「スサノオノミコト様があまりに乱暴なさるので、アマテラスオオミカミ様は天の岩戸にお隠れになり天地は真っ暗になりました。その天の岩戸が向かいの崖の中腹の洞窟です。そこでお困りになった八百万(ヤオヨロズ)の神々は、すこし上流の天安河原(アマノヤスガワラ)に集まって相談しました。そして岩屋の前で宴会を始めアメノウズメノミコトが賑やかに舞い踊り、大騒ぎに興味を示した、天照大神が岩戸を少し開いたところをタジカラオノミコトが岩戸を開け信州の戸隠山まで投げ飛ばし、世に再び光が戻って参りました。」九州は高千穂の天の岩戸神社、若い禰宜の淡々とした説明を聞いていると、古事記の世界が現実味を帯びてきて、神妙な気持ちになり思わず手を合わせていました。
農水省の六次産業化プロジェクトで、京丹後と京田辺の生産農家と一緒に、家内が大分県竹田市の「工房あゆか」(テレビ朝日の『人生の楽園』に昨年出演)に見学に行き、そのあと高千穂峡と天の岩戸神社を回る、と聞いて二つ返事でアッシー君を引き受けました。子どもの時、絵本で見た高千穂峡の真名井の滝の印象が深くて、一度は見たいなと思っていた潜在意識が甦ったのかも知れません。
このあと天安河原へ。本宮から10分以上岩戸川を遡ります。さすがヤオヨロズの神々が集結している場所、仰慕窟(ギョウボガイワヤ)は、天の岩戸以上にスピリチュアルな雰囲気が漲っていました。さて高千穂峡はここから車で10分ほど、阿蘇カルデラを作った12万年前と9万年前の火山活動と何万年もの五ケ瀬川の浸食により出来たV字峡谷で、高さ80m~100mの断崖が7kmにわたり続いているそうです。神話によれば「真名井の滝」は天村雲命(アメノムラクモノミコト)が天孫降臨の際に水種を移したのが滝となって流れ落ちているのだそうです。美しい景色に見とれながら、あまりにもイメージ通りでかえって拍子抜けしたほどです。
ひそかに神楽は見れないかなと期待していたのですが、流石に農水省のご紹介、高千穂神社の神楽殿で毎夜8時から演じられる「観光神楽」が予約してありました。開演まで2時間余、その間に腹ごしらえ「そば処『天庵』」へ。最近、日本国中何処へ行っても食事は豪華かつ平凡、代わり映えがしないものですが、さっと出てきた二皿に目を奪われました。まず一皿目は、煮物、しいたけ、自家製こんにゃく、さといも、
高千穂の夜神楽は、毎年11月の末から翌年の2月にかけて各村々で33番を奉納し、秋の実りに対する感謝と翌年の豊饒を、文字通り夜を徹して祈願します。観光神楽はそのうちの4番を1時間ほどで演ずるそうです。高千穂神社の駐車場から松明の灯りだけの参道を神楽殿まで登り静かに開演を待ちます。ウィークデイの片田舎の夜、我々だけかなと思っていたら、開演直前にはほぼ満席、100人ぐらいはいたでしょうか。入場券と一緒に渡された簡単な説明書によりますと、①「手力雄(タジカラオ)の舞」②「鈿女(ウズメ)の舞」③「戸取(トトリ)の舞」④「御神躰(ゴシンタイ)の舞」と書かれています。①②③は天の岩戸神社の神職の説明通り、日本人なら誰でも知っている物語を順番に演ずるようです。④は説明書をそのまま写しますと「一名、国生みの舞と申しますが、イザナギ・イザナミお二神が酒を造ってお互いに仲良く飲んで抱擁し合い、極めて夫婦円満を象徴している舞であります。」とあります。
笛と太鼓の音とともに始まりました。手力雄は雄々しく鈿女は妖艶に、野趣にあふれたお神楽がリズミカルに展開してゆきます。とうとう手力雄の手で岩戸が取り払われ、ご神体がちらりと姿を現しました。村々での本物ではこのタイミングでアマテラス(朝日)がサーット差し込んでくるのだそうです。いつか夜通し見物しそのシーンを見たくなりました。一呼吸おいて④が始まりました。
前半は説明書の通りに進行してゆきます、そしてイザナミが酔いつぶれたのを見るや、イザナギがみめ良い女性を口説きに観客席に降りてきました。しばらくして目覚めたイザナミはイザナギに殴りかかるとともに女性を突き飛ばし、まっすぐ私めがけて突き進んできました。腹いせに私が抱擁されるやいなや、イザナギが私を突き飛ばし次の女性に、イザナミも負けずに次々と………。大変な騒ぎにはなりましたが舞台に戻った二人は仲直り、いにしえのポルノを演じてお開き。男も女も老いも若きも大爆笑のうちに幕を閉じました。山深い山村の冬の夜長、歴史と信仰を守りつつ、娯楽を楽しみ教育も兼ねた伝統の行事なのでしょう。機会を作って見物する値打ちはあります。
大根、おあげ。二皿目は、大皿に高千穂牛のたたき、これは全国共進会第一席だそうです。続いて、そば粉と豆乳のボールに大根おろしとわさびなの汁物。そして、山菜のてんぷら、そば塩添え。材料はふきのとう、しいたけ、干柿、ニンジン、さつまいも、ピーマン。最後に自家製そば。心のこもった夕食でした。