新年、おめでとうございます。新年も、侵略者ロシアによる無慈悲なミサイル攻撃によるインフラ破壊で、厳冬の中に震えている人たちのことを思うと、なんやかや言っても平和な日本で新年を迎えられる有り難さに感謝する。

 さて、今年2023年の干支は、ウサギである(写真)。


 

実験動物ウサギの世話をした時​

 ウサギと言えば、某国立大薬学部在学中に実験動物として使ったウサギを思い出す。

 僕の在籍した講座は、実験動物としてモルモットやラット・マウスよりもウサギを主に使った。窓の無い広い部屋に天井まで達するほどのケージを積み上げ、1つ1つにウサギを収容していた。講座の在籍者は、教授以外、毎日、ウサギに固形飼料を与え、給水瓶に水を入れていた。相手は生き物だから、夏休みも交替で当番を務めた。

 そこで初めて、ウサギに水をやる必要のあることを知った。子供の頃、1匹だけ飼育していたことがあるが、草をやっていれば水を与える必要はなかった。草の水分だけで足りるようで、水をやろうとして祖母に注意された。「腹を壊すから」と。


温順、手間いらず、繁殖早いので、実験動物として利用される​

 さて、その講座で僕は何匹もウサギを殺した。今でも罪深く思い出すが、血清を注射して抗体を作らせ、何日か後に採血するのだ。むろん血を採られたウサギは苦しみ、最後は歯をむき出して「キー」という断末魔のうめき声をあげて死ぬ。

 それは、何度見ても、むごいと思った。僕は、いろいろな理由があって大学院修士課程の進学を断念したが、これ以上、実験動物を殺したくないと思ったのも、理由の1つだ。卒業して、薬業界に進まず、全く畑違いの分野に進んだ。

 モルモットやラット・マウスと共に、ウサギが実験動物として多用されるのは、性質温順で、飼育に手間がかからず、齧歯類なので繁殖速度が早く(「ねずみ算式」という言葉があるくらいだ)、また1回の産子数も多く、安価に繁殖させられるからだ。


野生のウサギ天国のオーストラリア、常に失敗してきた駆除作戦​

​ だから例えば、処女地にウサギを放つと、あっという間に繁殖し、時に環境を荒らす。​

 その顕著な例が、かつてのイギリスの植民地だったオーストラリアだ。

 オーストラリアには、過去に何度か白人の入植と共にイギリスからウサギが持ち込まれ、当初は柵内で飼育されたが、やがて柵外に逃げ出し、また一方で野に放たれた。

 1788年、シドニーに到着したイギリスからの第1船団にはウサギ5匹が乗っていて、その後70年の間にさらに90回も輸入された。

 目的は、紳士の娯楽としてハンティングの標的にするためと食料に供するためだった。

 ところが当初の試みは、成功しなかった。

​ 今日、オーストラリア全土で2億匹以上もが犇めき、牧草を食い荒らし、土壌の大規模浸食などの環境問題を引き起こして牧畜化の目の敵にされている(写真)。何度も、ウサギに致死的なウイルスを感染させた個体を放ち、撲滅を図っているが、成功していない。​

 

 


オーストラリアの2億匹以上の野ウサギは164年前のたった24匹が起源​

 有袋類大陸であるオーストラリアには、肉食性哺乳類は、イヌが野生化したディンゴしかいない。肉食の有袋類サイラシンはとっくの昔にオーストラリア大陸では絶滅していた。捕食者と競争者のいないオーストラリアは、ウサギには天国だったに違いない。

 このほどオックスフォード大学のジョエル・オルベス氏らが、オーストラリアの野生ウサギの遺伝子を研究し、今日のオーストラリアの2億匹以上の野ウサギの起源をたどると、すべてが1859年にイギリスに持ち込まれた、たった24匹のウサギ1集団に行き着くことを見出した。

 発端は、トーマス・オースティンという名の入植者によって1859年にイギリスから輸入されたウサギだった。ちなみにオースティンは、イングランドの出身だった。
 

たまたま野生の血の濃い家畜ウサギだった​

 史料によると、オースティンはオーストラリアのメルボルンにある広大な敷地でウサギ24匹を飼い始めた。そのウサギがわずか3年で数千匹に増え、その後も繁殖し続けた。

 そしてその一部が、オースティンの敷地外に逃げだし、それこそ「ねずみ算」式に増え、広大なオーストラリア全土に広がったのだ。

 それは、オースティンのウサギが、それまでオーストラリアに持ち込まれた飼い慣らされた品種と違って、野生の祖先の血を多く引いていたことにも一因がある。遺伝子解析の結果、それが分かった。野生の血を多く引いていると、それだけタフに生存しやすい。

 たった1回の出来事が、外来の有胎盤哺乳類による史上最速の植民地化という、とてつもない惨事をオーストラリアにもたらしたのだ。


人類史と比べても驚異的な繁殖力​

 考えてもみよう。私たちホモ・サピエンスは、20数万年前にアフリカに誕生した。その後、ユーラシアに拡散し、さらに一部はオーストラリア大陸と南北アメリカ大陸に広がった。

 しかし1.1万年前の旧石器時代末、全地球に拡散したホモ・サピエンス人口は1000万人ほどだったと推定されている。現在まで世界の人口は80億人を突破しているが、これは農耕牧畜の発明と普及、そして文明による「自己家畜化」の賜だった。つまり自然状態=野生状態ではホモ・サピエンスは、ポピュレーションを増やしたとしても20数万年かけて1000万人程度だったのだ。

 ところがオースティンのウサギは、たった160年余りで24匹から約2億匹に増えた。齧歯類の繁殖度の高さが驚異的であることがよく分かる。遺伝子から見ると、かなり成功度の高い動物群を創出できたと言えるだろう。


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