シリーズものの小説です。
目次はこちら→ 百輪村物語 目次
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まず、おことわりをしておきます。
今回の話は、かなりダークな内容を含んでいます。
読んでいて気分が重くなるかもしれません。
苦手な方は今回の章はスルーして、
次回の明るい話をお楽しみください。
この章では、物語の根底にある痛みと向き合います。
登場人物たちの本当の姿が、少しずつ見えてくるはずです。
静かに読んでいただけますように。
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登場人物名は、アルファベット表記です。
【今回の登場人物】
Z(靴屋) 九頭雄 ザックスY(Zの妻) 八千代 ヤスミンA(ZとYの息子) 悪久太 アークC牧場のオーナーC(牧場オーナーの孫) 千太郎 クリス
見えない影
1
オレの名はZ。職業は靴屋だ。
村はずれで、妻Yと息子Aとの3人暮らしをしている。
オレたち夫婦は、毎日二人で靴を作り、店に並べる。
オレは、村の中では、聖人君子として通っている。
いつでも低姿勢で接客し、静かに微笑み、
穏やかに優しい声で話す。
困っている人がいればすぐに手を差し伸べ、
虫も殺さぬような温厚な姿勢を貫いている。
しかしながら、
そういう態度でいるほど、ストレスがたまる。
店を閉めた後は、お楽しみの時間だ。
そうさ。家族に対して、あらん限りの暴力をふるう。
そうして自分の心のバランスを取る。
他の誰にもバレないよう、
彼らの見えない所を殴っているし、口止めもしている。
妻のYは従順な女だから、何をしてもただ泣くだけだ。
「どうかAだけは叩かないで」と言いながら。
息子のAは、声を押し殺して泣くようになった。
声を上げれば、さらに殴られると学習したようだ。
仏のようなオレが、裏では悪魔のようなことをしている。
これがまた、自分にとってゾクゾクするほど快感だ。
気持ちよく酒が進む。
そんなオレの仮面は、外ではがれたことなど一度もない。
ある日、妻のYが、息子のAに靴の作り方を教えていた。
「あなたは器用だから、きっとうまくできるわよ」
教わりながらAは、子どもの靴を初めて作った。
Yは、Aの手作りの靴を
「まあ、とっても上手よ。天才だわ。」とほめそやし、
Aも得意げな顔をしていた。
オレは、その靴を店頭に飾ってやった。
物笑いの種にしようと思ったからだった。
しかし、村の丘の上にある
C牧場のオーナーがやってきて、言った。
「かわいい子供靴じゃないか。これが欲しい。
いくらかな?」
オレはびっくりした。
「いや、それはうちのせがれが遊びで作ったやつでして。
商品になるような出来ではないですよ」
「ほう、そうかね?
けれど、子どもが作ったとは思えない出来じゃないか。
柔らかい革で出来ていて、履きやすそうだ。
言い値の倍の値段で買いますよ」
金持ちの牧場主は、本当に大金を支払った。
「・・・あの、どうして子供靴を?」
「ああ、先日、孫のCを引き取ったんだよ。
あの子の両親が事故で亡くなってしまって・・・。
少しでも元気になってもらおうと思ってね」
「ああ、そうなんですか。お気の毒に。
坊ちゃんに喜んでもらえますように」
「あんたの息子のA君も、将来が楽しみだね」
牧場主は見え透いたお世辞を言って笑う。
にこやかに手を振って、客を見送った。
オレの作った子ども靴よりも、Aの方を買うとは。
はらわたが煮えくり返った。
小学校から帰ってきたAに、オレは冷たく言い放った。
「お前の作った靴が売れたよ」
「え?本当に?嬉しいなあ」
その喜びにあふれた顔を、店の影で張り倒した。
「調子に乗るんじゃない。
お情けで買ってもらったんだよ。下手くそめが」
「ご、ごめんなさい。次はもっと上手に作るから」
「ふざけんな。革がもったいないんだよ。
二度と作るな」
もう一度Aをはたくと、Aは机に額をぶつけ、
顔面が血だらけになった。
Aはシクシク泣いて、「もう作らない」と言った。
台所にいた妻のYが血相を変えて飛んできて、
タオルで止血しながらAを抱きしめ、
「ごめんね、A。まだ作るのが早かったかもしれないわ。
教えたお母さんを許して」と泣いた。
2人の泣き顔を見て、オレの気は晴れた。
Aはけがをしたショックからか、その晩に熱を出した。
YはAを自室に寝かせた後、
リビングで酒を飲んでいたオレに言った。
「もう、耐えられません。
Aの熱が下がったら、二人でこの家を出ます」
「なんだと?そんなことをしたら、
オレの評判が下がるじゃないか?!」
「息子のケガよりも、自分の評判が大事なんですか?
もう、もう、あなたとはやっていけないわ」
カッときたオレは、Yの首を絞めた。
遺体は、夜の間に、近所の河に流した。
2
熱の下がった息子のAは部屋を出てきて、Yを探した。
オレは言ってやった。
「もうYはいないぞ。
泣き虫なお前のせいで、あいつは家を出て行った。
だがな、それを外に言うのは恥ずかしいことなんだ。
絶対に誰にも言うな。病気で実家に帰ったと言えよ」
「そんな・・・母さん・・・。
僕を置いて、出て行っちゃうなんて・・・」
翌日、オレは客に堂々と嘘をついた。
「・・・え?奥さんが病気でご実家へ?大変だねZ」
「ええ、そうなんです。
しばらく、Aと二人で頑張りますよ。な、A」
「・・・」
客はオレの隣にいるAを見た。
「あれ?頭の包帯、どうしたんだいA?」
オレはハッとして、釈明した。
「ああ、元気が良すぎてねえ。
外で遊んでいて転んだんですよ」
「・・・ち、違うよ、机の・・・」
言いかけたAの尻を客の見えぬ側から思い切りつねり、
笑顔を向けた。
「気をつけるんだよ、A。もう傷は増やしたくないよな?」
Aは黙り、客は苦笑した。「お大事にね、A」
「・・・」
Aは、近所の子どもを殴るようになった。
父親であるオレは、村の連中に頭を下げ続けた。
「申し訳ございません。
うちのせがれがご迷惑をおかけして・・・。
母親が不在のせいでストレスが溜まっているのかも。
皆さんに、なんとおわびすればよいか・・・」
両手で顔を覆いながら謝罪すると、皆が
3
「あんなに素晴らしい靴を作る子が、
暴力をふるうなんて、とても信じられんのだが。
Zよ、あんた、自分の息子に何を教えてるんだ?」
「・・・え?いや、私は何も・・・。
勝手にAが暴れていて、本当に困ってまして」
牧場のオーナーは、眉をひそめ、静かに言った。
「・・・そうかね。ともかくも、
うちのCを、Aに近づけたくないんでね。
小学校にも通わせないで、ワシが全部、
家で教えることにしたよ」
「そうなんですか。お手間をかけて、すみません」
オレは深々と頭を下げた。
学校から帰宅したAに、オレは指示を出した。
「丘の上の牧場に、小さい子がいる。
そいつを気のすむまで殴ってこい」と。
Aは、牧場に直行した。
が、青い顔をして帰ってきた。
「なんだ。どうした、A」
「ちびっこを殴ろうとしたら、牧場のじいさんが、
長い鉄砲を空に向けて撃ったから、逃げてきた」
「マジか。やべえジジイだな」
「あの牧場には、もう行きたくない」
「わかったよ。仕方ねえな」
「・・・あのチビ、俺の作った靴を履いてた」
「だから何だ。イヤなら取り返してこいよ」
「・・・」
銃の話を聞いてオレはなんだか色々と面倒くさくなり、
もうAに命令するのをやめてしまった。
Aは、近所の子どもたちを殴るのはやめて、
逆に子分にし始め、ボスの座についたようだった。
それから何年かたって、Aの体が急激に大きくなった。
このままではオレがやつの力でやられるかもしれない。
自分の息子が邪魔に思えてきたオレは、
強盗が入ってきた風を装って殺そうと考えた。
深夜にそっとAの部屋に入り、
ベッドに寝ているAに近づきながら
刃物を振り上げようとしたその時だった。
目の前に死んだ妻のYが亡霊となって、
恐ろしい形相で立ちふさがった。
川から上がってきたばかりのように、
体中がびしょぬれで髪から水を滴らせている。
「ひいっ」
オレは思わず後ずさりをした。
Yは両手を伸ばし、おれの首をつかもうと近づいてくる。
血走った目、むき出しの歯。心底オレを憎むYの顔。
刃物を振り回しても、妻の体をすり抜ける。
Yは徐々に間合いを詰めてきた。
恐怖のあまりにオレは呼吸が出来なくなり、
口をパクパクとしながらあえいだものの、
ほんの少しの空気も体に入ってこなくなった。
心臓が大きく脈を打ち、ついに止まった。
手から刃物が床に落ち、
目の前が真っ暗になりながら、
オレはそのまま床に倒れ、死んだ。
ending music
hurt Johnny cash
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(あとがき)
最後まで読んでくださって、
ありがとうございました。
この章が重く感じられた方も
いるかもしれません。
けれど、この背景があってこその百輪村なので、