それからは「これまで通り」に振る舞う努力をした。
そうすることが櫻井くんのためで
未華子のためで
なにより、僕のためだと思ったから。
キャンパス内でふたりの姿を見つけると、最初は胸が痛んだけど
そのうち痛みの感覚が麻痺してきて
案外平気になってきて
そう
「これくらい平気平気」
そう言って笑えるようになった。
それから半年以上過ぎた頃だった。
未華子の妊娠がわかったのは。
未華子は櫻井くんに迷惑はかけられないからと、大学を辞めてひとりで産んで育てると言った。
でも、そんなこと櫻井くんが許すわけなくて
親に認めてもらおうと、何度も何度も説得を試みたらしいけど
櫻井くんの両親は首を縦には振らず
「相葉くん、ごめんね」
その言葉だけを残し、ふたりはこの町からいなくなってしまった。
色んな人にふたりの行方を聞かれたけど
電話をしても繋がらない
メッセージだって既読がつかない
そんな状態が1年くらい続いたある日
僕の元に一通の手紙が届いた。
真っ白い封筒には、差出人の名前も住所もなくて
でも、直感であのふたりからだとわかった。
逸る気持ちを抑えながら慎重に封を開けると、中から出てきたのは可愛い赤ちゃんの写真だった。
水色のベビー服を着た赤ちゃんは「翔」という名前で
無事生まれてきてくれたことに、僕自身ホッと息をついた。
でも、安心したのはそこまでだった。
手紙を読み進めると、そこには未華子が死んだことが綴られていた。
つづく