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金融庁のミスリードとして詰め腹を切らされた。国民の側も敏感に反応していますが、意見の中で気になるのは自分の年金を基準に考えていて、国民年金の基礎額のところだけの人のことなど知ったことではないかのように断定されています。厚生年金受給でさらに企業年金がある人に工夫しなさいと言われても・・・。

 

「(記者解説)「2000万円不足」の現実 痛みの分配、与党だけで背負えるか 

編集委員・浜田陽太郎201971日朝日新聞

 

 ■老後の不安感に「顔」

 既視感のある妙にリアルな金額だと思ったらやっぱり……。

 2018年の金融広報中央委員会の調査で、マイホーム取得のための借り入れ予定額が平均2030万円(2人以上世帯)だった。

 内閣府の調査で「国民の不安や悩み」のトップは「老後の生活設計」(左図参照)。金融庁の審議会の報告書から飛び出した「老後2千万円不足」というフレーズは、私たちの不安にわかりやすい「顔」を与えた。

 年金はどうなるのか、医療や介護はちゃんと受けられるのか、老人ホームの入居費は工面できるのか……。もやもやした様々な不安が「2千万円」という数字によって焦点を結び発火した――。私はそう理解している。

 なかでも、同じお金の話である公的年金はにわかに関心が高まっている。厚生労働省は近く、5年に1度の財政検証結果を公表する。現行制度は、将来世代にそれなりの年金を残すため、今の給付水準を下げることを織り込んでいる。自助も必要なことは間違いない。年金を論じるならリアリズム(現実主義)に徹する必要がある。

 ■三つのフレーズ警戒

 20年近くの取材経験に照らして警戒すべき三つのフレーズがある。

 一つは、年金の「100年安心」だ。公明党が03年のマニフェストで使ったフレーズだが、政府は公式に掲げてこなかった。ところが安倍晋三首相や麻生太郎金融相が不用意に国会答弁で使って誤解を広めている。

 考えてもみてほしい。今から100年前は大正8年。第1次世界大戦の終結直後、関東大震災より前だ。その頃、子どもから高齢者までスマホを操る今の社会が予想できただろうか。

 年金の財政検証は100年間を見通して収支を計算するが、前提となる経済社会を正確に予測するのではなく、今あるデータを将来に投影しているにすぎない。未来は不確実なので、変化に応じて絶えず調整が必要だ。「何もせずに100年安泰」はありえない。

 二つめは「年金破綻(はたん)」。働けなくなった高齢者の生活を支えるニーズはどの時代も変わらない。この世代間扶養を社会化したのが年金だ。今の制度は確かに様々な問題を抱えている。だからといって破綻させ、社会的な扶養そのものを放棄する選択肢があるという主張はあまりに非現実的だ。

 破綻とセットで語られやすいのが「抜本改革」。私もかつて「抜本改革が必要」と何度も書いてきた。

 ただ取材を重ねるほど、根っこから大きく変えるのは不可能に近いことがわかってきた。公的年金には20歳以上の約6700万人が加入し、4千万人が給付を受けている。「人生100年」なら80年にわたって関わるほど長期の、かつ、生活に深く根付いた制度は微修正でも困難をきわめる。

 私が「抜本改革は難しい」と思い知ったのは、民主党政権だった12年、月額7万円の最低保障年金を柱とする改革案の試算が公表された時だった。

巨額の増税に加え、中間層の年金が減る結果が示され、党内のコンセンサスさえ得られずお蔵入りになった。もし法案化する流れとなって、広く議論されていたなら、「年金カット」の痛みに焦点が当たっただろう。

 ■期待振りまく政権

 安倍政権は「給付と負担の在り方を含め社会保障の総合的かつ重点的に取り組むべき政策」を、20年度の「骨太の方針」で取りまとめるという。

 これまでの安倍政権の「少子高齢化への備え」に関する語りには強い違和感を抱いてきた。

 金融庁審議会の報告書はその底流に、公的年金が減るから個人が民間金融機関のサービスを賢く使って「資産寿命」を延ばそうという物語がある。

 一方、「健康寿命」の延伸が語られる医療や介護。ここでも前面に出てくるのは民間企業だ。世耕弘成経済産業相は経産省の審議会で「予防健康づくりサービスなどは、民間活力を活用するという視点が非常に重要」とし、「今こそカットするとか制度をいじるというつらくて難しい議論ではなくて、明るい社会保障改革の議論が求められているのではないか」と述べた。

 成長産業の育成と個人の自助努力で、痛みを感じず社会保障を改革できるという物語にはリアリズムを感じない。経産省を中心に病気を予防すれば医療費を削減できるといった期待も振りまいてきたが根拠は薄い。

 日本政府の借金は主要先進国中、最悪の状況だ。公的に保障すべき必要なサービス(給付)は何か。そのための税や保険料を誰がどう負担するか。どうしても痛みを伴う議論になる。(以下略)