黄連解毒湯と白虎湯 | 松山市はなみずき通り近くの漢方専門薬局・針灸院 春日漢方

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黄連解毒湯と白虎湯

 

       
            キトラ古墳の白虎

なぜ古墳の壁画が出てくるのかは、のちのち明らかになります。

 

 
   < 40代、男性  肩こり・口内炎・逆上せ >

当店に来られたころは、胃腸の調子が乱れやすく、口内炎をよく患っていました。

お通じが、緩くなったり、便秘して出なくなったり、一定しません。
では、どういう時に緩くなり、どういう時に便秘するのかは、なってみないと分からないらしい。

食欲は、おおむね旺盛。
それでも、仕事がうまく進まないときには、仕方なしに口に押し込んでるようなことになることも。

お仕事は、すこし特殊な技術職で、1週間ほど出張して、あちこちの工場のメンテナンスをします。
工場ごとに、毎回、別のトラブルを起こすので、何が起こっているのか、その都度、判断して対処しないといけない、気の抜けない仕事です。

出張では、ホテル住まいになるので、そういう時は、ご飯が美味しくはない。
枕が替われば、ぐっすりとは眠れません。
そうなると、肩こりも酷くなるし、しょっちゅう舌を噛むようになって、そこから口内炎が広がります。

目も充血して、白目の出血や結膜炎も起こしやすい。

そのころは、要は仕事の精神的なストレスと、不定期な睡眠や食生活から、胃腸に負担が掛かっているのだろうと考えました。

治療の基本は、胃腸の元気を補うこととして、不眠や口内炎・結膜炎など、身体の上部に停滞した余計な熱気を冷ますことで治療します。

  <半夏瀉心湯の薬理>

人体の下部のお腹は冷えて弱って、上部の「心」に熱が多い時には、「半夏瀉心湯」という処方が対応しています。

「半夏瀉心湯」は、胃の体液を増やす「人参」と、胃腸の深部から温める「乾姜」。
この両者で下部の胃を温め元気にします。

        

                人参 

        
                乾姜 
いっぽう「黄連」「黄芩」は、強烈な苦味で、上部の「心」の熱気を冷まします。
この温めるものと、冷やすものが、同居しているのはが「半夏瀉心湯」の特徴です。

        

              黄連

      

              黄芩


そして「半夏」が、胃と「心」の上下に分離した気を巡らして寒熱を調和させます。

この方の場合は、食欲が落ちること、下痢することも少ないので、胃の冷えよりも、上部の「心」熱が目立つ状態です。

煎じ薬なら、お腹を温める「乾姜」を減らして、「心」熱を冷ます「黄連」「黄芩」を増やすなどの加減ができますが、この方は出張が多いので、既製品の粉薬の組合せで対処しないといけません。

「半夏瀉心湯」に、「心」熱を冷ます「黄連」「黄芩」の応援団として、「黄連解毒湯」という処方の粉を、少量加えました。

 

    <黄連解毒湯>

 



「黄連解毒湯」は、「黄連」「黄芩」のほかに、「黄柏」「山梔子」が加わります。

どの生薬も、派手な黄色・赤の処方です。
    
漢方の生薬は、すべて酸・苦・甘・辛・鹹の5味に分けられて、効能も決まります。

ふつうの食品では、苦味のものは、ニガウリくらいしかありませんが、漢方薬の苦味は、本当に強烈で、とくに「黄連」などは、口に入れると、あまりの苦さに吐き気がして、あとで寒気がするほどです。

苦味は、消化管や血管など、熱で弛んだ器官を引締め、熱を冷まします。

「黄連解毒湯」は、選りすぐりの苦味薬を4種あつめた処方で、胃から「心」の身体の上部の熱気を強く冷まします。

「半夏瀉心湯」+「黄連解毒湯」の組合せで、胃腸を調えて、「心」熱を冷まして、肩こり・口内炎・結膜炎・不眠などにうまく対処できていました。

その後も体調の変化に応じて、「柴胡桂枝湯」、「桂枝加芍薬湯」+「黄連解毒湯」など、胃腸の調子を調えることにポイントおいて、処方を選んできました。


  <逆上せ・熱感・寝汗・不眠>

それが、近ごろは、胃腸に関わるトラブルは無くなりましたが、それに代わって身体の熱感、いつも顔が逆上せて赤い、寝汗、眠りが浅くぐっすり寝た気がしない、という症状に変わってきました。

とくに夜に寝てからの、身体の熱感が強く、冬でも寝るときは下着一枚で、薄い夏布団だけで寝ているらしい。
それでも、夜中に寝汗をかいて、布団を跳ねとばしている。
寝汗のせいで、睡眠も浅く、何度も目が覚める。

それに対して、「心」熱をより強く冷ますように、「黄連解毒湯」の割合を増やしたり、さらには「黄連解毒湯」だけを処方したりしましたが、あまり効果が得られません。

  <麦門冬湯>

この方は、風邪をこじらせたり、コロナに罹ったときも、最後は、咽喉がイガイガして、夜中にひどく咳き込む状態になります。
その時は、肺の体液を潤して、肺の熱を冷ます、「麦門冬湯」がよく効いていました。

         
                      麦門冬
そのことから、夜の逆上せ、熱感、寝汗などは、「心」熱ではなくて、「肺」熱なのではないかと考え直しました。

また、寝汗という症状は、単に身体に熱気が多いだけではなくて、身体の内部に、体液の不足など、どこか弱いところがある場合に起こります。
身体に弱いところがあるので、表面から汗が漏れ出るのを防げないのです。

「麦門冬湯」は、「麦門冬」が肺の体液を補い、「人参」「粳米」が胃の体液を作りだして、身体の弱いところを補います。

しかし、「麦門冬湯」だけでは、冬でも寒くないほどの、身体の熱気が抑えられそうもありません。
そこに「心」熱を冷ます「黄連解毒湯」を加えても、これまでの経験から、効果は無さそうです。

そこで思いついたのが、「白虎湯」です。


             白虎湯
左上から、「石膏」「知母」「粳米」「甘草」

「黄連解毒湯」がきつい黄色系なのに対して、「白虎湯」は全体に白っぽい生薬でできています。
 

主薬は「石膏」  「白虎湯」には、大量16グラム入ります。

鉱物の「セッコウ」そのものです。
少量、2~3グラムの「石膏」は、体表面の熱気を冷ましますが、大量の「石膏」は、肺の内部の熱気をダイレクトに冷まします。
大量の「石膏」は、よく患者さんの状態を見極めて使わないと、全身が冷えてぐったりしたり、下痢や嘔吐を起こします。

「知母」は苦味の生薬ですが、肺の内部を潤しながら熱を冷まします。
「知母」の6グラムも、やはり「肺」熱をきつく冷まします。

「粳米」は玄米です。胃から肺の体液の元を補います。

「白虎湯」は、肺の熱気を冷ますのに、もっとも強力な処方です。
だから、古典の『傷寒論』では、使い方を間違うと、全身が冷えて下痢が止まらなくなると、警告してあります。

私も、煎じ薬で「白虎湯」を使った経験は、40年間で4例しかありません。
アトピー性皮膚炎で、皮膚がただれて、強い痒みで一睡もできないような患者さんに使いました。

既製品の粉薬には、「白虎湯」そのものは無くて、そこに「人参」を加えた「白虎加人参湯」があるので、それを「麦門冬湯」の熱冷ましの応援に加えました。

粉薬で、他の処方に少量加えるだけなら、問題は無いでしょう。

「麦門冬湯」+「白虎加人参湯」 
この組み合わせにしてみたら、初めて、ぐっすり眠れた、という感じが分かったそうです。

寝汗をかいて、夜中に何度も目が開いたり、着替えたりが無くなりました。
夜、ぐっすり眠れたら、朝起きたときの身体の爽やかさがぜんぜん違う。

これなら旅先のホテルであっても、朝からスッキリした頭で仕事にのぞめます。


        

 

                四神図
  
さて、ここで冒頭のキトラ古墳の壁画の話しに戻ります。
古墳の石室の4面の壁に、西の白虎をはじめ、東の青竜、南の朱雀、北の玄武と、「四神」の絵が描いてありました。

東西南北の四方に、青・白・赤・黒の4色が配されています。
この4色には、春・秋・夏・冬の四季が対応します。

では、その四方・4色・四季に、人体の五臓を当てはめるとどうなるか?
東・青・春には肝。 西・白・秋に肺。 南・赤・夏に心。 北・黒・冬には腎となりますが、おや、五臓の最後、脾はどうなるのか?

ここらが、東洋思想の融通無碍というか、どうとでもなるところで、四方には中央、4色には黄、四季には各季節の終わりの18日間を、「土用」といって、脾と対応させます。
世間的には、ウナギを食べる夏の土用だけが、有名ですが、四季それぞれに土用があります。

やっと「白虎湯」のネーミングが説明できます。
さっき、「白虎湯」の生薬が、白っぽい物ばかりというのも、ネーミングと関係しますが、「肺」の熱気を冷ます処方だから、「白虎湯」の名がついたと言えるでしょう。

では、他の「四神」の処方はあるのか?
『傷寒論』には、「小青竜湯」「大青竜湯」があります。

あと、玄武の名に似た「真武湯」があります。
全身冷えて下痢するときの処方で、玄武・北・冬のイメージはあります。

朱雀湯という処方は無さそうです。
それは棗の赤に因んだ「十棗湯」だという説もありますが、これは作用が激しいので今は使われない処方です。