東京女子流@ Esaka Muse 大阪(2019年10月5日) | 勝手にシドバレット(1985-1995のロック、etc.)

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(ホントにホントに大人になりあそばされた東京女子流のみなさん。新井ひとみ=右上、中江友梨=右下、山邉未夢=左上、庄司芽生=左下)

 

 来年に結成10周年を迎える東京女子流。AVEXのダンス&ヴォーカル・グループとしてデビューし、本格的なグルーヴ・ミュージックを志向する活動が、2010年代のアイドル・ブームの中で”楽曲派”ファンの注目を集めた彼女たちも、ついに10年選手になろうとしています。そんな女子流の最新ツアー(「LIVE HOUSE TOUR 2019 "Birthplace~それぞれの原点"」)を大阪のEsaka Museまで観に行ってきました。
 今回のツアーはメンバー4人の出身地(宮城、山形、大阪、千葉)をまわって、東京で締める行程。大阪は中江友梨さんの地元で、お母さんらしき方(目元が似ていました)を会場で見かけました。
 東京女子流は9月25日に『CONCERT 07 10年目のはじまり』という生バンドをバックにしたライヴ映像をリリースしており、今回のツアーはそのプロモーションも兼ねているようです。ただ、近年のツアーが音楽性の変化の節目を印象づけたのと比べて、今回はコンセプトがいくぶん緩やか。ツアーだから複数の場所を訪れるわけですが、そこにメンバーの出身地めぐりというアングルを設けて、アットホームでくつろいだ気分を喚起させます。

 ライヴの内容からもそのホッコリとした温度が感じられました。大阪は中江さんの地元であるだけでなく、女子流が毎年恒例の忘年会ライヴをおこなっている土地でもあります。それもあってか、メンバーがステージに登場して沸き立つ拍手と歓声の中にも和やかさがあり、オープニングでは「キラリ☆」「鼓動の秘密」「Limited addiction」と続く初期の代表曲をリラックスして楽しめました。
 私が女子流のライヴを観るのはこれで5回目くらい。前回の京都FAN Jが2017年だったので、2年ぶりとなります。となると、ほとんどお正月に親戚の子供たちと会うようなものです。そして前回もしみじみと思ったことですが、4人とも本当に美しく変わっています。みなさんそうなのですが、とくに山邉未夢さんの洗練ぶりは眩しいくらいで、あのミスティな歌声にピッタリ。彼女たちの10年はそういう歳月でもあったのだなとの感慨をおぼえました。

 それは単にオヤジ目線だけではありません。今やインディーズのアイドル・グループがライヴでカヴァーする定番でもある「おんなじキモチ」を歌い踊る現在の4人を見ていると、この曲をリリースした2011年にまだ中学生だった彼女たちが、ベテランとして今度は見守る番にも来ていることを実感せずにはおれませんでした。♪大スキなキミがそばにいる それだけで大丈夫♪と歌われる真っさらでピュアな恋や友情は、「それだけで大丈夫」ではない事を知っている大人こそ、大丈夫なんだよと子供たちに伝えたいものです。今の女子流は、そんなメッセージを音楽に乗せて手渡すお姉さんのように「おんなじキモチ」を歌うことができます。この曲が”封印”を解かれてよかったと、今さらながらに喜びました。
 それに、「おんなじキモチ」にかぎらず、東京女子流の楽曲はいい。やっぱり、どの曲もすごくいい。これだけの宝の山を持っているグループって、なかなかいません。

 今回のライヴを観に行く前に、彼女たちが各々の故郷を訪れる動画「TOKYO GIRLS' SKY」をYouTubeで視聴しました。
 東京女子流は音楽とパフォーマンスで勝負するグループで、リアリティ・ショー的な見せ方で裏側をアピールすることは滅多にしません。でも、その動画では出身地に帰った彼女たちが周囲からの認知度の低さを痛感する姿を垣間見せていました。誰もが共有できるヒット曲が少ないこの時代にあってはそんなに取りざたされるほどの事ではないのだけど、10年目を迎えるにあたってこの現状はやっぱり厳しいものだろうし、家族からの応援にこたえたい焦りだって強まるでしょう。山邉さんはこの1年のあいだに脱退を考えたことがあったと告白しています。ここ数年のシングルを聴くと、女子流は音楽的にもさまざまな質感のサウンドと向き合っています。

 けれども、EDMに接近したりクリエイティヴ・チームが変わってからも、女子流の曲はどれも見事なクォリティのものばかりです。そこにはいわゆる「大人っぽい」イメージの曲を歌わせるだけの安直さはまったくありません。常にチャレンジを続けているし、それと成長を切り離さない。「同じことは二度とやらない」東京女子流であることをやめません。
 私は昨年の7月にリリースされたシングルの「kissはあげない」について、「東京女子流には、リズムとともに成熟し、リズムとともに優雅になっていくグループであってほしい。」と書きました(記事はこちら)。ストイックなまでにグルーヴを追求する姿勢に感激した私なりの願いでした。
 ところが、今年の2月に出た両A面扱いの「光るよ/ Reborn」は私にはいささか対処に困るシングルでした。それぞれにアッパーでユーモラスな曲調で、SUPER GiRLSや48グループなら最高にハマるだろうけれども、東京女子流がこれをやるのか?との疑問は拭えず。たぶん、女子流に過去最大の距離を感じたシングルでした。だからこそ、この2曲についてはライヴで確かめたかったんです。

 それらの2曲はライヴの前半、「おんなじキモチ」の後に披露されました。序盤を「Killing Me Softly」「約束」といった歌とコーラスで聞かせる初期の曲で締めて、MC明けに、やはり初期の「おんなじキモチ」。なじみ深いナンバーで安心させる流れなのかなと思っていました。
 しかし、ここは客席と一緒に歌って踊って”沸く”パートだったんです。そこに来たのが問題の「Reborn」と「光るよ」。

 これがメチャクチャよかった。
 いや、私もコールやMIX満載のこの種の曲は嫌いではなくて、むしろ積極的に参加するタイプです。だけど、CDで聴いたかぎりでは、こういう事をやらせるとスパガや48グループのほうが自然でウマいよなと思ったんです。
 そんなことなかった。女子流のこの2曲はボディ・ミュージックでした。作法やノリこそ従来の女子流のイメージと違えど、見事に独立したグルーヴの波形を描いていました。「Reborn」なんかはパリピっぽくて似合わないようで、じつは押し引きが巧みにコントロールされています。ああ、オレは東京女子流のことを何もわかっていなかったんだ、と私は自らを責めました。
 
 なによりも、ライヴならではのハジけたパフォーマンスがよかった。とくに庄司芽生さんの笑顔!以前からステージで癒しの効能があった彼女のスマイルが、ここでは♪ファイヤ~!!♪と叫んで顔を破きそうになるほど巨大化します。普段おっとりした感じの人のこういうハジけっぷりは、いい。見ていて釣られるし、こちらの頬もゆるんで体も動きます。
 この2曲の盛り上げが和やかだった空気を強火で煮たたせ、続いたのは毎回曲目を変えるカヴァーのコーナー。この日はSPEEDの「Go!Go!Heaven」とEvery Little Thingの「出逢った頃のように」でした。
 わが推しメンの中江友梨さんは喉の調子を悪くしていたのですが、ライヴ全体にわたってメンバー間で歌割りを変えたりコーラスで友梨ちゃんを支えていたのが10年選手の逞しさです。「あれ?いつもと違うな」という小さな変化に長年培ってきた結束がのぞく。これもまたライヴならではです。どちらのカヴァーも溌溂としていて、とりわけ「出逢った頃のようには」こんなにいい曲だったのかと驚きました。
 
 いつの間にか後半に入っていたセットリストは、ここで「初恋」が登場しました。これは2018年のシングル「ラストロマンス」のカップリング曲で、東京に憧れて上京した若者の思いが綴られています。それが東京女子流のプロフィールと重なるところもあって、聴いていてせつなさがかき立てられます。
 メンバーの出身地をめぐる今回のツアーの核となっていると言ってもいいでしょう。歌う4人のヴォーカルからは私的な感情の揺れや震えが伝わってくるかのようでした。「ラストロマンス」での蒼くささくれ立った表現とも共鳴するこの「初恋」のせつなさは、彼女たちの佇まいに若さのリアルな呼吸をもたらします。
 そして披露されたのが私も大好きな「kissはあげない」。あの裏打ちのビートにフワリと乗った新井ひとみさんのヴォーカルは、甘さの中にピリッとしたトゲが利いていて、彼女にしか出せない節回しです。続く初期の傑作「Don't Be Cruel」でも、そんな甘い企みの感覚をずっと前からこの人の歌は持っていたんだと思い知らされました。

 ライヴ本編の終盤はここ5年の女子流でいちばん重要な曲でもある「深海」、それに「Never ever」。中江友梨さんも持ち前のバイタリティーで喉の不調を乗り切れたようです。友梨ちゃんのダンスもグループとしてのパフォーマンスもこのEDM2連発が今回いちばん良かったし、圧倒される迫力がありました。ダーク・ブルーの照明でほとんど何も見えないステージの上を4人が激しく踊っている「深海」でのシルエットは、今までで最も強く焼きつくことになりそうです。
 アンコールを受けて、曲名も告げずにお披露目されたのが10月16日にリリースされる新曲の「Ever After」。「光るよ/ Reborn」の次にあたるこの曲は、「ラストロマンス」の毒をさらにワルくしたようなエレクトロ。ノイジーな間奏にのけぞりながら、やっぱりこのグループの姿勢には惹かれるものがあると嬉しくなった次第です。隅々までは見れませんでしたが、ダンスも凄そう。
 最後は「W.M.A.D.」。ライヴでは久しぶりに見た気がしますが、どうだったか。それが思い出せないくらい、私は新曲にやられました。はたして、この曲でセールスは大丈夫なんだろうか、私みたいな嗜好の人間が喜ぶということは、けっこう次も厳しいんじゃないのか、などと気をもみながらも、生バンドや歌の揺れがいっぱい入ったライヴDVD『CONCERT 07 10年目のはじまり』をリピートして新曲を待っています。
         
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