『吾妻鏡』の超新星 | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

 ・現代に再び目覚めた、『吾妻鏡』の超新星残骸

 アストロアーツ7月12日付記事、元は東京大学理学部です。

 現代に再び目覚めた、『吾妻鏡』の超新星残骸 - アストロアーツ (astroarts.co.jp)

 

 概要>史書『吾妻鏡』に記された超新星「SN 1181」の残骸がX線を出す複数の層からなることがわかり、その風変わりな性質を説明できる理論モデルが作られた。

 

 吾妻鏡(あずまかがみ)は鎌倉時代に成立した歴史書で、幕府の事績を編年体で記しており、鎌倉時代研究の基本資料とされます。

 治承4年(1180年)~文永3年(1266年)までの87年間を描いています(欠落年あり)。

 日本の史書に残った超新星爆発の記録だと、藤原定家の「明月記」に載っている SN 1054 が有名ですが、他にもあるのですね。

 

 まず超新星爆発の2種類の基本的タイプについての解説があります。

 

 >質量が太陽の8倍以下の恒星は、核融合反応の燃料である水素やヘリウムが尽きると、炭素と酸素を主成分とする「白色矮星」となって一生を終える。しかし、白色矮星が別の星と連星になっている場合には、相手の星から白色矮星にガスが降り積もることで暴走的な核融合反応が始まり、Ia型超新星となって爆発する。

 >一方、質量が太陽の8倍以上の星は、赤色巨星の段階を経て最期に「II型超新星」という爆発を起こす。Ia型とII型はスペクトルなどの特徴に違いがあり、Ia型は爆発後に何も残らないのに対してII型では中性子星やブラックホールが爆発後に残されるという点も異なる。

 

 まとめると、超新星を大きく分類すると連星系をなす白色矮星が元となるIa型と重質量星が元となるII型とに分けられ、「Ia型は爆発後に何も残らないのに対してII型では中性子星やブラックホールが爆発後に残される」ということです。

 詳しくは次の記事をご覧ください。

 △超新星爆発ってどういうものなの? | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)

 

 >天の川銀河で過去に起こった超新星の多くは肉眼でも見え、日本の歴史書や日記等では「客星」として記されている。歴史上の超新星はその残骸がほぼ同定されているが、1181年にカシオペヤ座の方向に出現した「SN 1181」については、該当する超新星残骸が長い間不明だった。2019年になって、SN 1181の出現位置近くにある星雲状の赤外線天体「IRAS 00500+6713」(別名「Pa 30」。以下、IRAS 00500)が、約1000年前に爆発した超新星の残骸らしいことが明らかになり、SN 1181の残骸の有力候補となっている。IRAS 00500のスペクトルや膨張速度から、親星はIa型超新星を起こしたと考えられている。

 

 客星とは言い得て妙というか、一時的に訪れてまた去っていくというイメージですね。

 

 Wikiによると、SN 1181 は1181年8月4日から6日の間にカシオペヤ座で観測され始めたということです。

 イギリス、中国、日本の文献に記録が残されているとのこと。

 

 ここで、アストロアーツ掲載の上の画像をご覧ください。

 超新星残骸「IRAS 00500+6713」をX線・可視光線・赤外線で観測した画像を重ね合わせたものです。

 イラストじゃなくて合成画像だというのが重要(^^

 約8000光年の距離にあります。当然銀河系内ですね。

 ほぼ円形の星雲の中心には白色矮星が存在するとのこと。青白いのがそうかな?

 

 >ところが、IRAS 00500は普通のIa型超新星残骸とは異なり、中心に白色矮星が存在していて、しかもそこから光速の約5%に達する高速の星風が吹いている。これまでの研究で、IRAS 00500は普通のIa型超新星よりやや暗い「Iax型超新星」に分類されると考えられているが、他にも普通の超新星残骸にない特徴をいくつも持っているため、IRAS 00500の性質をうまく説明できるモデルはこれまでなかった。

 

 Ia型超新星は、元の白色矮星全体が爆発してしまうため、跡には何も残りません。

 中心に白色矮星が存在しているのであれば、Ia型超新星ではなかったはずです。

 そこで、Iax型超新星だったのではないかという説があるわけですね。

 ただ、Iax型超新星は2013年に新たに提唱された超新星の分類であり、まだ公認された分類ではないようです。

 ただ、IRAS 00500 はそのIax型超新星にも収まり切らない面があるのだと。

 

 >東京大学の黄天鋭さんたちの研究チームは、ヨーロッパ宇宙機関のX線観測衛星「XMMニュートン」とNASAのX線観測衛星「チャンドラ」が過去にIRAS 00500を観測したデータを解析し、この超新星残骸がX線を放射する2層の星雲部分と、その間に赤外線を出す部分を持つ多層構造になっていることを突き止めた。

 

 黄天鋭さんのお名前は「こう・たかとし」さんとお読みします。

 東京大学の茂山俊和教授の研究室所属で、ドクター2年です。

 

 XMMニュートンは1999年12月に欧州宇宙機関(ESA)が打ち上げたX線観測衛星で、英名 X-ray Multi-Mirror Mission-Newton です。

 近地点高度 7,000 km、 遠地点高度 114,000 km という極端な楕円軌道を回っています。

 ニュートンという名称は、もちろん世界一有名な物理学者の名前からとっています。

 

 チャンドラは、NASAが1999年7月に打ち上げたX線観測衛星(Chandra X-ray Observatory)。

 近地点は約1万km、遠地点は約14万kmという極端な楕円軌道を回っています。

 名前は、白色矮星の質量の上限を求めたインド出身のアメリカ人天体物理学者チャンドラセカール(Subrahmanyan Chandrasekhar)からとっています。

 また、チャンドラはサンスクリット語で月の意味でもあります。

 

 超新星残骸IRAS 00500は、X線を放射する2層の星雲部分と、その間に赤外線を出す部分を持つ多層構造になっていると。

 この部分が今回の研究の観測関係の成果です。

 

 >このデータを踏まえて黄さんたちは、観測結果を説明できるようなIRAS 00500のモデルを作り出した。このモデルによると、IRAS 00500の親星は白色矮星同士の連星で、この2個の白色矮星が合体したことでIa型超新星爆発を引き起こし、合体後の白色矮星が四散せずに残ったという。また、内側のX線領域は星風が生み出す衝撃波の終端、外側のX線領域は膨張する残骸と星間物質が衝突してできる衝撃波面に対応している。その中間にある赤外線領域には塵のリングがあると考えられる。

 

 観測結果のデータを踏まえてそれを説明できるモデルを作ったということで、今度は理論の出番です。

 親星だった白色矮星どうしの連星が合体してIa型超新星爆発を引き起こし、合体後の白色矮星が残ったというのですね。

 Ia型超新星爆発のもとが白色矮星であることは間違いないのですが、その白色矮星が1個で連星をなすもう1つの星はそうではないという場合と、連星をなす白色矮星2個が合体するという場合とがあります。

 前者をSDシナリオ、後者をDDシナリオといいます。

 前半はシングル Single とダブル Double の頭文字、後半は縮退 Degenerate の頭文字です。白色矮星では電子が量子論的に縮退していることから命名。

 銀河系内のIa型超新星爆発については大部分がSDシナリオで説明されるという結論を数年前読みました。

 Ia型超新星の起源決着 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)

 ただ、DDシナリオによる場合もあるわけで、今回のIRAS 00500はそのケースです。

 Ia型超新星爆発なら跡に何も残らないというのはSDシナリオの場合であって、DDシナリオだといろいろあるのですかね?

 

 X線領域は2重になっていますが、内側のX線領域は星風が生み出す衝撃波の終端、外側のX線領域は膨張する残骸と星間物質が衝突してできる衝撃波面に対応しているとのこと。

 その中間の赤外線領域には塵のリングがあると。

 

 ここで、アストロアーツ掲載の真ん中の画像をご覧ください。

 左はIRAS 00500をX線と赤外線で観測した画像、右は観測およびモデルから推定される構造の模式図です。

 内側から順に見ていくと、中心が白色矮星 WD J005311 です。

 (WDは white dwarf の頭文字)

 その周囲で明るく光っている部分が内側X線点源で、星風領域とほぼ重なります。

 その周囲が星風終端衝撃波。

 その周りにダストリングが広がっていて、これは右側の未衝撃放出物に対応します。

 その外側に、外側X線星雲/中間赤外ハローとあって、右側にある内側から逆行衝撃波、接触不連続面、順行衝撃波と対応します。

 衝撃波が通り過ぎたところが高温に熱せられて、X線を放射しているのですね。

 

 >黄さんたちが導いたモデルからこの超新星爆発の明るさを見積もったところ、通常のIa型超新星よりやや暗くなることがわかった。『吾妻鏡』などの歴史書では、1181年の超新星は土星のような明るさだったと記録されていて、今回の推定と矛盾しない。

 

 通常のIa型超新星であれば満月並みの明るさになることもあるのに、1181年の超新星は土星並みの明るさだったという点もうまく説明できるとのこと。

 

 >また、このモデルによれば、IRAS 00500の白色矮星から吹く星風はここ数十年以内に吹き始めたと考えられることもわかった。約1000年前に起こった超新星爆発で残された白色矮星が現代になって再び活発化したことを示唆する結果で、この点でもIRAS 00500はかなり風変わりだ。

 

 千年近く前に超新星爆発を起こした白色矮星が再び星風を吹かせ始めたというのですね。

 単独の白色矮星って、一切の活動を止めて後は冷えていくだけじゃなかったの?

 それが星風を吹かせるなんて、ウーム、頭の整理が追い付きません。

 DDシナリオでは、そもそもどういうメカニズムで白色矮星が残るのだろうか?

 

 最後に、アストロアーツ掲載の下の画像をご覧ください。

 今回の研究から導かれた、SN 1181とその残骸の時間進化です。

 この超新星は2つの白色矮星の合体で引き起こされ、爆発後に白色矮星が残されました。

爆発から約800年経った1900年代に白色矮星が再び活発化して星風が吹き始め、周囲の物質に衝突することで、超新星残骸の中に強いX線領域が形成されたということです。

 

 

 この記事も、重要性に鑑みテーマ「天文・物理・その他自然科学」に入れておきます。