おそらく今年最大の自然科学関連ニュースが2016年早々に飛び出した。アメリカなどの国際研究チームが、1916年にアインシュタインが一般相対論で存在を予言した重力波を昨年9月14日、ついに捕え、100周年に当たる今年の2月11日、初めて観測したと発表した。
エチオピア旅行で10日間も日本を留守にすると、仕事の他に様々な雑務がたまる。そのために重要ニュースへのレスポンスが遅れる。重力波の存在の検出の報も、その1つだ。
超々微弱で誰も検出できなかった
質量を持つ物体は、その重力によって常に時空を歪めている。それがさざ波のように空間に伝わっていくのが、重力波だ。重力波は、光と違って何物にも妨げられることはないが、その伝わる速度は光速と同じ、と考えられている。
これまで多くの宇宙物理学者が、その重力波を捕えようとしてきたが、まだ誰も成功していなかった。
その理由は、重力波がとてつもなく弱いことだ。重力波が到達すると、その力で空間が伸び縮みするが、その大きさは通常なら地球と太陽の距離、つまり約1億5000万キロが水素原子1個分だけ変化する程度なのだという。
LIGO改造後、たった2日目で「さざ波」をキャッチ
それをキャッチするには、地上の「雑音」の影響を遮断できる地下深くの安定した地層中に長大なトンネルを掘り、そこの端から端にレーザー光を放ち、その距離が通常よりいくぶん変わったかを超高精度で検出するしかない。
今回の国際チームは、アメリカのワシントン州とルイジアナ州の2カ所にある長さ4キロの長大なL字形の観測施設「LIGO」でキャッチした(写真=ルイジアナのLIGO)。
実はチームは、ついていた。1999年に完成したLIGOは、まだ初歩的で、検出のチャンスは、10年に1回程度の確率、とされていた。それを08年から改造し、1年に10回程度は観測できる精度まで高めた。
昨年9月14日の検出は、観測開始からたった2日目のことだったのだ。
2つの巨大連星ブラックホールが合体した時の重力波
しかも捕えた重力波は、今から13億年前、質量が太陽の29倍と36倍の2つの連星の巨大ブラックホールが合体した時に、太陽3個分の質量がエネルギーとなって発生したものが地球に届いたとみられるからだ(写真=2つのブラックホールの合体する想像図)。
これほどの超重質量のブラックホールが2つ、合体する瞬間の重力波を捕えたというのも、またラッキーである。
残念ながら、昨年のノーベル物理学賞授賞者の梶田隆章氏らのチームによるKAGRAは、観測開始前に重力波の検出で先を越された。
人類が新たに手にした宇宙を観る「目」
しかし前述したように、重力波は光や電波と違って妨げられることはない。巧みに観測機器を調節し、精度さえ高めれば、光をも飲み込むブラックホールの誕生も重力波によって「視る」ことはできる。
ブラックホールの誕生は、滅多に起きない超新星爆発でも生じるし、さらに「星の数」ほどある銀河の中心に存在すると考えられる超大質量のブラックホールの研究も進むだろう。
人類は、重力波を媒介にした宇宙を観る新たな「目」を獲得したと言える。まさに重力波天文学の夜明けを告げる号砲が、今回の発表の意義であった。
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