46億年の地球の地質時代名で最も下位の区分に、日本の「千葉」の名前が付く。
115ある下位区分のうち、名称がまだ正式に決まっていない77万~12.6万年前の中期更新世の名称が、「チバニアン(チバ期)」となることがこのほどほぼ決まった。
地球という磁石が反転した画期の始まり
地質年代の正式名称には、その地層を最も適切に代表する模式地名がつけられる。映画『ジュラシック・パーク』でも有名になった恐竜の繁栄していたジュラ紀は、フランス東部からスイス西部に広がるジュラ山脈に特徴的な石灰岩地層が広がるところからジュラ紀の名前が付いた。
冒頭の77万年前以降、地球の磁極は、それまでの「松山逆磁極期」と呼ばれる逆転していた時から、現在のように正磁極期に転換した画期的な時期だ。地球は巨大な磁石であるが、現在、地球磁気は北がN極、南がS極を指しているけれども、この以前は逆になっていた。
この重要な正磁極期のうち、温暖な間氷期の海洋酸素同位体ステージ(MIS)5eまでの12.6万年前までの地層(地質学的に「期」と呼ばれる時代)の模式地が特定されず、ただ「中期更新世」と呼ばれていただけだった。
堆積層や溶岩の露頭から過去の磁場の方向が分かる
地球磁場は、ゆっくりと冷えて固まった溶岩、川や湖、海の底にゆっくりと堆積した砂層で、中に含まれる鉱物の鉄分の帯磁方向が同じ方向に揃うことから、調査すれば分かる。ただしその後に熱が加わると、磁場の記録はチャラになってしまう。
日本の地質学者グループは、巡検を重ね、千葉県市原市の養老川沿いに地球の磁場が反転したことを明瞭に残す海成層の露頭を調べ(図と写真=上層が地磁気が正極に帯磁するチバニアンで、その下の逆磁極期のカラブリアンと分かれる。間に挟まる「byk-E」は白尾テフラといい、この年代が77万年前とされた)、この「千葉セクション(地層断面)」を国際地質科学連合に「チバニアン」とすることを申請、同専門部会の会員による一次審査投票の結果、このほどイタリアの他の2地域(同南部のモンテルバーノ・イオニコとビィラ・デ・マルシェ)を上回る60%以上の票を集めた。
来年以降、まだ審査が続くが、圧倒的な得票からこの期がチバニアンとなることはほぼ確実な情勢だ。
先進地のヨーロッパの地名が圧倒的
前述のように、大区分の4つの「代」、その下の「紀」、さらにその下の「世」、そして今回のチバニアンなどが含まれる「期」のうち、日本の地名が付いた例は1つもなかった。
それというのも、地質学とその派生科学の考古学・古生物学が発達したのはヨーロッパであり、そのため研究者の調査が進んだヨーロッパの地名が付けられるのがほとんどだ。
例えばチバニアンの前の期はカラブリアン(カラブリア期;180.6万〜77万年前)、さらにその前はジェラシアン(258.8万〜180.6万年前)と呼ばれるが、いずれもイタリア南部の地名である。
若い頃、南イタリアをバスで旅していた時、車窓からカラブリアという地名を記した道路標識を見て、「ここがカラブリアン期の模式地のある所か」と胸を躍らせた記憶がある。
我々のホモ属が生まれ、進化した重要な更新世
ジェラシアンの始まり(258.8万年前)から最終氷河期の終わり(1.17万年前)までは更新世と呼ばれるが、この「世」は人類、特に我々ホモ・サピエンスの含まれる属であるホモ属が誕生し、進化・分岐していった重要な時代である。また地球は、ほぼ10万年前ごとに氷河期と間氷期の気候大変動が交互に見舞われた。
そしてチバニアンと命名される予定の中期更新世にホモ属はヨーロッパに進出し、この末期にはアフリカに現生人類ホモ・サピエンスが出現する。
その年代を包括するのも、更新世やチバニアンなどの4つの期である。
その意味で、チバニアンの名称が決まるのは、地質学のみならず古人類学、考古学にとっても有意義と言える。
またしても日本の基礎科学の水準の高さを証明するホームラン
最近、権威ある科学誌への引用論文数や欧米有名大学・研究所への留学生数などで、日本は中国、韓国、インドなどに後れを取り、これが日本の基礎科学の衰退を招いていると憂慮されている。
しかし昨年11月、日本人研究グループが原子番号113の新元素を作り、この新元素にニホニウムと決定されるなど、基礎科学での奮闘は捨てたものではない。
今度のチバニアンも同じだ。決して派手ではなく、地味な研究の積み重ねだが、正式に名称が決まれば、チバニアンは教科書にも載るようになるだろうし、とかくマイナーな科学と見られる地質学への子どもたちの関心も寄せられるだろう。
若い頃にカラブリアの地名を発見して胸を躍らせた僕のように、若い外国人が模式地に関心を寄せ、訪れてくれるかもしれない。
千葉で生まれ育ち、現在も千葉県民である僕にも、郷土の名前が世界に広まる今回のニュースは本当に喜ばしい。
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