家族の反対を押し切り、姉さんが家を出て行ったあの日から12年。
姉さんが亡くなったあの日は、例年より早い梅雨入りのせいで冷たい雨が一日中降っていた。
大人達が葬儀の準備に追われる中、その少年は部屋の隅で俯いたまま、まるで置物のように微動だにせず座っていた。
この子が姉さんの……
少年の前で静かに膝を付くと、気配を感じとった少年の肩がビクリと揺れた。
「相葉雅紀くん……だね?」
出来るだけ穏やかな声で訊ねると、少年は俯いていた顔をゆっくり上げた。
ああ……似ている
目許が、鼻が、口許が
初めて会った時の姉さんにとてもよく似ていた。
違うところがあるとするなら、若干色素の薄い髪色。
それが誰に似てるかなんて、想像するつもりもなかったけど。
「あなたは?」
「俺は……」
「俺の名は櫻井翔。
君のお母さんの弟で、君の叔父さんだよ」
「オレの、おじさん?」
少年が不思議そうに首を傾げた。
着ている服は中学の制服なのに、その表情はどこか幼くて、とてもアンバランスにも見えた。
「君はこれからうちに来るんだ。
俺と一緒に暮らすんだよ」
「おじさんと一緒に?」
今日会ったばかりの男に突然そんなことを言われて、少年が戸惑っているのは明らかだった。
でも、亡くなる前
姉さんに頼まれた。
雅紀を頼むと
守ってくれと
そして、自分の分まで幸せにしてくれと
それが姉さんの望みなら
「雅紀……」
「…………」
「俺と一緒においで」
そっと伸ばした手をじっと見つめ、少年は小さく頷いた。
つづく