例によって会談相手の安倍首相を3時間も待たせたロシア大統領のプーチンは、北方領土回復を希求する日本国民にもまた無限の待ちを置き土産にして16日、帰国した。

 

日本側の期待値下げ、想定どおりのゼロ回答
 9月のウラジオストクでの会談から、すでに日本側の期待値を大きく下げさせるような発言、人事などがプーチンを含むロシア側からなされていたため、安倍政権も日本国民も、今回の首脳会談でも北方領土(写真)問題解決に大きな前進がないだろうことは予想していた。

 


 それにしても、このゼロ回答に近い会談は何だったのだろう。プーチンにしても、ほとんど何も得るものはないはずなのに、なぜわざわざ2日もかけて山口くんだりまで来たのだろうか。
 冒頭に述べたように15、16日両日の日ロ首脳会談では、ほとんど何も決まらなかった。いや、むしろ日本側からの経済協力を引き出したことでプーチンの方がわずかに見返りはあったかもしれない。
 ただ日本側も、領土を置き去りにしての経済協力の「食い逃げ」を許さずの姿勢を堅持したから、協力の具体化はこれからで、ロシア側の対応によってはいつでも止められる。

 

「平和条約締結への重要な一歩」
 今回、日本側の最大の焦点だった北方領土回復は、首脳会談でほとんど議題にもならなかった模様だ。言ったところでプーチンの態度が劇的に変わるわけでなく、決裂の事態を避けるために、正面から取り上げることを安倍首相は回避した。
 ただ協議開始は「平和条約締結への重要な一歩」という文言は、その道筋には北方領土(4島か2島か、はたまた等分かはさておき)返還が避けられず、したがって平和条約締結についてこれまでプーチンは明言したことがなかったため、これを認めさせたことはわずかに日本側にとって一歩前進だったと評価できる。
 しかし4島を不法に奪取され、裸一貫で故郷を追い出された元島民の願いは今回も叶えられなかったのも、厳然たる事実だ。
 71年たっても何も変わらない、あと何年待てば良いのか、焦燥感に駆られる。

 

「特別な制度」のもとでの共同経済活動
 唯一、目新しい合意事項としては共同経済活動へ「特別な制度」を創設が盛り込まれた。ただ具体的な枠組みは、これから事務当局同士で作り上げていくことになる。
 日本側は、「特別な制度」とはロシア国法の下によらない経済活動、と理解するが、ロシア側はロシアの法的枠組みでの活動、と言っていて、食い違いは残る。ロシア側の言うとおりだとすれば、日本はインフラ投資などをただ取りされる。
 そればかりか、「特別な制度」の範囲が、北方領土4島となっていることは、むしろ日本側にとってこれまでの状況からの後退、の側面もある。

 

歯舞・色丹も「特別な制度」でか?
 本来はとうに日本に返っているはずのロシアの不法占拠された歯舞・色丹もここに含まれるからだ。これまで本日記でも繰り返してきたように、歯舞・色丹は北海道の一部であり、国後、択捉の不法占拠もさりながら、終戦後のスターリンの赤軍に不当に奪取された日本の一部であった。そこにまで日本の司法権が認められなければ、ロシアにとって好都合とも言えるのだ。
 ただ元島民の訪問が、従来より改善されそうなことは評価される。
 日本に一時高まった領土返還の希望は、これで萎えた。いつになるか分からない将来に、期待を託すしかない。

 

エリツィン時代、島はロシア本土から見捨てられていた
 これまでの日ソ・日ロ首脳会談の歴史を振り返れば、北方領土返還に最も近づいたのは、橋本首相とエリツィン・ソ連大統領との間に交わされた1998年の川奈会談だった。
 この会談で橋本首相は、施政権は当面、ロシア側に委ねるが、両国の国境線は択捉島とウルップ島との間に引く、という提案を行い、国内の経済・社会混乱に窮したエリツィンはほとんど提案を飲む寸前だった。これは随行の補佐官によって阻止され、提案は実らなかった。
 当時、ロシアの混乱で、4島に住むロシア人は本国から何の支援も無く急迫していた。多くのロシア人島民は島を見捨てて、本土に引き揚げていたし、残ったロシア人島民の間ではむしろ日本領になることへの期待が多数派ですらあった。

 

ロシアが混乱しない限りチャンスはもうない?
 この時、日本側が警察か海上保安庁職員を派遣し、4島に上陸しても、ロシア側は傍観したであろうし(非難声明くらいは出したかもしれない)、ロシア人島民からは歓迎されたであろう。
 しかし何事につけてもそうだが、平和憲法下の日本は、ロシア側からの「採ってくれ」と言わんばかりの絶好の時にも何も行動を起こさなかった。
 その後、プーチンの登場により、ロシアの混乱が収束に向かい、日本側の期待はどんどん遠のいていった。
 それを思えば、ロシア側に社会・経済混乱が起こるか、外交的な危機に陥らないかしない限り、ロシアは前向きにならないのではないか。
 予感だが、「特別な制度」でも、両国間の思惑の違いで設計が頓挫する懸念は大だと思う。

 

昨年の今日の日記:「ホモ・フロレシエンシス(フローレス人)、やはりジャワ原人の末裔;追記 アメリカ、0.25%の利上げ」