『高速バス時刻表』とともに22年 | ごんたのつれづれ旅日記

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バスや鉄道を主体にした紀行を『のりもの風土記』として地域別、年代別にまとめ始めています。
話の脱線も多いのですが、乗り物の脱線・脱輪ではないので御容赦いただきまして、御一緒に紙上旅行に出かけませんか。

子供の頃から時刻表を読むのが好きでした。

小学校4年の頃、昭和50年の何月かの交通公社時刻表が、なぜか、家に置いてあったのです。
父親が金沢への出張に行くときなどに使ったのでしょうか?

大判ですが、現在よりずっと薄い時刻表でしたし、ちょうど鉄道趣味に目覚めていた僕は、むさぼるように時刻表に読みふけったものです。



まだまだ国鉄の全国の路線網は全盛期で、全国津々浦々まで鉄路が延びていました。
寝台列車も多く、今は殆どなくなってしまった急行列車も、幹線・ローカル線を走り回っていた時代です。

他の方々から見れば、単なる数字の羅列であったのかもしれませんが、僕にとっては時刻表の1ページ1ページが、楽しい机上旅行でした。

長野県内や金沢、東京くらいしか知らなかった子供時代です。
列車の発着時刻と駅名を眺めながら、知らない土地に心を馳せたのです。

付録の列車編成表を眺めるのも楽しみでした。

寝台列車など乗ったことがなかったものですから、A寝台車を表す「A」、客車三段式B寝台車を表す「★」、客車二段式B寝台を表す「★★」、電車三段式B寝台を表す「★★★」、そして個室寝台を表す「個」マークがずらりと並び、食堂車を表すナイフとフォークのマークが真ん中の車両についている寝台特急、ブルートレインの編成などは、いつまで眺めていても飽きませんでした。

いつかは、そのような列車に乗るんだ!──と心に誓いながら。

乗りたい列車をピックアップして、北海道、九州、四国などへの架空旅行のスケジュールを、ノートに何ページに渡って書き連ねたりもしました。

夢中になった至福の時間だったのです。

宿題もせずに──。

幸い、僕が通った小・中学校は、あまり宿題を出さない方針でしたし。

ところが、昭和62年、僕が大学に入学して間もなく国鉄が没落し、分割民営化されました。
僕が、それなりに旅行ができる時間がとれるようになった頃から、鉄路の廃止が進み、夜行列車が次々と姿を消し始めたのです。

加えて、相次ぐ値上げにより、鉄道旅行が高嶺の花になってしまいました。

それと引き替えるように、僕は安くて気軽に全国を旅することができる高速バスに心を惹かれるようになりました。

初めて高速バスに乗ったのは、昭和59年の夏のことです。
その頃から、全国に急激に高速バス路線網が発達し始め、その潮流に乗るかのように、僕もバスに乗って全国を旅して回るようになりました。

しかし、初期の頃は、高速バスの情報は極めて少なかったのです。
せいぜい、大判の時刻表の末尾にある会社欄に、他の私鉄や路線バスなどと並んで、無造作に、窮屈そうに、小さく詰め込まれているだけでした。
国鉄の東名、名神、中国ハイウェイバスや夜行「ドリーム」は専用ページだったのですが。


バス関係の書籍は、鉄道に比べて極端に少なく、一般の書店でもなかなか並べられていることがなく、僕は神保町の書泉ブックマートや三省堂書店に月に1~2回出かけては、そのような本を探して歩いたものです。

そのうちに、普通の時刻表でも、長距離バスの専用ページが設けられるようになりました。
交通公社(現JTB)の時刻表と、民営化後に登場したJRの時刻表です。
前者は、高速道路を経由するか否かは別として、長距離バスを集めていたにもかかわらず、後者は「高速バス」にこだわっていたようで、一般道ばかりを走る長距離バス、例えば北海道などには一般道だけで200~300km以上を走るバスが少なくなかったのですが、そちらはあくまで会社線の欄に掲載するという、個性的な時期がありました。

初めて、「高速バス時刻表」が、弘済出版社から登場したときは嬉しかったものです。

直前に、とても安っぽくて、ガリ版刷りのような、いかにも素人がパソコンで頑張って打ち込んでみました──というような高速バス時刻表を書店で見かけたことはありましたが、さすがに買わなかった覚えがあります。

弘済出版社の時刻表の表紙は、綺麗なカラー刷りでした。

紙の質も良好でした。

でも、路線数が少なかった時代ですから、1ページに1路線でした。
路線の見出し文字が大きく、乗り場案内や途中休憩地、発着の土地の観光案内など、バス以外の情報が豊富だったのです。

るるぶなどの観光ガイドブックみたいな感じの時刻表だったのですが、特集ページも楽しく、鉄道の時刻表に読みふけった子供の頃と同じくらい夢中になり、時間を忘れてページをめくったものです。

それくらい嬉しかったのです。

高速バス路線も増えていく一方の時代でしたから、「高速バス時刻表」もどんどん厚くなり、1ページに2路線、そして4路線と圧縮されて掲載されるようになりました。

新しい号が出るたびに、今度はどんな新路線が登場したのか、ワクワクしたものです。

ただ、需要は少なかったのでしょう。

最初は「○○年春号」などと季刊だったのですが、そのうち「△△年冬~春号」などと、年2回の出版になってしまいました。

数年前に、少々判が小型化し、紙質が薄くなって(再生紙使用になった様子)、ああ──決して売れ筋の出版物ではないんだな、と思いました。

それでも、僕は毎回、出版の季節になると本屋をさまよい、毎号欠かさず高速バス時刻表を買い求めるようになっていました。

たいてい、他の鉄道や航空時刻表の隣りに置いてあるのですが、旅行ガイドの棚に置いてある書店もありました。

†ごんたのつれづれ旅日記†

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久しぶりに創刊号を引っ張り出してみました。

表紙は、平成2年4月に登場したばかりの東京-豊橋・伊良湖岬間の高速バス「伊良湖ライナー」です。

当時の最長距離路線は、東京-広島間の夜行「ニューブリーズ」でした。

ページをめくるとこよなく懐かしいのですが、少しばかり驚いたことがありました。

創刊号は、1990年(平成2年)の発行なのです。

え?──22年間も、僕は「高速バス時刻表」を買い続けているのか?

道理で、本棚の一角が高速バス時刻表で埋まっているわけです。

といっても50冊程度ですが。

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ちなみに、今春発売された最新号の表紙は、大宮・池袋-福岡間を結ぶ日本最長距離夜行高速バス「LIONS EXPRESS」です。

昨年登場し、それまでの新宿-福岡間夜行高速バス「はかた」を抜いた路線です。

料金を少しばかり抑えて、横4列シートの車内だと聞いています。

創刊号の表紙を飾った「伊良湖ライナー」は、平成18年に乗客数不振から廃止されたのですが、300km程度の夜行であったにもかかわらず、横3列シートでした。
鉄道に負けるな!──とばかりに、高速バスが豪華さを競っていた時代でもあったのです。

今は、運行バス会社が変わって、新宿-豊橋間に夜行高速バス「ほの国」が走っていますが、やはり横4列シートです。

デフレ不況の時代を感じさせます。

何十年と交通公社の時刻表を毎月買い続けた旅行作家、宮脇俊三氏にはとてもかないませんが、この「高速バス時刻表」だけは、これからもずっと、毎号買い続けていきたいと思っているのです。

今や、僕の机上旅行の大切な相棒でもあります。

同時に、僕の青春の記録でもあるのですから。