自家製桑酒 桑酒の歴史 | 西新宿 Bar BenFiddich(ベンフィディック)

西新宿 Bar BenFiddich(ベンフィディック)

BenFiddichの店名は店主の鹿山博康から由来【Ben】→【山】【Fiddich】→【鹿】
畑を持つ農家バーテンダーであり『Farm to glass』を提唱
日本在来種の自生する草根木皮をもカクテルに変える新しい可能性を模索
アブサン、薬草酒、古酒がゴロゴロ転がるBar

BenFiddichの鹿山です。





今日は日本の伝統酒『桑酒』について




初夏の時期になると

鹿山がいじってる畑の近くに

自生している桑の木の果実が多く実る。


季節で実る桑の木


これでシノワで濾してリキュール造りも良し
カクテルの副材料でも良し


が、今年は僕の父が桑の木はその辺に

自生しているコモンキャラが故に

勝手に不要だと判断され伐採

2021年は桑の実は回収不可能となった







僕の生まれ故郷

外秩父に位置する埼玉県比企郡ときがわ町は

昔からお蚕様が盛んで

桑畑が多かったのだろう

どこにでもよく見かけるし耕作放棄地で

雑草で覆われた土地でも幼木が

頑張って生き延びようとしている。





桑の木というのは万能だ。

絹を造る為のお蚕様だけでなく

人間の身体にも有用。


根、葉、果実 全てが利用可能だ。


漢方の世界では

根は桑白皮(ソウハクヒ)

葉は桑葉(ソウヨウ)

果実は桑椹(ソウジン)

と呼ばれる。


桑の根は薬事法により一般流通はしないが

生薬として専門的に流通しており

桑の葉は桑茶として

田舎の道の駅なんか行けば手に入る。

桑の果実はジャムなどに加工されネットで流通。

桑の木材は木工品で売られている。

捨てるところがないのだ。




因みに欧米ではマルベリーの呼称で

果実を利用しマルベリーから醸して蒸留した

マルベリーのスピリッツがある。

いわゆるフルーツブランデーのカテゴリー。

葉、根、木は使わない。





日本はどうだろうか?




日本は口に入れるものとして

根、果実、葉、ほぼ全草利用し

弥生時代より桑との歴史を歩んできた民族。





今回は日本人が作ってきた桑酒について

触れてゆきたい


 


日本人が伝統的に(江戸時代)

作ってきた桑酒について

大きく分けると二通りある




①アルコールと桑の果実を浸漬するタイプ


②アルコールと桑葉、桑根を浸漬するタイプ






①のタイプは

肥後(現熊本県)

阿波(現徳島県)

丹波(現兵庫一部、京都一部、大阪一部含む)

の国々で伝統的に名産地とされ

桑酒は桑の実を用いて造られた。


材料は潰した桑の実、白砂糖、焼酎or日本酒


製法として①のタイプ

地域によってバラつきがあるので

大枠としてこちらを引用する。


十返舎一九の『手造酒法』(1813年)

実は僕は原本を持っている


江戸時代にも先人達が築き上げた多種多様な

酒類の種類がある。桑酒も記載。


十返舎一九の『手造酒法』のレシピでは

桑の汁一升(1800㎖)

(桑の実をすり潰し布でこし汁をとり煎じる)

白砂糖一斤(600g)

酒ニ升5合(4500㎖)


また別の方法としてこのように記載↓


(くずし字なので合ってるかわからないが)

『桑の実を熟したのを選び潰して

酒を満たし入れ炭火にて練り詰める。

布で漉して壷に入れて空気の入らないように

口を蓋をする。桑酒入用の時に

酒と氷砂糖を粉にして好み次第入れ出すべし

又は焼酎入れても良し』



ざっくり言うとすり潰し火入れした桑の実の

ピュレを作り提供の際に

その都度焼酎又は日本酒を入れ砂糖で甘さを調整して提供してください。

みたいなプレミックス材料でカクテルの様。




十返舎一九の『手造酒法』(1813年)も

様々な地域の桑酒の手法をまとめた本なので

一概に決まりきったレシピはない。

焼酎を使っても良いし

日本酒を使っても良い。




また江戸時代1697年に著された本草書である

『本朝食鑑』でも桑酒は言及されている。


これは1970年代にくずし字を現代語訳した

本朝食鑑↓


桑椹酒(ソウジン)

②桑酒

について言及。



桑椹酒(ソウジン)というのは

先程の十返舎一九『手造酒法』(1813年)の

桑酒のレシピと同等で桑椹というのは桑の実の事を指している。


②『本朝食鑑』の桑酒については

桑の実を使わない。


桑樹及び樹皮を濃い煎汁を取り、

そこへ米麹を入れて醸成する。古酒の造法と同じである。と書いてある。

つまり

桑の根、樹皮で煎汁を作り

その煎汁の水分で味醂を作る製法に近い。

そして桑の葉、根、樹皮というのは

生薬として効能が強い。

これはより薬に近いものだろう。




実はこの②の桑酒の製法にならって今でも

代々桑酒を作っている酒蔵が

滋賀県の長浜に存在する。


1532年から続く現存する日本の酒蔵でも

最も古い部類に入る山路酒造様で

今でも桑酒は作られている。



現在では日本酒と桑酒を生産。



然しながら400年〜500年続いた桑酒造りも

25年程前に薬事科の職員がきて

桑の根、樹皮は生薬として

『薬』のカテゴリーとして入る事を

指摘され現在は使用されていない。


桑の葉は薬事法に抵触しない為、現在は

桑の葉のみを使って桑酒を作っている。


この山路酒造の現在の桑酒の造り方としては



①焼酎に桑の葉、シナモン、五加皮(エゾウコギ)

を数日間浸漬する。


②一年間寝かせた味醂を①と混ぜ加水調整をしてタンクに寝かせその後瓶詰め


(桑酒の入ったタンク)


こちらの山路酒造様の店頭では

桑酒モヒートも嗜む事ができる。



つまりは桑酒というのは2タイプある。



①アルコールと桑の果実を浸漬するタイプ


②アルコールと桑葉、桑根を浸漬するタイプ




とゆうことでそれらを踏まえ

①と②の良いところどりをした

BenFiddich的桑酒を作ってみる



【レシピ】

桑の実

桑の葉(乾燥)

肉桂の葉、枝

焼酎(芋)

味醂



①焼酎に桑の葉、肉桂の枝葉を浸漬。


②桑の実をシノワで潰し濾す。



ピュレにした桑の実と

浸漬液(焼酎、桑の葉、肉桂)を混ぜ合わせる。



完成。



当時はガラス瓶は貴重なので

江戸時代の保存容器にならって陶器の瓶で

保存する(保命酒のアンティーク陶器)


しばらく冷暗所で寝かせれば完成。




現在緊急事態宣言で

BenFiddichは閉めていますが

再開しましたら是非御賞味くださいませ。