X線分光撮像衛星XRISMの初期科学観測データ公開 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

 アストロアーツ3月6日付記事、元はJAXAです。

 X線分光撮像衛星XRISMの初期科学観測データ公開 - アストロアーツ (astroarts.co.jp)

 

 概要>昨年9月に打ち上げられたX線分光撮像衛星「XRISM」が定常運用へ移行し、初期観測結果の一部が公開された。

 

 >2023年9月7日に小型月着陸実証機「SLIM」と相乗りで打ち上げられたX線分光撮像衛星「XRISM」が、衛星本体と搭載機器などの機能確認を完了し、初期機能確認運用から定常運用へ移行した。この定常運用への移行発表に合わせて、2天体の初期科学観測の結果が公開された。

 

 XRISM は、JAXAが2023年9月に打ち上げたX線分光撮像衛星で、「クリズム」と読みます。

 X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission の頭文字をとっています。

 高度約 550 km の円軌道で地球を周回します。

 軟X線の分光装置「Resolve」と撮像装置「Xtend」を搭載しています。

 

 X線は波長が 1 pm ~ 10 nm 程度の電磁波ですが、そのうち波長が長くエネルギーが弱いものを軟X線といいます。

 

 X線天文学は日本のいわばお家芸で、X線天文衛星はこれまでいくつも打ち上げられてきました。

 しかし、2016年2月に打ち上げられた、XRISMの一つ前の「ひとみ」は、観測成果を挙げる前に姿勢制御系の暴走により結局分解してしまいました。

 その意味でも、XRISMは絶対に失敗が許されなかったわけです。

 今回、観測成果を公開したことで、関係者の皆さんも一安心というところでしょう。

 

 >1つ目はXRISMの軟X線分光装置「Resolve」(リゾルブ)で取得された、ペルセウス座銀河団中心部の精細なX線スペクトルだ。この天体は約2億4000万光年の距離にある銀河団で、X線で非常に明るく見える。

 

 ペルセウス座はトレミーの48星座の一つで、晩秋の星座です。

 その名前は8月13日に極大を迎えるペルセウス座流星群で有名ですね。

 ベータ星アルゴルは変光星(食連星)として知られており、また二重星団も有名です。

 ペルセウス座は、アンドロメダ座、カシオペア座、ケフェウス座、くじら座とともにアンドロメダ神話を構成する星座です。

 

 銀河団は銀河が100個程度以上集まった天体で、その内部の銀河間空間には高温の電離ガスが存在し、X線を放射しています。

 我らが銀河系の周辺とは全く異なる環境です。

 ペルセウス座銀河団は地球から約2億4千万光年の距離にあり、約190個の銀河を含んでいて、X線で最も明るい銀河団として知られています。

 これまでに数々の観測が行われ多くのX線データが取得されており、いわば「標準天体」とも呼べる銀河団です。

 

 ここで、アストロアーツ掲載の上の画像をご覧ください。

 Resolveで取得されたペルセウス座銀河団のX線スペクトルです。

 右上の囲みは6~7キロ電子ボルトの拡大図です。

 背景画像は銀河団の中心銀河NGC 1275を中心としたX線・可視光線・電波の合成画像(擬似カラー)。

 クリックしても拡大しません。

 

 >銀河団内のプラズマの温度や速度を精密に測定すると、銀河団内に存在する暗黒物質の分布や動きに関する情報が得られる。その情報は、銀河団がどのようなプロセスで作られ、今後どのように進化するのかを明らかにするための手がかりになるものだ。

 

 暗黒物質(ダークマター)は、質量比で通常の物質(天文学ではバリオンと呼ばれる)の5倍程度存在しているとされます。

 名前の通り、電磁波とはほとんど反応しないために直接的観測は不可能ですが、間接的な観測によりその存在は確実とされるものの、正体は今なお不明です。

 

 >2つ目は軟X線撮像装置「Xtend」(エクステンド)が撮影した、おおかみ座の方向約7000光年の距離に位置する超新星残骸「SN 1006」の画像だ。Xtendの広い視野のおかげで、見かけサイズが満月の直径ほどもある超新星残骸の全体像がすっぽりと収まっている。

 

 おおかみ座はトレミー48星座の一つですが、てんびん座の南に当たる南天の星座で、日本からは見えづらいです。

 また、もっとも明るい星でも3等星で、パッとしません。

 

 超新星残骸 supernova remnant は、超新星爆発でまき散らされたガスがその後周囲に高速で拡大し続けているものです。

 元となった超新星爆発の種類により、同時に中性子星やブラックホールが誕生している場合があります。

 

 SN 1006 は、記録に残っている限りで太陽と月を除き最も視等級が明るくなった天体とされ、世界各地にその観測記録が残っています。

 日本では陰陽師 安倍吉昌(あべのよしまさ、晴明の次男)が観測し、200余年後の1230年に藤原定家が『明月記』で客星の出現例の一つとして言及しているとのこと。

 (天文学が今年の大河ドラマと接点を持つというのも面白いですね。)

 

 ここで、アストロアーツ掲載の下の画像をご覧ください。

 超新星残骸「SN 1006」の姿です。

 XtendによるX線画像とDSS(The Digitized Sky Survey)の可視光線画像を合成しています。

 真ん丸じゃないのは、もともとの爆発が偏っていたり、すでに存在するガス雲の抵抗を受けたりするためです。

 

 >この残骸のもとになった超新星爆発が起こった西暦1006年は、紫式部や藤原道長が活躍した時代に当たる。そこから1000年あまりの時をかけて、超新星残骸は直径65光年もの大きな球状の天体へと成長し、現在も秒速5000kmの速さで膨張し続けている。Xtendが取得したデータを利用することで、超新星爆発時の核融合反応で作られた元素の量や残骸が膨張する様子を詳しく調べることができる。

 

 「直径65光年もの大きな球状の天体」が現在も膨張し続けているというのも凄いと思います。

 その膨張速度「秒速5000km」は光速度の1%以上ですね。

 

 >今後の運用では、まず搭載機器の特長を活かす天体観測や、観測精度を高めるための較正・初期性能検証が実施される。その後、世界中からの観測提案に基づいた観測が始まる。XRISMはすでに当初の目標を上回る分光性能をはじめとする優れた機器の性能を達成していて、今後の観測から様々な発見がもたらされると期待される。

 >「衛星システムと地上システムの初期機能確認を完了し、いよいよ定常運用として科学観測を開始します。ファーストライトでは驚くべき観測性能を目の当たりにしました。これからX線国際天文台として多くの天体を観測して、宇宙の謎に迫りますのでご期待ください」(XRISMプロジェクトマネージャ JAXA宇宙科学研究所 前島弘則さん)。

 

 XRISMのファーストライトについては次の記事をご参照ください。

 日本のX線天文衛星「XRISM」がファーストライト | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)

 

 >「いよいよ科学観測が始まります。今年8月ごろからは、世界中の研究者から公募した観測提案に基づいた観測も始める予定です。公開天文台として貢献できる日を心待ちにしています」(XRISMプリンシパルインベスティゲータ(研究主宰者)埼玉大学 田代信さん)。

 

 観測成果はもちろん期待したいのですが、気になるのは愛称を付けるかどうかです。

 日本のX線天文衛星については、これまで次のようなひらがなの愛称が付けられてきた伝統があります。

   はくちょう、てんま、ぎんが、あすか、すざく、ひとみ

 観測成果とは別問題ですが、いつまでもXRISM呼びは寂しいような。

 

 

 ★ 暖かい日が続き、ソメイヨシノはもう葉桜となっていますね。この時期は次の歌をどうぞ。

 風 ささやかなこの人生 歌詞 - 歌ネット (uta-net.com) 「動画を見る」をクリック

 ♪花びらが散った後の桜がとても~

 今日あたり、私のマンションの敷地内では八重桜が満開です。花びらが多く色も少し濃くて、また赤っぽい葉も花と同時に出てくるので、一本なのですが豪華に感じます。

 

 ★★ 今日のロジバン 不思議の国のアリス189

   ni’o la .alis. cu lebna lo bifpra jo’u lo gluta gi’e co’a pilno by mu’i lo nu lo kumfa cu glare

  [新段落] アリスは扇子と手袋を拾って、廊下がとても暑かったので、扇子で扇ぎました。

 lebna : 取る/得る/奪う/盗む/取り除く/没収/着服する,x1は x2(物/性質)を x3(者)から。所有権の移転が含意される。-leb-, -le’a-

 pilno : 使う/用いる,x1は x2(道具/機械/者)を x3(目的)のために。-pli-

 mu’i : ~が動機となって。法制詞BAI類 <- mukti

 glare : 熱い/暖かい/温い,x1は x2(基準)において。-gla-

 

 これも gi’e で結ばれた複述構文で、x1は { la .alis } 「アリス」、前半の主述語は { cu lebna } 「取る」で、そのx2が { lo bifpra jo’u lo gluta } 「扇子と手袋」です。

 後半の主述語は { co’a pilno } 「使い始める」で、そのx2は { lo bifpra } 「扇子」の代項詞である by です。

 さらに、mu’i で始まる法制節が掛かっており、その主述語は { cu glare } 「暑い」、x1は { lo kumfa } です。

 出典は、

 lo selfri be la .alis. bei bu'u la selmacygu'e (lojban.org)