涙の分だけ墜ちてゆく -2ページ目

遠い空~鑑別所LastNight

(女連参上!)

(マドンナ夜露死苦!)

(命有限浩志我命)

見飽きたトイレの落書き…

それも今日でお別れだ。


四日前に少年審判を受け、特別少年院送致が決定したあたしは明日、大阪の交野女子学園に送られる事になっている。

長丁場の少年審判の審理の中で、審判員は何とかしてあげたいからと色々と聞いてきたけど、今更可哀想がられて中等短期に送られるも、特少送りになるも大した問題ではなかった。

自分に嘘をついて何ヶ月か負けてもらうより、ありのままの思いをぶつけて裁かれた方が気持ちいい気がした。


「今回の件で貴女は被害者の方に一生残る怪我を負わせてしまったのですが、その事に対してどう考えていますか?」


「当然の報いだと思っています。人を傷つけるという事は自分自身にもそれなりのリスクを背負う事だと思います。」


呆れ顔の審判員から、もう一言。


「それでは質問を変えます。今回の件で被害者の方への慰謝料など必要とした金銭的な面も含めて、両親には大変迷惑をかけたはずですが、何故その両親に一度も手紙を書いていないのですか?」


「それがあたしの為と言いながら実は社会的に自分の立場を守るためだったりするのが見え見えだから嫌なんです。口だけでうまい事言ってもあたしの心には届かないんです」


「貴女は両親が嫌いなんですか?」


「…ちゃんと愛せないなら子供なんて作っちゃ駄目ですよね…今は…今は、この世にあたしを誕生させた事を恨んでいます」


そして、あたしの審判が下った。


皮肉にも、鑑別所の独房に流れるラジオから尾崎豊の「遠い空」が流れていた。


人より自由を夢見て生きて来たのに、明日にはよりいっそう不自由な現実が待ち構えている。


馬鹿げている…


窓に手をかざしても、途切れた空は遠くて見る事さえ出来ない16の夜…

名古屋少年鑑別所

朝起きてから夜寝るまで、基本ひとりで生活する鑑別所での生活は孤独なあたしにはお似合いな気がした。


ちぎり絵や読書で1日が過ぎてゆく。

内省と呼ばれる座禅に似た事をやらされて親の事、被害者の事を考えなさいと言われたけど、最初のうちは、特に何も感じなかった。

しかし、いつの日からか親に期待をしないようになったと思っていたけど、それでも心の奥底でお父さんだけには何かを求めている部分があった事に気づいたのは唯一、内省によっての収穫だったのかも知れない。


ある日、お母さんと保護観察所の人が面会に来た。

「ライナちゃん、お父さん今仕事で大変な時なの。傷害事件で処理してくれるように裁判所と話しているから意地になってないで、殺意があったなんてバカな事は撤回なさい。あと被害者の女の子も退学になってしまったんだし退院次第逮捕になるみたいだから、こっちでちゃんと謝罪しておいたからね」


「お父さんも、お母さんも本当に心配して、お金も使って最善を尽くしているんだから、君も頑張らなきゃ駄目じゃないかぁ~」


何が心配してなの?
(自分達の社会的保身以外の何者でもないじゃない…)


「被害者宛てに反省文を書きなさい。観察所宛てに書いてくれたら私が被害者の女の子に渡しますから…出来るね」

保護観察所の人が、あたしの肩にポンと手をやった。


「…んなもん書かないよ」

あたしの肩に置いた保護観察所の人の手が離れた。


「なんで出来ないんだ!お母さんだって君のために…」

「うるせ~な!大体何があたしのためなんだょ!こっちは逮捕されてからずっと着の身着のままで留置場暮らししてたんだょ!自分でした事だから何とかしてょとは思わなかったけどさっ!心配していたとか詭弁は使わないでよ!」


「ごめんね!ライナちゃん…お父さんもお母さんも忙しくて差し入れとか出来なかったのよ。」

郵送でもなんでも差し入れくらい出来るだろ。
その気がなかっただけのクセして…


「これ以上話す事ないから帰ってょ!あたしは殺意を主張するし、エッコに謝罪もしないょ」


「…今日の所は帰るわね」

そう言って面会室を出ようとする二人に、

「話すと話すだけイラつくから二度と来なくていいよ」

と言うと、思いっきり恨めしそうな表情で出て行った。

取り調べ

生まれて初めての逮捕も、冷たい留置場の扉の奥も、思いのほか優しい取り調べも、あたしにとっては何て事ない事だった。

学校を退学になった事、エッコが脳内出血で警察病院の集中治療室にいる事、そのエッコから刺されたと思っていた恵美が実は、エッコが脅しでナイフの先を使って、恵美のブラウスのボタンを取っていた時に誤ってお腹の皮膚を少しだけハツってしまっただけで命には何ら別状はなかった事、今回の件で親が怒っている事…

取り調べ中に担当刑事から色々と聞かされた。

だけど何だか全てがめんどくさくなっちゃって、そんな情報で何ひとつ心が揺れる事はなかった。

「もう一度聞くけど、君は彼女と揉めていて喧嘩の末が今回の結末になってしまったという事じゃないのかね?」

ほとんど誘導尋問だ…笑っちゃう。

何度聞かれても答えはひとつだった。

「違います。あたしは友達を傷つけられて自分では押さえられない殺意を抱き、彼女を殺そうとしたのです」

ふぅ~っと深く息を吐き出して刑事さんは説得を始めました。

「あのね、君の供述によって傷害事件から殺人未遂事件に切り替えなきゃいけないかも知れないんだ。君のように将来ある子をわざわざ少年院に入れたくないんだよ。」


あたしが頑なに供述を変えない事で、入れ替わり立ち替わり色々な刑事さんが調べ室に来ては説得を続けたけど、感情をどこかに置き忘れたような無表情なあたしは、

「殺意」

を主張し続けた。

真弓達の供述により薬物の検査もされた。

生活安全課のドブネズミみたいな刑事がスケベったらしい目で見ながら調べをした。
検査は、もちろん陽性反応だったので向精神薬取締法違反でも調べられた。

何かとコミュニケーションを取ってくるドブネズミに対して、愛想も恋想もないあたし…

「かわいげのない女だな~!クスリで飛んで殺人未遂だって?世も末だねぇ~」

なんて憎まれ口を叩いた。

何を言われても、腹も立たないし興味も持たない、今後の不安だって…

もうどうにでもなれって思ったら何も怖くなかった。

明日、名古屋少年院鑑別所に送られるらしい。

逮捕されてから親は一度も警察署に来なかった。