タンパク質構成アミノ酸が豊富なのは一部の天体だけ | 宇宙とブラックホールのQ&A

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 ・タンパク質構成アミノ酸が一部の天体グループだけに豊富に存在する理由

  アストロアーツ12月25日付記事、元は東京工業大学地球生命研究所です。

 タンパク質構成アミノ酸が一部の天体グループだけに豊富に存在する理由 - アストロアーツ (astroarts.co.jp)

 

 概要>タンパク質構成アミノ酸を分解する新たな水質化学反応が解明された。一部の天体グループだけでタンパク質構成アミノ酸が多く、小惑星リュウグウの試料などでは非タンパク質構成アミノ酸が豊富である理由を説明しうる成果だ。

 

 タンパク質はわれわれ人類を含む生物にとって重要な栄養素の一つで、高分子有機化合物です。

 タンパク質を構成するのはアミノ酸ですが、アミノ酸ではあってもタンパク質を構成しないアミノ酸もあります。

 アミノ酸とは、アミノ基(-NH2など)とカルボキシ基(−COOH)の両方の官能基をもつ有機化合物の総称です。

 

 >隕石として地球に落下してくる小天体のうち「炭素質コンドライト」と呼ばれるタイプのものには、アミノ酸や核酸塩基、糖に関連した化合物など多くの生命構成要素と、(鉱物中の水酸基の形で)水が豊富に含まれていて、生命誕生に重要な前提条件である水と有機物を初期地球にもたらした供給源と考えられている。

 

 Wikiによると、隕石は金属鉄とケイ酸塩鉱物の比率により大きく鉄隕石(隕鉄)、石鉄隕石、石質隕石に3分類されます。

 石質隕石とは、主にケイ酸塩鉱物から成る隕石です。

 コンドライト(chondrite)とは石質隕石の一種で、球粒状構造のコンドルール(chondrule)があるものです。

 コンドライトは、未分化の天体が起源と考えられています。

 

 >しかし、炭素質コンドライトに含まれるすべての有機物が生命に関連しているわけではない。タンパク質構成アミノ酸ではないアミノ酸は炭素質コンドライトにおいて頻繁に同定されるが、現在の生命には利用されず、生命の誕生にも寄与しないものだ。最近の研究では、強い水質変成を経験した炭素質コンドライトには非タンパク質構成アミノ酸が豊富に見つかるという結果が得られており、水質変成によって引き起こされた化学過程がアミノ酸の分布を作り出したことが示唆されている。探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料もタンパク質構成アミノ酸の含有量が少なく(=非タンパク質構成アミノ酸が多く)、同様に強い水質変成を経験していることがわかっている。

 

 真核生物は21種類のアミノ酸から、われわれヒトは20種類のアミノ酸から構成されます。

 しかし、天然には約500種類のアミノ酸が発見されています。

 要らないアミノ酸ばかりあっても、生命の誕生・生存にはつながりません。

 

 >こうした観測事実を説明するモデルとして、東京工業大学地球生命研究所の李亜梅さんたちの研究チームは、電気化学的条件に応じてタンパク質構成アミノ酸を分解する反応経路を見出した。李さんたちは、水に富んだマントルで生じるアミノ酸の還元分解反応と岩石コアで生じる水素酸化反応を電気化学的に結合させるという経路をシミュレートした。

 

 李亜梅さんのお名前は「リ・ヤメイ」とお読みするようです。

 女性研究者で、発表元の下の方にお写真が載っています。

 酵素の仕組みを再現した硝酸還元触媒 | 理化学研究所 (riken.jp)

 

 >その結果、一硫化鉄と硫化ニッケルを触媒として、グルタミン酸とアスパラギン酸という2種類のタンパク質構成アミノ酸が、非タンパク質構成アミノ酸へと分解されることがわかった。強い水質変成を経験した炭素質コンドライトやリュウグウの試料に非タンパク質構成アミノ酸が多く、水質変成をあまり経験していない炭素質コンドライトにはタンパク質構成アミノ酸が多く含まれているという分析結果をよく説明する結果である。

 

 グルタミン酸とアスパラギン酸は、どちらもその名称がタンパク質構成アミノ酸として一般にもよく知られています。

 「強い水質変成」によってグルタミン酸とアスパラギン酸が分解されるのであれば、それを経験したかどうかが問題なのですね。

 

 ここで、アストロアーツ掲載の上の画像をご覧ください。

 炭素質コンドライトおよび小惑星リュウグウの母天体における電気化学的アミノ酸分解モデルの模式図です。

 英語で説明されているのと拡大しないのが、難点です。

 (A)では、炭素質コンドライトとリュウグウの母天体は、二酸化炭素のスノーライン(固体と気体の境界となる太陽からの距離)の外側にあり、水の氷とともに二酸化炭素の氷がかなり付着している可能性がある。

 (B)では、アルミニウム26(26Al)の放射性崩壊によって放出された熱によって液体の水が形成され、原始的な鉱物であるカンラン石や輝石と反応して、水/岩石比(W/R)が小さく水素に富んだアルカリ性の流体がコアに形成されます。

 一方、マントルではW/R比が大きく、炭酸塩の存在により中性から弱アルカリ性に緩衝されます。

 H2の酸化によって電子が発生し、マントル流体と接触している鉱物の表面に運ばれ、そこでアミノ酸が電気化学的に分解されます。

 

 >さらに研究チームは、異なる炭素質コンドライトグループ間の化学的な不均一性を説明する、次のような新しい進化モデルを提案した。母天体である氷微惑星が水・岩石分化していたと仮定すると、コアとマントルの水・岩石比が大きく異なるため、天体内部に大きな化学・酸化還元勾配が存在したと考えられる。アミノ酸はコアではよく保存される一方、マントルでは分解される。このような天体が太陽系の内側領域に移動するのと合わせて、天体の衝突と破壊が起こり、全く異なるアミノ酸分布を持つ小惑星が誕生したと考えられる。

 

 つまり単純化すると、母天体である氷微惑星が水・岩石分化していれば、コアは水が少なく、マントルは水が多いので、コアではアミノ酸が保存されマントルでは分解される、ということです。

 その後で、母天体が破壊されると、元のコアからできた小惑星はアミノ酸が豊富で、元のマントルからできた小惑星はアミノ酸が少ないというのですね。

 

 それにしても、「化学・酸化還元勾配」という用語は初めて見ました。

 実際にはコアとマントルとに明快に2分されるわけではないので、その間の移り変わりを意味する用語が必要なのでしょう。

 

 >研究チームは、このような岩石コアと水に富んだマントルの分化が、様々な炭素質コンドライトグループ間で観測されたアミノ酸の不均一性を少なくとも部分的に説明できると提案している。また、反応経路は触媒となる鉱物と酸化還元条件に大きく依存する。

 >今回の研究成果は、宇宙化学進化の歴史を解明するために鉱物と有機物の組み合わせを利用する根拠を提供するものとなる。今年9月にNASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」が試料を持ち帰った小惑星ベンヌを含め、他の水と岩石が相互作用した環境における化学進化の理解にも、鉱物と有機物の組み合わせは応用できる可能性がある。それにより、始原的な太陽系天体における化学進化と、それが生命の起源に与える影響についての理解がいっそう深まると期待される。

 

 近年、ハヤブサ、ハヤブサ2、オシリス・レックスなど小惑星の試料の持ち帰りが何回も成功しています。

 この分野の研究がさらに進展することを期待しましょう。

 

 最後に、アストロアーツ掲載の下の画像をご覧ください。

 リュウグウのような小惑星とCI、CM、CR炭素質コンドライトの形成と進化のシナリオの図解です。

 画像クリックで拡大表示します。

 (左)は、ステージDの解説です。

 :移動(1)原始太陽系星雲内の二酸化炭素スノーライン(CO2 snow line)の外側で炭素質コンドライトや小惑星の母天体(外側が黄色、内側が茶色の丸)が形成されたあと、水岩石分化し小惑星帯(Main belt)へ移動

 (2)形成時から続く天体同士の衝突により、さらにコアの破片(茶色の丸)もできて地球近傍へ移動

 (3)現在の状態。マントルの破片(クリームイエローの丸)。コアとマントル領域の化学的な違いにより、化学的に異なる隕石や小惑星が形成される。

 (右)は、単一天体の進化のクローズアップです。

 ステージA:二酸化炭素を含む氷が降着。

 ステージB:分化、水と岩石が反応しアミノ酸の分解が起こる。

 ステージC:含水レゴリスに覆われた天体が凍結。

 ステージE:炭素質小惑星と炭素質コンドライトを形成する破壊と断片化が起こる。

 

 左のステージDは、右のステージCとステージDの間に入ると思うのですが、あまり分かりやすくはありませんね。

 

 

 ★ 予報通り東京も雪が降りました。洗濯物が溜まっているので、明日こそは洗濯です。あと、将棋は王将戦の第5局(2日制)が始まり、明後日にはシリーズの決着が付くかもしれません。

 

 ★★ 今年のNHK大河ドラマは紫式部が主人公の『光る君へ』です。その解説として、私が見ているユーチューブが「きりゅう」さんという女性(歴女)とそのお仲間二人による「かしまし歴史チャンネル」です。同様のユーチューブは他にもいくつかありますが、きりゅうさんが一番詳しくかつ親しみやすいと感じ、ご興味のある方にはお勧めします。歴史ものというと、武将・武士にばかり注目するのは、私は賛成できません。