況につきましては、『発着案内』より御確認下さい。
お客様には御迷惑をおかけいたしますことをお詫び申し上げます」

という案内が、午後9時25分に掲載されている。
マイクロバーストとはある種の下降気流であり、地面に衝突した際に四方に広がる風が災害を起こすほど強力なダウンバーストの1種である。
積雲や積乱雲は、通常、強い上昇気流によって形成されるが、上方で水の粒子と周囲の空気との摩擦により下降気流が発生する。
この下降気流のうち、地上に災害を起こすほど極端に強いものをダウンバーストという。
ダウンバーストは地上付近に吹き降ろした後、地面にぶつかって水平方向に広がる。この広がりが4km未満の局地的なダウンバーストはマイクロバースト、広がりが4km以上の広範囲のダウンバーストをマクロバーストと呼んでいる。
普通、マクロバーストよりもマイクロバーストのほうが風速が速く破壊力がある。

ダウンバーストは、往々にして深刻な被害を及ぼすことが多く、特に航空機にとっては深刻な気象現象である。
下降気流は、通常でも台風あるいは竜巻並みの風速30m/s程度が観測され、稀にこの倍以上の風速に達するという。
気象学者の藤田哲也は、1975年6月24日に発生したイースタン航空66便着陸失敗事故の調査を行い、この時の下降流がそれまで考えられていた積乱雲の下降流と異なるため、downdraft outburstと呼び、downburstの呼称で呼ばれるようになったとされる(Wikipediaより)。


Twitterや2chの書き込みは続く。

「羽田は雨で降りれず?」

「天気図だとちょうど低気圧の中心なんだな、風の予測つけにくかろう」

「羽田、マイクロバーストって言ってるぞ」

「羽田はマイクロバーストだべ。北西風だけなら多少強くても着陸できるけど、これではね」

「羽田空港はマイクロバーストにより着陸できず。上空大混雑」

午後9時30分に、僕は妻に向けて、

「羽田空港、悪天候で着陸できない便が続出。 JAL330便は21:50まで福岡で待機。その後どうするか決めるって。あかんですなあ。のんびり過ごしていてね。愛しているよ」

とメールを送った。

午後9時50分までこのまま待機します、という放送が、機長からあったのだ。
その頃には天候が回復するという見込みがあるのだろうか。
それとも、福岡空港の運用時間が午後10時までだから、取り敢えず、その時間ぎりぎりまで待つと決めただけなのであろうか。
いずれにしろ、先行きは全く不透明である。

妻からは折り返し、

「今日、飛行機が飛ばなかったら、うちの実家に泊まって。父に電話するから、迎えに来るよ。喜ぶよ*^-^* 久しぶりだね。自慢の息子が帰ってきたって、涙を流して喜ぶよ。また様子を知らせてね」

妻は福岡の出身で、父親が住む実家は、福岡空港からそれほど遠くない場所にある。

「ありがとう。でも飛ぶと信じたい。君に会いたいよ。必ず会えるよ、今夜!」

何の根拠もない見解であったが、紛れもなく僕の本心であった。
しかし、そんな僕の思いと裏腹に、Twitterや2chに流れる情報は、一向に改善の兆しを見せなかった。

「羽田悪天候で春のゴーアラウンド&DVT&ATB祭り」

「JALは1614便(広島-羽田)と1896便が西へ向かって行くが、離脱かなあ」

「JL1648は何処へ向かってるんだ」

「JL1648は名古屋に向かってるっぽい」

「JL1648は中部へダイバート」

「JL132はKIX(関西)、JL1648は NGO(中部)」

「JL132の伊丹発関空行きとか、カワイソス。JL1614もどこかへ行きそう」

「JL1614は中部へ」

「JL132は伊丹→関空2時間40分か」

「燃料よくもったね」

「JL132便は伊丹発、関空経由、羽田行きになるみたい。伊丹19:00発→東京上空ぐるぐる→関空22:00着→関空22:40出発→羽田23:40到着予定って運航情報が。深夜になれば羽田の天候も落ち着いて、混雑も解消されるという判断か」

「SNJ22がアプローチを開始したか」

「SNJ22降り始めた」

「SNJ22ゴーアラ」

「と思ったら降りた」

「確かにSNJ22の軌道、凄かったなw」

中には着陸に成功する便もあるようで、羽田空港は閉鎖している訳でないらしい。
だが、着陸出来ない便の方が圧倒的に多い。

「JL1896、NH540(高松-羽田)、JL1476もダイバート」

「羽田は北西の風が凄いみたいだ」

「やっと福岡離陸できた便が近づいて来てるのに、お客さんヘロヘロになってるだろうな」

「低気圧のせいで着陸前は揺れそうだし」

いや、まだ離陸すら出来ていないんですけど──

と言いたくなった。
だが、考えてみれば、僕が乗るJAL330便は手荷物の積み降ろしで遅れた訳で、滑走路再開直後にスムーズに福岡を発った他の便は、この混乱に巻き込まれているのかもしれない。
こうなると、果たして、どちらがツイているのかわからなくなってくる。


「JL3986(熊本-羽田)、ずっとぐるぐるしていたのにゴーアラ。かわいそうに」

「JL3986は諦めるのかな」

「既に1回ゴーアラウンドをしているNH858は34Lにランディング直前に左旋回。羽田空港局地的強風の影響です」

「NH858、2度目のゴーアラ」

「NH858、ゴーアラ→ぐるぐる→またゴーアラ」

「NH858は再び羽田?」

「NH858は成田ですね。これから向かっても、出迎えできない」

「NH858、成田到着でした」

「NH410もゴーアラ→ぐるぐる→またゴーアラ」

「よっぽど横風が強いのかね。かなり手前で諦めてるNH410、JL3986。JL1268(秋田-羽田)はトライできずに関西へ」

「JL1268、秋田→羽田が関空送りへ」

「JL1268可哀想だな。秋田から関空かぁ」

「羽田行きが20機くらいぐるぐるしてる。早く諦めて他の空港行った方がいいんじゃない?」

「JL922(那覇-羽田)も運航状況では到着予定だけど諦めたな」

「JL922は中部へ。そんなに中部に集まったら、それはそれで混乱しそう」

「どうも中部で給油して再び羽田を目指す模様」

「JL922那覇→羽田が中部ダイバートから関西ダイバートに変わった」

「JL922も関空なのか」

「KIXよりもNGOに行ってやれよ。 KIXも本来の定期便が増便ラッシュの中で、スポットはそんなにあいてないぞ。NGOならスポットの余裕は全然大丈夫だけど」

「忘れ去られたJL146(青森-羽田)、JL1414(高松-羽田)」

「JL146は回転から抜け出した」

「JL146は中部らしい」

「JL1414もセントレア」

「潮岬沖もぐるぐる多数」

「ハワイアンHAL457(ホノルル-羽田)も成田へ?」

「NH98(関西-羽田)君、関空に帰ろう!」

「NH98 関空へ引き返しか」

「JL1794(大分-羽田)何かあったの?大分戻るのかしら」

「JL1794諦めた模様」

「JL1794はどこへ?」

「伊勢湾上空。KIXだね」

「JL1794は22:25関空到着予定になっておりますな」

「JL1794、関西ゴーアラ→24R」

「JL1794、KIXでゴーアラわろた」

「乗客達の表情が目に浮かぶ」

「千葉上空まで来てたのに関空で降ろされるとか悪夢だろw」

「JL1794には同情を禁じ得ない」

「JL1794、怒りの超急旋回再アプローチもわろた」

「特急『にちりん』で小倉、新幹線で品川って行く方が早そうな感じだな」

「小倉19:12→新横浜23:27。『のぞみ』意外に早いな」

「JL132の乗客よりはマシかも。羽田上空まで来ていたらしいから」

「こんなに関西に降ろして大丈夫なのかね」

「スポットはあいていると思うが、地上作業員が足りてないだろうな。給油して再出発にえらい時間がかかりそうだ」

「帰りかけてる神戸や伊丹の整備士にお願いして呼びつけるとか」

「SF(スターフライヤー)50便、福岡へ引き返しましたね」

「JL94(ソウル-羽田)は関空か」

エンジン出力を絞る着陸便に比べて、全開で離陸していく出発便は気流の影響を受けにくいと聞いたことがあるが、出発便にも影響が出始めているようで、

「JAL139便 東京19:27→伊丹20:59 出発遅延 使用する飛行機の到着遅れのため出発に遅延が生じています」

などという情報も散見された。


機内に乗り込んで待つこと2時間。
午後9時58分に、妻からメールが届いた。

「父が福岡空港へ迎えに行くそうです。父の携帯に電話して、あなたの携帯番号を教えてあげて下さい。よろしくお願い致します*^-^* 父が嬉しそうでした。私まで嬉しくなりました」

僕は慌てて妻に返事した。
妻は、僕が空港の外に出られると勘違いしたらしい。

「まだ飛行機の中なんだ。閉じ込められたまま。機長の放送もない。お父様にはもう少し御自宅でお待ちを、とお伝えしてね」

すぐに、妻から返事があった。

「父にあなたの携帯番号を伝えました。飛行機が飛ばなかったら、空港に迎えに行きまーす!って喜んでました ( 笑 )*^-^* 連絡を取り合って、どこにいるか知らせてあげてね」

少し安心した。
万が一、このまま飛行機が飛ばなくても、今夜、泊まり場所を求めて彷徨う心配はなくなったから、妻に感謝である。

その直後のことである。
CAがマイクを取りあげるのが見えた。

「御搭乗の皆様にお知らせ致します。ただいま、羽田空港の天候が回復し、離陸許可が出たと機長から連絡がありました。間もなく出発致します! 皆様、シートベルトをお締め下さい。座席をお倒しのお客様は、背もたれをお戻し下さい。これより非常用設備の御案内をビデオで流します──」

エンジンが重々しい音を立ててスタートし、軽やかな足取りでCAがベルト着用を点検して回る。

「飛ぶって!\ (^o^) /羽田の規制、解除!お父様にも知らせてあげて。くれぐれも、お父様に御心配かけてすみませんとお伝え下さい。2時間以上機内にいて疲れたけれども、君に会えるなら頑張れるよ。待っていてね。心から愛しているよ」

と妻にメールしたのが、午後10時13分であった。

「あなたが帰ってこれるの、\ (^o^) /ばんざーぃ。飛行機が飛んでよかった。着いたらまた連絡してね。またね*^-^*」

返信の文面を追いながら、妻の笑顔が目に見えるようだった。
念のため、義父にも、無沙汰を詫びがてら直接メールを送っておいた。

ガクン、と機体が後退を始める。

「今、プッシュバックしてる\ (^o^) /羽田で連絡する。またね!」

とメールに書き込んだのは、午後10時22分である。
僕はメールを打ち終わると、ぐったりと座席に身を沈めた。
缶詰めで2時間あまりも過ごした駐機場を離れ、誘導路をタキシングして滑走路へ進入したJAL330便は、3時間半の遅れで福岡の地を離れ、夜空へ飛び立ったのである。



巡航中の機内の1時間半あまりのことを、僕はほとんど覚えていない。
離陸するまでに精も根も尽き果てたのであろう。
大島から房総半島へ回り込み、行く手に東京の灯が見えてきた時には、さすがに涙がこぼれそうになった。
あの中に、妻がいる我が家があるのだ。
 
JAL330便は、少々横風に揺さぶられながらも、見事に羽田の滑走路にタッチダウンした。
駐機場に停止して、ベルト着用のサインが消えるやいなや、僕は座席から飛び出して通路に並んだ。
離陸前にTwitterで読んだツイートを思い出したのである。

「夫『21時から22時のフライトになるらしい。モノレールあるんかいな』 私『あらー、ないんじゃないのぉ?』」


ドアが開けられ、僕は急ぎ足でコンコースを歩いた。
深夜にも関わらず、広大な空港ビルの中が賑わっているのは、遅れた便が続々と到着しているのであろう。
預けるほど大きな手荷物がなかった僕は、そのままモノレール乗り場に直行した。

0時07分発浜松町行き最終モノレールは、僕が飛び乗った数分後に発車した。
おそらく、手荷物を預けていたら間に合わなかっただろうと思う。
東京湾岸の夜景を眺めながら、僕は汗を拭った。

京浜急行の最終は0時20分発であるが、これは京急蒲田行きで、横浜方面の特急だけに接続し、品川方面の上り列車は23時52分に蒲田を出てしまっている。



ツイているじゃないか、と、この日初めて思った。

この間、Twitterや2chでも羽田空港へ戻る航空機が出始めたことを報じていた。
ただし、それは午後11時から午前0時以降のことである。
他の空港や出発地にダイバートまたはエアターンバックした航空機は、燃料補給に手間取ったのか、JAL330便より遅れての再就航となったようである。

「NH410、NH858、成田から羽田へ向け出発した」

「JL1614は今から再び羽田か。広島から乗った乗客もお疲れです」

「JL1648 羽田へ。中の人も大変だな」

「JL146の中部→羽田とか、鉄道使った方が早いな」

「JL132、JL313、関空離陸しました。羽田1時01分到着予定」

「JL132、羽田へ離陸。到着1時すぎとかつらいな」

「SF50便、羽田へ再就航するようですね。乗客もスタッフもお疲れ様です」

「JL922、5時間遅れで羽田に到着」

「NH263は福岡・羽田両方の影響を受けたね。羽田16:34→羽田23:49(長崎経由)」

このANA263便は羽田発福岡行きであったが、福岡空港閉鎖のあおりを受けて長崎へダイバート、そこで、翌朝の折り返し便を確保するためか、福岡へ再就航せずに羽田行きに変身するという荒技が施されたのである。
しかし、羽田のマイクロバーストで長崎をなかなか離陸できず、結局、深夜の到着となったのであった。
この日の空の大混乱を象徴する便と言えるだろう。

「羽田空港(東京都大田区)周辺で1日夜、局地的な強風が発生した。
欠航や遅れが出て、成田空港(千葉県成田市)などへの着陸地変更も生じた。
日本航空や全日空によると、積乱雲からの強い下降気流が地表付近まで下りて広がる『ダウンバースト』とみられ、午後8時半ごろから10時すぎごろまで続いたという。
日航は札幌行きの1便、全日空では福岡行きの2便など計4便がそれぞれ欠航となり、発着便の遅れはその後も続いた(産経新聞)」

羽田空港悪天候の影響を受けた航空機や乗客は、どれほどの数になるのだろうか。
運次第では着陸できた便もあった。

「全部羽田に降ろしたSKY(スカイマーク)の操縦士は神」

「夏は沖縄(台風)、冬は千歳(爆弾低気圧)の便で鍛えられているからな」

という書き込みもある。

しかし、この夜のJAL330便の軌跡を思い起こすたびに、昭和29年の台風下で無理に出港して沈没した青函連絡船洞爺丸と対照的に、船客の罵声を浴びながらも、天候を見定めてじっと青森港で待機(テケミというらしい)した羊蹄丸のことが、僕の心に浮かぶのだ。

後で聞いたところによれば、滑走路閉鎖直前の18時に福岡を離陸した、O先生が乗るJAL328便は、羽田の悪天候に巻き込まれて中部国際空港にダイバート、その後再就航したものの、羽田到着は午前2時過ぎになったそうである。

また、JAL330便がキャンセル客の手荷物を降ろすため福岡で愚図愚図している間に、先に飛び立った他の羽田行きも、ダイバートを余儀なくされている。

「AIRDO88便で旭川から羽田に向かったが、羽田の風で、仙台空港上空でグルグル。結局、羽田が解除になったが、こんでて燃料がもたない!ってことで中部へ!0時にようやく離陸!羽田着0時40分で、タクシーも凄い行列で、未だに国際線ターミナルで待機中!(3時49分の書き込み)」

「うわぁ、当該の人、乙です!やはり羽田は便数が多いので影響がデカいですね!」

という書き込みもあった。

IMG_20150916_100703099.jpg

ならば──

ANA264便の故障がなく、我らがJAL330便が予定通り離陸していたならば、羽田でゴーアラウンドを繰り返した挙げ句、他の空港に連れて行かれ、羽田着はもっと遅くなったのかもしれない。

ツイているように見えてツイていない、またはツイていないように思えても実はツイていたという話は、これで終わりである。

ツイてない、と思い続けた3月最初の日曜日の夜だったが、何とかその日のうちに羽田に着き、最終モノレールにも間に合って妻のもとへ帰宅できた僕は、実は、最もツイていたと思うのである。

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