藤井聡太名人と人新世の漢詩 | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

 裁錦會詩草 第305回(2023年9月開催)から。

 旧七帝大の卒業生を会員とする学士会の「學士會会報」第964回 2023-Ⅰ(新年号)p.134~136に掲載されたものです。

 今回取り上げるのは、将棋の藤井聡太名人誕生と「人新世」をそれぞれテーマとした2作品です。

 しかし、よく理解できていない部分が多いのが残念。

 

 

 >           太乙 井上 薫

  賀藤井聰太新名人  藤井聡太新名人を(いわ)

 一團新玩具  一団の新玩具

 祖母贈揚揚  祖母贈りて揚々たり

 丱角開張目  丱角(かんかく) 開張の目

 眸中運命光  眸中 運命の光

 疎疎兒女戲  疎々 児女の()

 默默角飛翔  黙々 角飛の(しょう)

 爲事日相對  (ひび)相対(あいたい)を事とする為

 欲披俄老裝  ()んと欲す (にわ)かな老装

 五三成職業  五三 職業と成し

 廿九勝豪強  廿九 豪強に勝つ

 佳話坤興滿  佳話 坤興に満ち

 嚴師教室忙  厳師 教室に忙し

 人知方電腦  人知 電脳に(くら)

 今者剩高望  今者 高望を(あま)

 肥力問殘局  力を肥やして残局を問い

 鍛心乘考長  心を鍛えて考の長きに乗ず

 其譽尤重響  其の(ほまれ)尤も重く響き

 弱冠最初當  弱冠 最初に当たる

 魂集令和夏  魂は集う 令和の夏

 天回藤井莊  天は回る 藤井荘

 以何平氣度  何を以て平気に(わた)

 如此異能昌  此くの如く異能(さかん)なる

 斯道諸賢裏  斯道の諸賢の(うち)

 靑年既太陽  靑年既に太陽

 (註)○残局…詰め(現代中国語)。問残局で詰将棋を表す。

 ◇幼い藤井少年が高齢者施設で将棋に熱中していて「毎日将棋を指したいから早くおじいちゃんになりたい」と言ったという。コンピューターが人を凌ぐ現在で藤井さんはまだ人の力に望みを残している。ここでは藤井さんが名人となった対局を詠じている。<

 

 祖贈既の旧字が探し出せません。時間ばかり掛かって成果を得られず・・・

 

 24行と長いのですが、詩形は五言排律かあるいは五言古詩か、分かりません。

 韻は、揚翔強忙莊昌陽が下平声七陽、光裝望長當が去声二十三漾

 奇数行目と偶数行目は、大部分が対句になっています。

 

 作者の井上薫さんは、2021年10月に『網羅漢詩三百首』という本を出しています。

 その本の著者紹介によると、

 ・1978年東京大学理学部化学科卒業、1980年同大学院理学系研究科科学専門課程修士課程修了。1983年司法試験合格。1986年判事補任官となり、1996年判事任官。2007年弁護士登録(東京弁護士会所属)。

 文理両道に優れた方なのは間違いありません。

 このブログでは以前次の作品を取り上げさせていただいています。

 DNAの漢詩 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)

 

 一団は、一揃い、ワンセット。

 揚々は、誇らしげ、得意げなさま。

 丱角(かんかく)は、児童の髪形から転じて、子どもの意。

 開張は、大きく広げること。

 疎々は、関心をもたないこと。

 「爲事日相對 欲披俄老裝」は、註の◇をご覧ください。

 五三は、15歳の意。

 廿九は、デビュー初戦から29連勝したこと。

 坤興は「こんよ」と読み、この場合は地上の意。

 厳師は、藤井名人の師匠である杉本昌隆八段とも受け取れますが、ここは将棋を教えている棋士たちという意味に取りました。

 「其譽尤重響」は名人という称号のこと。

 弱冠は、20歳の意。

 魂は、この場合は「こん」と読み、優れた才能の持ち主の意で、当時の渡辺明名人と藤井聡太挑戦者のこと。

 「天は回る」は、チャンスがやって来たという意かと。

 藤井荘は、長野県高山村「緑霞山宿 藤井荘」のことで、ここで2023年5月31日~6月1日にかけて行われた名人戦第5局で決着がつき、藤井聡太新名人が誕生しました。

 度は、渡と同意。

 斯道は、将棋という道。

 太陽は、中原誠十六世名人が若い頃「棋界の若き太陽」と呼ばれたことを思い起こさせます。

 

 意味不明部分が多いのですが、拙訳を載せます。

 >  藤井聡太新名人をいわう

 一組の新しいおもちゃ(将棋セット)

 祖母が得意げに贈ってくれた

 (もらった)子どもは目を見開く

 目の中には運命の光が輝いた

 普通の子どもの遊びには目も向けず

 黙々と角や飛車を飛ばして動かした

 毎日将棋を指したくて相手を探すため

 早く老人になりたいと願った

 15歳で将棋棋士となり

 強豪相手に29連勝した

 (彼の)活躍は日本全国で話題となり

 将棋棋士たちの開く将棋教室は大忙しだ

 人間の知性がコンピュータに追いつき追い抜かれる時代となったが

 まだ(藤井聡太氏がいるから)人間はコンピュータに負けないという望みを捨てなくてよい

 詰将棋を解いて力をつけ

 長考を繰り返して心を鍛えた

 (そうして)将棋界で最も名誉のあるタイトルである名人戦に

 20歳で初めて登場する

 優れた才能の持ち主どうしが激突したのは、令和の夏

 (その名も)藤井荘で(名人戦第5局という)チャンスが回って来た

 (名人戦という大舞台に臨んでいるのに)どうしてあれほど平静でいられるのか

 これほど優れた能力を発揮できるのか

 将棋界の実力者たちは心のうちで思っている

 この青年はすでに(将棋界の)太陽になっていると <

 

 作成と掲載に時間を要するため、時期がずれるのは止むを得ませんが、正月に相応しい内容の詩だと思います。

 

 

 >          玉理 竹中 淑子

  構思命名人新世  命名「人新世」を構思す

 地球誕生星空間  地球誕生す 星空間

 爾来四十八億年  爾来四十八億年

 地殻變動裂陸海  地殻変動 陸海を裂し

 隕石衝突生死頒  隕石衝突 生死頒つ

 天變地異留地層  天変地異 地層に(とど)

 幾代幾紀幾世瞰  幾代 幾紀 幾世の瞰

 近年観測奇爪痕  近年観測す奇なる爪痕

 痕跡由來核實驗  痕跡は由来す核実験に

 談論風發人新世  談論風発 人新世

 人類愚行揺地球  人類の愚行地球を揺るがす

 想起終焉白亞紀  想起す 終焉の白亜紀を

 警鐘英知缼如儘  警鐘 英知欠如の儘に

 (註)◇人類活動の痕跡が残る時代として地質時代に「人新世」を加えることが提唱、議論されている。現代は新生代、第四紀、完新世に属している。<

 

 竹中淑子さんについては、次の記事の下の方にご経歴をまとめてあります。

 漢詩「黎明観天空珍事」 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)

 

 詩形は古体詩で、韻は特に踏んでいないように思われます。

 

 「構思」は「考えを組み立てること」。また、「組み立てた考え」。

 「頒つ」は「わかつ」。

 「代 紀 世」は、「新生代第四紀完新世」のような地質年代の区分。

 「瞰」は「かん」と読み、「見る」の意。

 「儘」は「まま」と読みます。

 

 >「人新世」という命名について考察する

 地球は誕生した、星空間で

 それから48億年

 地殻変動は陸海を裂き

 隕石衝突は生と死を分かった

 天変地異(の記録)は地層に留まっている

 (地層からは)さまざまな地質年代を読み取ることができる

 近年観測されるのは、不思議な爪痕

 その痕跡は核実験に由来するのだ

 人新世(という新たな地質年代を設けること)について談論風発

 人類の愚行は地球を揺るがしている

 想い起すのは、白亜紀に恐竜が終焉したこと

 英知が欠けている状況が続くことに警鐘を鳴らしている <

 

 

 ★ 元日に大地震に襲われた石川県では道路の寸断で孤立状態の地域が多数あり、支援ができていないとのことです。自衛隊の初動対応は的確だったと思いますが、当初の千人規模ではいかにも不足で、早い時期から倍の人数を出せなかったのかと思います。素人考えか・・・

 一方、羽田空港の事故では、海上保安庁職員が4名亡くなられましたが、日航機の方はあれほどの衝突事故にもかかわらず乗客・乗員全員救助されました。大変な事故のさなかであっても関係者の方々の的確な判断と誘導がなされたものと感じ、ご努力に敬意を表します。

 

 ★★ 今日のロジバン 不思議の国のアリス139

   ni’o .abu citka lo spisa gi’e xanka sezysku «lu fa’a ma .i fa’a ma li’u»

  [新段落] ちょっと食べてみて、アリスは心配そうに自分に言いました。「どっちかな?どっちかな?」

 spisa : 欠片/破片/切抜きだ,x1は x2(本体)の。-spi-

 xanka : 心配する/不安だ,x1は x2について x3の条件下で。x2はNU類で抽象化

 sezysku : ひとり言をいう,s1=c1は c2という <- sez+sku, sez<-sevzi 自己/自我, sku<- cusku 言う

 fa’a : ~へ/に/を方向として。間制詞(空間・方向)FAhA4類。

 

 gi’e で結ばれた複述構文であり、この後さらに gi’e で続くのですが、いったん切ります。

 共通のx1は .abu 「アリス」であり、前半の主述語は citka 、後半はtanru { xanka sezysku } 「心配そうにひとり言を言う」です。

 引用符の中は { fa’a ma } 「どちらの方に?」英”which way“ がくり返されています。

 出典は、

 lo selfri be la .alis. bei bu'u la selmacygu'e (lojban.org)