東京女子流の10曲 | 勝手にシドバレット(1985-1995のロック、etc.)

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ロックを中心とした昔話、新しいアフロ・ポップ、クラシックやジャズやアイドルのことなどを書きます。

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 東京女子流のプレイリストを作ってみました。
 彼女たちの音楽の大半はR&B~ファンクのグルーヴ・ミュージックなんですが、ロック寄りの曲もあればラテンっぽいテイストのものもあります。EDMに傾倒した曲もあるし、リミックスになるとそこからさらに変化していきます。セレクトは困難をきわめるだろうなと予想しました。
 そこで、プレイリストを共有する相手を、女子流のファンになる前の自分に設定しました。その頃の自分でもこれなら一発で参っただろう、と妄想できる内容のプレイリストを作成したんです。
 結構タイヘンな取捨選択でありました。なにせ女子流の曲はどれも良い。あれやこれやで悩みました。そして、どうにか”昔の自分に聴かせたい東京女子流プレイリスト”が完成しました。
  なお、ランキングではなく、自分が釣られそうな流れを念頭においた曲順で、トータルは10曲46分です。
 
リフレクション
 
 2015年の末に出たアルバム『REFLECTION』のオープニングを飾っていた曲です。
 黒くバウンドする曲のほうが女子流プレイリストの1曲目にはふさわしいのかもしれませんが、私の性格からして、どのツボを攻められているのか明確な施術より、なんかわからないけど漠然と心地よいぞ、と感じさせるものに惹かれるのです。
 コーラスから始まるこのイントロも女子流では珍しいもので、フックが利いているだけでなく、展開に期待を持たせます。そして、♪この5センチのセンチメンタル♪に始まるBメロの美しさ。すべてが流麗でしなやかです。このしなやかさをこそ、未だガールズ・グループに眉唾だった頃の私にぶつけたい。
 
ちいさな奇跡
 
 次いで繰り出すのが、このポップ・ソウル・ナンバーです。
 この曲は5人だった女子流のソロのパート割りがとにかく良くて、”歌ウマ”の小西彩乃さん、甘味と安定感の新井ひとみさん、勢いがチャーミングな中江友梨さん、声の張りが健気な庄司芽生さん、そして独特の声質で耳を惹かれる山邉未夢さんと、それぞれが楽曲の窓を一人ずつ開けては閉めて遊んでいるような楽しさに、ついつい破顔してしまいます。同じメロディーの繰り返しを5人で歌い継いでいく終盤は、何度聴いても高揚させます。
 
鼓動の秘密
 
 これはもう、いっさいの前情報がなくとも魅了されたであろうキラー・チューンです。聴き手が何歳であろうと心に若さとせつなさを芽吹かせる魔法にかけてくれます。
 キャッチーであり、ポップであり、かつ品があります。めちゃくちゃにクォリティが高い。女子流のこの品の良さとクォリティの高さは、私にはもどかしさとも表裏一体な場合があるのだけど、「鼓動の秘密」でのそれは大正義。もっとたくさんの人に聴いてほしいし、歌われてほしい曲です。♪胸の奥で叫んでも♪からの”『アビー・ロード』のポール”感というかH2O感というか…日本人の琴線にふれるUKポップ風味には抗えません。
 
ずっと忘れない。
 
 ここまでの3曲で私の好みのかなりの部分を突かれているところに、駄目押しのポップ・ソウルの一撃。これで陥落は時間の問題です。
 5人時代の東京女子流は、いちばんディープな歌をきかせる小西彩乃さんを擁していたのですが、グループとしては声をR&Bふうに作ったりせず、あくまで”歌とダンスの好きな日本の女の子”の実在感をたいせつにしています。
 それがライトな跳ねでグルーヴに乗っている「ずっと忘れない。」は、これがファンキーであることすら忘れるくらい自然に体を動かしてしまう曲です。小学生の頃にフィンガー5で育った私は、ソフトに黒っぽいこういうタイプの曲に非常に弱い。
 
Limited addiction
 
 で、ここで「Limited addiction」を喰らって打ちのめされます。陥落です。
 今回、「ヒマワリと星屑」や「Liar」「Don't Be Cruel」などの代表曲を(泣く泣く)選外にしまして、また「Count Three」など一連のハードボイルドでノワールな女子流も、あえて外すことにしました。一種の”気魄”曲だけではない面をアピールしたかったのです。
 でも、「Limited addiction」はどうしても外せない。
 東京女子流の曲はBPMが110~120のものが多く、これは昨今のJ-POPやアイドル・ソングでも遅いほうです。参考までに、AKB48の「ヘビーローテーション」は180弱で、ももいろクローバーZの「行くぜ!怪盗少女」は160前後。
 「Limited addiction」のBPMは、たぶん110くらい。AKBの「恋するフォーチュン・クッキー」が120なので、あれよりも遅いわけです。
 この遅さが曲、演奏、そして歌と結びついたファンクな足運びをカッコいいと思うかどうかも、女子流にハマるかどうかの一つの分かれ目であります。私は、ずっパマりするほう。
 小西彩乃さんをキー・パーソンに、独自の熱量で張り合う新井ひとみさんとの双頭体制でのぞむ歌もいい。山邉未夢さんの異世界から降ってくるような♪タイムリミット~!♪にもハッとさせられます。この曲がBPM以上の切迫感を醸し出しているのは、バックの演奏の手数を除くと、恋を思いつめた男の子の苦悶を描いた歌詞、それに彼女たちのヴォーカルの性急なビート感によるものです。♪曖昧なんてやだよ 露骨にせつないよ♪と言葉を畳み込む息づかいの蒼い荒々しさは、そのへんのロック・バンド気取りなんぞを吹っ飛ばします。
 
Stay with me
 
 と、ここでガラリと雰囲気を変えて、ミディアムのソウル・バラード。
 この曲は新井ひとみさんをメイン・ヴォーカルに、ほかの4人はバック・コーラスに徹しています。このことを”ひーちゃんと愉快な仲間たち”みたいに揶揄する声があったのだけど、それは違うでしょう。
 ここで試みられているのはR&Bコーラスです。女子流はこのひとつ前のシングル「Say long good-bye」でも同様のバラードにチャレンジしており、「Stay with me」ではさらに簡潔に、そしてオーセンティックな作法を踏まえて70年代ソウルのコーラス・グループの魅力を自分たちに重ね写しています。
 ドラムが入って4人とのコール&レスポンスで曲が進む展開は、グループならではの声の響き合い。もちろん、メイン・ヴォーカルだけではなくバック・コーラスも相当に”おいしい”のです。
 
READY GO! 
 
 アルバム『リフレクション』は東京女子流のEDM接近直後という点だけではなく、軽みを持ちながらもそれまでのポップ・ソウル系とは趣を異にするサウンドに聴きどころがありました。
 「Ready Go!」もそのひとつです。ボトムを強調せずパシャパシャと鳴るドラム・サウンド、それにヴォーカルもトラックにフワリと乗った浮遊感があって、どこか余裕すら感じさせます。ディープな歌唱を担当してきた小西彩乃さんが脱退して4人となったことも大きかったのでしょう。
 いわゆる”カワイイ”系でもない、年齢に見合った等身大のポップな色気を感じさせる好曲です。
 とくに山邉未夢さんの歌。彼女の淡く霞んだ声は新しい女子流サウンドのコンテンポラリーな洗練を特徴づけるものです。そして、翌年のEDM攻勢ではいっそうの効力を発揮することになります。
 タイトルを繰り返すコーラスの、気張らない洗練から聞こえる軽やかなステップが最高に楽しい一曲。
 
We Will Win !-ココロのバトンでポ・ポンのポ~ン☆- 
 
 チア・ソングとしては「頑張って いつだって 信じてる」との姉妹編。これが「Limited addiction」の念のこもった世界と両A面扱いだったことにも驚きます。
 ♪Say go! Say fight!♪などの掛け声と、ギターの16ビートのカッティングに導かれてブラス・サウンドも絡みだす、シュガー・ベイブ直系のシティ・ポップです。♪ギュッとギュッと♪♪ポポンのポ~ン♪といった言葉が陽気にオシャレに弾みます。新井ひとみさんを中心としたメンバーのノリの良さが、聴いているうちに一緒になって歌わせてしまう。
 彼女たちの結成以来のコンセプトが「音楽のたのしさを歌って踊って伝えたい」であることを知らなくとも、これを聴くとぞんぶんに伝わってきます。センスだけの話ではないとは言え、やっぱりこのセンスには信頼がおける。
 
predawn
 
 ここで現在の東京女子流を代表する曲を。
 本当は「Never ever」以降、この「predawn」を挿んで「water lily -睡蓮-」と”新生”女子流を一気に聴かせたいところですが、昔の私はEDMっぽい音に抵抗があったので、その最初の到達点である「predawn」にとどめておきます。
 これはしかし、EDMとかトロピカル・ハウスとかのジャンル名にこだわらなくとも傑作です。今後、女子流がどういう音楽性を取り入れたり追求していくにせよ、「predawn」は彼女たちの代表曲のひとつとして残っていくでしょう。
 サウンド・デザイン、もしくはトラック・メイキングがソング・ライティングと同等に主張するこの曲を得て、女子流は情景や心情を自然の色あいに託し、それを詩的でコンテンポラリーなダンス・ナンバーに仕上げることに成功しました。彼女たちが4人になって大人にもなって、自分たちの今を映す鏡として「predawn」のこのサウンドと出会ったことにも感慨深いものがあります。
 ♪君と輝く夢を見てたい♪や♪僕のすべてを君色にして♪とうたう彼女たちには、アイドルもアーティストもない。ヴィヴィッドな音楽とグループがここにあります。
 
A New Departure
 
 プレイリストを閉めるのは、2014年のアナログ7インチのシリーズでも最後を飾ったこの曲。
 フィリー・ソウルをお手本にしたとおぼしきストリングス系とブラス系のアレンジが活躍します。形は変わっても常にグルーヴとともにある女子流にピッタリの曲で、はじめてこれを聴いたときは感激したものです。
 抑え気味の低い歌いだしから、ヴァースを転じるごとに少しずつ高く上昇していく構成は空への飛翔そのもの。この離陸する解放感が「A New Departure」の魅力です。ライヴでも客席が手を振って沸き立ちます。
 もともと、私が好むタイプの曲なのは間違いありません。それに加えて、ここまでの9曲を経たうえで聴くと、たぶん、これがいちばん嬉しく盛り上がることでしょう。
 
 このプレイリストには「W.M.A.D.」も「LIFE SIZE」も「加速度」も入っていません。それがとれほどの手落ちなのか、作った私がよくわかっています。
 ここに挙げたのは私がことのほか気に入っている10曲です。まだ好きな曲はいっぱいあるし、それほど好みではなくとも、やっぱり良いなぁと思える曲まで入れると、全曲になります。
 それでわかったんですけど、私は東京女子流というグループの在り方が好きというか、音楽に向かう姿勢が信頼できるから、どんな球を投げて来ても喜んで受ける、という気持ちが強いのだと思います。
 
(この記事は「ノワール&ハード編」としてこちらに続きます)