東京女子流/ Ever After (2019 シングル) | 勝手にシドバレット(1985-1995のロック、etc.)

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 山邉未夢さんのブログに、「実は約2年ほど前にキー合わせをしてた」と書かれてあって、ちょっとビックリしました。ということは、EDMに突き進む東京女子流が「predawn」や「water lily ~睡蓮~」などで新しいサウンド・イメージを確立し、「アーティスト宣言」の撤回後に『TOKYO IDOL FESTIVAL 2017』に久々の出演をはたした頃、すでにこの「Ever After」が用意されていたことになります。
 翌2018年の2月には春ねむりさんに提供された「ラストロマンス」を発表しているので、同じ作者による「Ever After」も候補としてあったのでしょうが、それでも2017年は春ねむりさんがミニ・アルバム『アトム・ハート・マザー』をリリースして”タワレコメン”に選ばれたばかりの頃です。
 そこから今日にいたるまで、女子流のファンが盛り上がったり心配したりしてきた諸々も、クリエイティヴ・チームがプランを描いての事だったのですね。

 この新曲「Ever After」は、「ラストロマンス」「kissはあげない」「光るよ/ Reborn」と様々な波形のグルーヴが提示された後に、満を持して姿を現した感があります。10月5日の大阪でのライヴで披露されたとき、かなり後ろのほうで観ていた私は大騒ぎして、拍手と声援を惜しみませんでした。残念ながら私の視界ではダンスがよく見えなかったものの、とにかく挑戦的な曲で嬉しかったんです。
 クセの強い曲なので、もう一度武道館のステージに立つ夢はますます遠のきそうですが、ボディ・ミュージックさながらの音圧で迫った「光るよ/ Reborn」からここへの振幅は興味深いです。

 春ねむりさんの毒が全身にまわっている曲で、それが涼し気に、ある種のハンナリした雅さえも感じさせながら定着しています。京おんなのようにおそろしい。
 3分2秒の短さなんですが、バック・トラックの一つ一つの音に盛り込まれた刺激が強力で、振り回されるようにして聴き終えます。そして、また頭からリピートしてしまう。何が起こっているのかを確かめたくなるんです。すると、今度は誰がどのパートを歌っているかとか、あるいは底意に満ちた歌詞の裏側に迷いこんだり、やっぱり狐につままれた気分で曲を後にする羽目になります。

 本作は歌割りに特徴があります。ソロ・パートを挿みながら2人のコーラスを中心に歌いつないでゆく作りで、メンバーの歌声が個々のファンへのサービスを抑えたかのように混ざり合っています。「ラストロマンス」では、4人の声がそれぞれに日常、不安、激情、乱心などを一人の女の子の複雑な感情として表現する秀逸な歌割りでしたが、この「Ever After」でのそれは対極にあります。
 曲の構成は「ラストロマンス」がそうだったように定型には収まっておらず、♪レ、ド、レドド♪(”夢うつつ~”)のリフレインを効果的に用いるいっぽう、歌いだしの♪ラ、ファ、(↑)ド、(↓)ラ、ソ、ファファ、ドレファ♪(”愛してなんて言えない”)のメロディーが帰ってくるのはエンディング間際で、符割りも変わっています。

 ドラムの生音を使用したリズム・トラックがグルーヴの揺れを形作りながら、途中でパーカッシヴなノイズを呼び込み、フリーキーな間奏に突入します。ここも出色ですが、直後にブレイクというかドロップがあって、たおやかな音色のシンセがそっと鳴る落差もいい。
 シンセといえば、ベンディングでウネウネと弾かれるフレーズや、リズムの間合いを縫ってシャ~ッとアナログ・シンセっぽく敷かれた音、それに数々のアンビエントで断片的な音など、押し引きのセンスが絶妙です。それらがすべて、曖昧だったり、ポップだったりして、やはり毒があるし”ワルい”んです。

 そんなサウンドをバックに歌っている女子流のヴォーカル・ワークは、前述したとおり声のトーンが統一されていて、しかも心の奥を覗かせないようにノンシャランとした表情を浮かべています。「water lily ~睡蓮~」での潤いを彷彿とさせるし、小悪魔的という意味では「kissはあげない」にも近いです。こういうニュアンスは特にこの2、3年で真実味を増してきたと思います。「ラストロマンス」と比べても遊ぶような軽みがある。この軽みがサウンドの”ワル”さや歌詞の陰翳に乗った時に醸し出される、デリケートさと背中合わせの強(したたか)さ。これが「Ever After」、ひいては東京女子流&春ねむりの毒の味わいではないでしょうか。
 このフワフワとした足取りの音響にあって、それぞれの2人コーラスのバトン・タッチもスムーズ。それも全体のしなやかさに影響しているようです。
 東京女子流はじつに音楽してるグループだし、「Ever After」は音楽してる曲です。

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