アメリカがゲートウェイ計画で次に目指す火星は、強烈な砂嵐で隠される以外は雲もなく、1971年のNASAの火星探査機マリナー9号の火星上空到達以降、火星の軌道を周回する探査機によって、その表面はほぼ継続的に調査され、ほとんど丸裸にされている。


標高9000メートル、裾野の直径は450キロ​

 だからそんな火星に巨大火山などが未発見で残っているはずがないと思われたが、3月中旬、アメリカ、テキサス州ウッドランズで開催された月惑星科学会議でSETI研究所の惑星科学者パスカル・リー博士(写真)らが、標高がエベレスト超えの約9000メートル、裾野は約450キロにも達する巨大火山を発見したと発表した。

 

 

 リー博士らによると、この火山は現在活動している兆候はないが、地質学的には「比較的最近」まで活動していた、驚くほど古い火山の可能性もあり、何十億年にも及ぶ火星の歴史の大部分に関わっているのかもしれないという。


長年の水と氷河で動きで浸食​

 水で侵食された洞窟やトンネルが広大な迷路を織り成す「ノクティス・ラビリントス(夜の迷宮)」で発見されたことから、研究チームは新発見の火山「ノクティス」という仮称を付け、科学界の分析を待っている。

​​ ノクティスは長年にわたる水と氷河の動きによって大きく侵食されており、それがこれまで見過ごされてきた理由だという(下の写真の上:1970年代に火星探査機「ヴァイキング」が撮影した100枚以上の写真から作成された火星の合成写真。左側に刻まれている洞窟とトンネルの広大なネットワークノクティス・ラビリントス付近で、新たな火山を発見された。下の写真の下:ノクティス火山の地形図。侵食が激しく、古典的な円錐形ではない)。​​

 

 


地形を調べて火山と判断​

​ ただ巨大火山の発見を誰もが認めているわけではない。学会発表を聴いた人たちは興味をそそられながら、半信半疑の様子だという。浸食が激しく、火星最大のオリンポス火山(写真)のような円錐形を全く残していないからだ。研究者の中には、隕石衝突で出来たクレーターの可能性を考える人もいる。​

 

 

 研究チームがノクティスを火山と判断したのは、過去半世紀に作成された火星の地図一式を使ってノクティス・ラビリントスの東側を調べていた時だ。

 調べた結果、自分たちが見立てた地形は侵食された火山で、頂上には部分的に崩壊した大釜のような穴が開いており、古い溶岩流、一面の火山灰、マグマで熱せられた流水がつくり上げた鉱物もあったことを知った。


つい最近の1000万年前頃にも噴火​

 さらに侵食が進んだ範囲、層状の噴出物などを調べた結果、この火山が最初に形成されたのは37億年以上前で、その後、比較的最近の、おそらく1000万年前頃に、マグマが上昇して噴火が起きた、と研究チームは考えている。

 火星に見過ごされていた巨大な火山があるという説は魅力的だ。さらに証拠を積み上げて、本当に大発見であることを立証してほしい。

 リー博士らは、氷河があったことで知られる地域にマグマによる熱源が長期間存在したことから、この地域にかつて温水が溜まっていた可能性があり、探査器を送り込めば、微生物の痕跡が見つかるかもしれない、と期待している。
 

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