プロローグ(1-1)
ジェフ&カーリー その1
「な、何でオレが......」
黒服の男はそう言い残して倒れた。
男は自らが生み出した大蛇の姿をした巨大な影の化け物に喰われていた。
すぐに大蛇も影に溶けるように消えた。
あとに残ったのは戦いの記憶。
焦げた草、折れた枝、傷の付いた幹。
そして一連の出来事を見ていた1つの人影。
「1つの終わりは1つの始まり」
ポツリとこぼして人影は消えた。
ここは深い深い森の中。
魔女の森、と呼ばれる土地である。
古の遺跡があり、魔女が住む呪いの森と昔から伝わる場所。
賞金稼ぎやトレジャーハンター以外には近寄らない。
遊び半分で行った者は帰れない。
彼らに聞こえるのは、獣の声、焚き火の弾ぜる音。
それすらも暗闇に吸い込まれていく夜。
ほんのりと照らされている男女の顔。
歳は20代くらいだろうか。
男の右手には指が2本、女の方は3本しかない。
「指無し」と呼ばれる異能者であった。
「ジェフ。意外と簡単だったね」
女は後ろでまとめた髪をほどく。
バッと広がりサラリと肩まで流れた。
「カーリー。俺たちの力があれば当然の結果だろ。相手が最強クラスのファースト異能者でも関係ない無敵のコンビ。だろ?」
男は右手の先から炎を出してみせた。
彼らは依頼でとある異能者を追っていた。
それも、世界でも数人しかいないトップクラスの能力を持つ異能者。
そんな相手に勝ったのだ。
2人の表情には自信と余裕が滲み出ている。
「ふふふ。無敵のコンビだなんて。それって賞金稼ぎのパートナーとして? それとも......」
妖しく微笑む女。
2人の距離は息がかかるくらいに近い。
「男女のパートナーとしても無敵で最高だって言いたいんだろ。とにかく明日こそは魔女の宝をな」
男は女の顎に手をやる。
そして唇を塞いだ。
月はただ、陰から静かに覗くばかりだった。
世界に右手指のない者が生まれるようになって20余年。
彼らは異能を手にし、時代は変わった。
人々は異能者を時には恐れ、時に利用する。
異能を使った犯罪が始まり、異能のための学校ができた。
異能を持つだけで社会不適合者と罵られる事も少なくない。
彼らの行き着く先はまだ誰も知らない。
魔女を除いては。
森は魔女の住処。
指無しを生んだ場所。
そして、始まりの地。
主人公アントン・ウッドバーンは、まだジェフたちの事を知らない。