インドの五大と賢治の「五輪峠」1 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

 古代、ギリシア、インド、中国ではそれぞれ独自の哲学が誕生しました。

 当時各地域で万物の根源に関する説が生まれました。

 それが、古代ギリシアの四元素(しげんそ)説、古代インドの五大(ごだい)説、古代中国の五行(ごぎょう)説です。

 (それぞれの地域では他の説も生まれましたが、今回は相互の対比を行うため、これらに絞って考察します。)

 Wikiに従って順に見ていきます。

 その後で、賢治の詩「五輪峠」を取り上げ、インドの五大説や現代科学との関係を論じます。

 

 

  1.ギリシアの四元素

 

 古代ギリシアの哲学者たちは、万物の根源、原初的要素を「アルケー(古代ギリシア語: ἀρχή)」と呼びました。

 この意味ではじめて「アルケー」を用いたのは、アナクシマンドロスとされます。

 タレスは、アルケーは「水」であるとし、アナクシメネスは「空気」、クセノパネスは「土」、ヘラクレイトスは「火」であるとしました。

 

 上記の先行する4説を折衷・統合し、四元素説(Τέσσερα στοιχείαテッセラ・ストイケイア)を最初に唱えたのはエンペドクレスだとされます。

 アルケーは「火」「空気」「水」「土(地)」(古代ギリシア語: πυρ, αήρ, ὕδωρ, γη、ギリシア語: φωτιά, αέρας, νερό, γη)という4つのリゾーマタ(古代ギリシア語: ῥιζὤματα、「根の物質」の意)からなるとしました。

 そして、絶対的な意味での生成・消滅を否定し、四元素が様々に離散集合し、自然界の変化が生じるとする説を唱えました。

 四元素の混合によって諸々の事象の生成が、分離において事象の消滅が説明されます。

 

 プラトンは、四元素と5種類の正多面体(プラトン立体)の対応を次のように考えました。

  正 4 面体  - 火

  立方体   - 土

  正 8 面体  - 空気

  正 12 面体 - (宇宙)

  正 2 0面体 - 水

 正多面体と宇宙の神秘 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)

 

 アリストテレスは、四元素を「熱・冷」「湿・乾」という二対の相反する性質の組合せによって説明しました。

   | 乾  湿   

 熱 | 火  空気(風)

 冷 | 土  水

 彼は、四元素において性質が反対の性質に置き換えられれば相互に転化すると考えたのです。

 

 しかし、近代において原子論が勝利した後は、元素といえば水素、ヘリウム、・・・、炭素、窒素、酸素、・・・という百数十の元素を意味するようになりました。

 その意味では、四元素説は歴史的な意味しかもち得ません。

 その一方で、四元素は、現代的には物質の三態あるいは四態に対応させるのが適切だとする見方も現れました。

 

  土  ― 固体

  水  ― 液体

  空気 ― 気体

  火  ― プラズマ

 

 

  2.インドの五大

 

 インドの五大とは、地水火風空(ちすいかふうくう)です。

 

 最後の空は、地水火風がそこに存在する、あるいは動き回る空間を意味します。

 その意味では、ギリシアの四元素にプラトンが付け加えた宇宙に相当するといえるでしょう。

 

 ギリシアの四元素とインドの五大を比較対照すると次のようになります。

  .ギリシア インド

   土  ― 地

   水  ― 水

   空気 ― 風

   火  ― 火

  (宇宙) ― 空

 

 一つだけ異なるのは、ギリシアの空気がインドでは風になっている点です。

 インドでは人間あるいは動物の生ある証(あかし)として呼吸が重視されていたため、運動を伴う風としたのではないかというのが私の意見です。

 

 なお、現代物理学では液体と気体は固定した形をもたないため合わせて流体と呼ばれます。

 

 インドの五大は、仏教とともに日本に伝来しました。

その受容の一形態である五輪の塔については後ほど解説します。

 

 

  3.中国の五行説

 

 中国の五行説でいう五行(ごぎょう)とは、木火土金水(もくかどごんすい)のことです。

 五行は曜日や惑星の名称になっていて、現代の日本人にも馴染みがあると思います。

 ただし、「金(ごん)」の読み方にご注意ください。

 

 五行説は、世界のすべてについて五行のいずれかに当てはめる思想で、五行思想とも呼ばれます。

 

 五行の相互関係については、相生(そうじょう)と相克(そうこく)があります。

 簡単に説明します。

 ・五行の相生:木→火→土→金→水→木

  木生火、火生土、土生金、金生水、水生木

 木は燃えて火を生じ、火が消えると灰が残り、土の中には金属があり、金属の表面には水滴が生じ、水は木を成長させる。

 ・五行の相克:木→土→水→火→金→木

  木剋土、土剋水、水剋火、火剋金、金剋木

  木は土を締め付け、土は水を堰き止め、水は火を消し、火は金属を溶かし、金属の刃物は木を切り倒す。

 

 詳しくは、wikiの「五行思想」の項をご覧ください。

 

 さて、ギリシアの四元素とインドの五大は互いに対応の付くものが多かったのに対し、中国の五行はそれらと対応しない部分も多いです。

 四元素の空気や五大の風に対応するものは、五行にはありません。

 一方で、五行の木と金に対応するものは四元素や五大にはありません。

 強いて言えば、木も金も土(地)に含まれることになるでしょうか。

 

 私見では、中国思想は実践的な性格が強く、万物の根源を純粋に追求するというよりは人間生活との関わりの側面にこだわり、材料工学的な発想から材料として使えるものを重視し分類して組み込んだのだと思います。

 

 

  4.宮沢賢治の詩「五輪峠」

 

 ここからは、これまでとは打って変わって文学(史)的話題です。

 宮沢賢治に「五輪峠」という詩があります。

 以下、引用は賢治の他の詩と同様、「宮澤賢治の詩の世界」というサイトに依ります。

 

 賢治は健脚であり、野山を散策してその体験から詩の着想を得ていました。

 五輪峠は岩手県花巻市、遠野市、奥州市の境界となっている峠で、標高 556 m。

 五輪峠は、2005年3月2日付で国の名勝「イーハトーブの風景地」として一括指定された6か所のうちに含まれています。

 

 正確にいうと、賢治の「五輪峠」には「春と修羅第二集」に収められた口語詩と、「文語詩五十篇」に収められた文語詩の2種類があります。

 次は、口語詩の最終稿(?)です。

 五輪峠(下書稿(二)手入れ)/春と修羅 第二集 (ihatov.cc)

 次は、文語詩の定稿です。

 五輪峠(定稿)/「文語詩稿 五十篇」 (ihatov.cc)

 

 「春と修羅第二集」は、wikiによると「花巻農学校教員時代の後半(1924年 - 1926年3月)に制作された詩群」です。

 ただ、『春と修羅』とは異なり、「第二集」は出版されていません。

 賢治の口語詩には大部分日付が付されています。

 「五輪峠」の日付は「1924,3,24」です。

 (元は漢数字ですが、見やすいようにアラビア数字にします。次の番号も同様)

 また、「第二集」以降の口語詩の大部分には、賢治自身が一連の作品番号を付しています。

 「五輪峠」の番号は「16」です。

 

 1924年の日付が付されていても、賢治は自分の作品に死の間際まで手を加えていたことが知られており、最終稿(下書稿(二)手入れ)とされるものが実際にいつの時点のものなのかは定かではありません。

 逆に、下書稿のうちで最も早い時期のものは次です。

 五輪峠(下書稿(一))/春と修羅 第二集 (ihatov.cc)

 これを初稿と呼ぶことにします。

 とりあえず、初稿と最終稿を比較してみましょう。

 

 「1924,3,24」という日付は、実際に五輪峠に登ったときのものと考えられます。

 初稿も全文引用するには長いので、冒頭部分、中間の一部、最後の部分を引用します。(いずれも、私が気に入っている箇所です。)

 

 >凍み雪の森のなだらを

  ほそぼそとみちがめぐれば

  向かふは松と岩との高み

  高みのうへに

  がらんと暗いみぞれのそらがひらいてゐる

    ……そここそ峠のいただきだ……

  ・・・

    ……梵字と雲と

      みちのくは風の巡礼

        みちのくの

        五輪峠に

        雪がつみ

        五つの峠に雪がつみ

   ・・・

  あゝいま前に展く暗いものは

  まさしく早春の北上の平野である

  薄墨の雲につらなり

  酵母の雪に朧ろにされて

  海と湛える藍と銀との平野である

  雪がもうここにもどしどし降ってくる

  塵のやうに灰のやうに降ってくる

  つつぢやこならの潅木も

  まっくろな温石いしも

  みんないっしょにまだらになる  <

 

 これはこれで良い詩だと思うのですが、その後の推敲を見る限り、賢治自身は満足できなかったようです。

 

---------------------------- 続 く --------------------------

 

 

 ★ 今日のロジバン 不思議の国のアリス206

   .i ju’o da pu galfi mi la .mabel. .i mi troci lo nu cusku la’e «lu .ua lo cmalu li’u» li’u»

  じゃあメイベルになっちゃったのね!  『えらい小さな――』を暗唱してみよう」

 ju’o : 確かに。よく知っている/確信できる。心態詞(修飾系)UI5類

 galfi : 改変する/変える,x1に x2を x3に。-gaf-, -ga’i- [動作・物体操作] 「cenba」と違い、他動的で、結果が含意される

 troci : 達成/獲得しようと努める/努力する,x1は x2(事/状態/性質)を x3(手段/方法)で;x1はx2をやってみる。-toc-, -toi- [過程・制御過程]

 la’e : ~の指示対象。項の前に付いてその指示対象を引き出す。限定詞LAhE類

 .ua : 発見。新しく知った/見つけた/気づいた気持。心態詞(純粋感情)UI1類

 

 アリスのひとり言の最後の部分で、2つの文からなり、最後に引用が終わっています。

 最初の文は自分がメイベルになったことを述べていますが、実質的に意味をもたない項に da を置いています。

 第2の文は、troci が主述語でそのx1が mi 、x2が { lo nu } が率いる抽象節です。

 出典は、

 lo selfri be la .alis. bei bu'u la selmacygu'e (lojban.org)