「オレらにコーヒーぶっかけておいてトンズラとは良い度胸だな」
3人組の男が目の前に立ちはだかる。
いやいや、あなたたちの顔なんて知らないから。
近くの席だったらあなたたちの顔覚えてるはずだし、コーヒーこぼした時点でそっちも何か言ってくるよね?
店を出てすぐ絡まれるとは。
回りの人も関わりたくないと、避けて通り過ぎていく。
朝から何やってるんだろ。
「ん? お前ら手袋してるな。『指無し』か」
「だったら何?」
僕はぶっきらぼうに答えた。
「別にこの町では珍しいもんでもねえけどよ。奇形のキモい奴はいるだけで不愉快なんだよ。コーヒーかけた分と不愉快にした慰謝料払って消えてくれよ」
3人組のリーダー格の男がニヤニヤと手を出す。
後ろにいる2人は腕組みして僕らを見ていた。
相手するのも面倒臭い。
「何だ? 変な術でも使うか? ショボい事しか出来ねえんだろ。この前の奴も指先に火付けるだけのへなちょこだったしな。タバコ吸う時にしか役に立たねえつーの」
3人で笑い出す。
ひとしきり笑って奴らはナイフを握りしめる。
目付きも鋭くなった。
「早く出せよ。それとも怪我したいのか?」
相手の言葉にため息が1つ。
やれやれ。
「············ワン」
小声で。
大した能力じゃないけど。
発動した途端に奴らの様子が変わる。
「何か、急に重くなってね?」
取り巻きが騒ぎ出す。
「あのガキの雰囲気。ヤバいかも」
少し、顔色が悪くなったように見えた。
一歩。
「な、何だよ!」
もう一歩。
「来るな!」
さらに一歩。
さすがに能力に気付いただろう。
表情が固まっていた。
「お、覚えてろよ!」
奴らは逃げ出した。
一体何がしたかったんだか。
「力、使ったね」
「少しだけ」
「別にそこまでしなくても良かったんじゃない?」
メルはフフフと笑った。
「元はと言えば私がコーヒーこぼしたのが悪いんだもんね」
「別にメルのせいじゃないし」
顔が熱い。
上目遣いなんてズルいよ。
「ふふふ」
ふいに男とも女とも言い切れない声が聞こえた。
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