小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

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登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物たち】
Z(靴屋)       九頭雄 ザックス
Y(Zの妻)       八千代 ヤスミン
A(ZとYの息子)    悪久太  アーク

C(村の守護霊)   千太郎  クリス
老人・師匠(守護霊・Cの先生)

 

 

今回のお話は、Z目線の話です。

 

第49章と第50章の後日談ですが、

読み直さなくても、たぶん大丈夫だと思います。

 

一応、貼っておきますね↓

 

 

 

 

 

 

 

では、どうぞ。↓

 

見えない殻(4)

 

 

共同墓地では、妻のY以外に、

墓石の横で、もう一人寝ている幽霊がいた。

 

その中年男性の幽霊に近づき、声をかけてみる。

 

「すみませんが。どうしてここで寝ているんですか?」

 

中年男性は、片方の目だけを薄目で開けた。

「・・・んー?・・・復活のラッパ、鳴った?」

 

「ラッパ?いいえ、何も鳴ってません」

 

「じゃあ起こさないでくれ。

 鳴るまで寝てなきゃダメなんだから」

不服そうな声を出して、その幽霊はまた目をつぶった。

 

訳が分からず、呆然とするしかなかった。

 

 

そこへ作業着姿の若い幽霊が通りかかり、オレに言う。

「起きる気が無いんです。起こしても無駄ですよ」

 

「え?じゃあ、いつ、起きるんですか?」
 
「さあ。永遠に起きない可能性もありそうです。
 もしこの近所で、村の生きている人が
 たまたまラッパを吹いたら、間違えて起きるかも」
若い男の幽霊は、クスクス笑った。
 
「えっ?永遠に起きない?・・・ずっと?」
 
「ええ。この人は、ラッパが鳴るまで起きないって
 決めてるみたいです。
 信じる力って、すごいんですよ。
 生きているときは、多少は変更できますけどね。
 でも、死んでしまった後は、
 思い込みを変更するのは至難の業なんですよ。
 固定化されちゃうこともあるし」
 
・・・ひょっとして、これが殻・・・なのか?
胸の奥がずしりと重くなった。
オレも永遠に、あの暗闇の中って可能性もある。
 
「その固定化を解く方法って、あるんですか?
 あなた、知ってるんでしょう?! 
 余裕で笑ってて、ふ、ふざけや・・・」
オレの声と、握った拳が震える。
 
若い幽霊は、ふっと笑う。
「・・・僕の師匠から聞いた話ですが、
 幽霊になってしまったら、ほとんどの人には、
 持ち越した思い込みを解くのが難しいらしいです。
 心と頭がまだ柔らかい状態の・・・
 生きているうちに、解くやり方を覚えないとね」
 
「生きているうちにって、そんなのは遅い。
 こっちはもう、死んでるんだ。
 今の、この状態でのやり方は何なんだ?!」
 
人前では礼儀正しくしていようと思っていたが、
もはや、なりふり構っていられない。
このままではオレも、固定化されてしまう。
知ってるなら、教えろ、教えろ。早く。

 

「実は、生きている時も、死んだ後も、一緒です。

 強すぎる思い込みを持たないことです。

 持ってることに気づいたら、見つめて、そっと手放す。

 もしくは『そういう考え方もあるのか』って、

 他のを受け止められるスキマを作っておくことです」

 

「はあ?・・・呪文、とかじゃないのか?」

 

「そんなのはないです。

 要するに、頑固さを取るだけです。

 ・・・あなたも頑固な人だったんですか? 

 どんな生き方をしてきたんですか?」

 

 

(続く)