コクセターの名著『正多胞体』については、すでにご紹介しました。
『正多胞体』1 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)
ただ、連載4回では私が興味深く感じた内容であっても書ききれなかったものも多々あります。
今回ご紹介するのはその一つで、正多面体の配置数という数値から構成される行列です。
コクセター自身は「配置行列」という用語は使っていないのですが、配置数からなる行列なので、ここではそのように呼ぶことにします。
まずシュレーフリ記号の復習から。
正p角形を {p} で表します。
正多角形は無限系列なので、次のようになります。
{3},{4},{5},{6},・・・
また、面が正p角形で、1つの頂点に面がq個集まってできる正多面体を {p,q} で表します。
正多面体は次の5種類存在します。
{3,3},{3,4},{4,3},{3,5},{5,3}
これらは、順に 正4面体、正8面体、立方体、正20面体、正12面体 を意味します。
なお、{p,q} がこれらの正多面体を意味すること(面の数)は、後できちんと導きます。
以下、特定の正多面体を考えます。
正多面体は、要素として頂点(0次元図形)、稜(1次元図形)、面(2次元図形)を含みます。
頂点数を N0,稜の本数を N1,面の枚数を N2 とします。
次に、要素間の関係を数値で表します。
その正多面体において1つの j 次元図形が接するk次元図形の数を、Njk とします。
正多面体 {p,q} では、 1つの頂点につながる稜の数はq本、1つの頂点を取り囲む面の数もq枚なので、
N01 = N02 = q.
1枚の面の周りの頂点数はp個、1枚の面を取り囲む稜の数もp本なので、
N20 = N21 = p.
1本の稜は両端に頂点2個をもち、2枚の面に挟まれているので、
N10 = N12 = 2.
これらの数値 Njk を配置数(configuration numbers)といいます。
6種類の配置数が出てきたので、それらを整理して表示することにします。
添字が2つ付いているので、この場合は行列を使うのが便利です。
次のような行列を考えます。
[ N00 N01 N02 ]
[ N10 N11 N12 ]
[ N20 N21 N22 ]
ただし、対角要素は
N00 = N0, N11 = N1, N22 = N2
とします。
この行列を、配置行列と呼ぶことにします。
正多面体 { p,q } の配置行列は次のようになります。
[ N0 q q ]
[ 2 N1 2 ]
[ p p N2 ]
次に、N0,N1,N2 をpとqで表す式を求めます。
頂点と稜の数の関係を考えると、 1個の頂点には N01 (=q)本の稜がつながっており、全部で N0 個の頂点があります。
一方で、1本の稜には N10(=2)個の頂点が付いており、全部で N1 本の稜があるので、
N0 N01 = N1 N10.
同様に考えると、一般に次の関係が成り立ちます。
Nj Njk = Nk Nkj. ・・・ (1)
(1)式は、正多面体 { p,q } の配置行列では次のようにまとめられます。
q N0 = 2N1 = p N2. ・・・ (2)
(2)式の値をXと置くと、
N0 = X/q, N1 = X/2, N2 = X/p, 2 = X/N1.
これらを、オイラーの多面体公式
N0 -N1 +N2 = 2
に代入し、両辺をXで割ると、次の式が得られます。
1/N1 = 1/p +1/q -1/2
= (2p+2q-pq)/2pq.
∴ N1 = 2pq/(2p+2q-pq)
= 2pq/(4-(p-2)(q-2)).
この値を(2)式に代入すると、N0,N1,N2 を pとq で表示する次の式が得られます。
N0 = 4p ,
4-(p-2)(q-2)
N1 = 2pq ,
4-(p-2)(q-2)
N2 = 4q .
4-(p-2)(q-2)
それでは、5種類の正多面体について配置行列を示します。
正4面体 {3,3}
[ 4 3 3 ]
[ 2 6 2 ]
[ 3 3 4 ]
正8面体 {3,4}
[ 6 4 4 ]
[ 2 12 2 ]
[ 3 3 8 ]
立方体 {4,3}
[ 8 3 3 ]
[ 2 12 2 ]
[ 4 4 6 ]
正20面体 {3,5}
[ 12 5 5 ]
[ 2 30 2 ]
[ 3 3 20 ]
正12面体 {5,3}
[ 20 3 3 ]
[ 2 30 2 ]
[ 5 5 12 ]
頂点数 N0 の順に並べましたが、稜の長さを揃えたときの大きさの順にもなっています。
互いに双対な正多面体どうしは、第1行と第3行、第1列と第3列を入れ替えた形になっています。
ただ、この配置行列が何かの役に立つかというと、配置数をきれいに整理して表示してあるというだけで、特に何らかの目的に有用というわけではありません。
まあ、御用とお急ぎでない方は、(1)式とオイラーの多面体公式の確認を暗算でしてみてください。
ついでに、正タイル貼り3種類の配置行列も載せておきます。こちらはコクセターには載っていません。
少し違うのは、N0=N1=N2=∞ なので対角線に∞を書き込むと(1)式とオイラーの多面体公式の意味がなくなるため、その代わりにそれらの比率 ν0,ν1,ν2 を対角線に書き入れていることです。
(ただし、νはギリシア文字の小文字のニューですが、amebloではなぜかローマ文字の小文字のヴィと同じになってしまいます。)
この場合、オイラーの多面体公式の代わりに次の式が成り立ちます。
ν0 -ν1 +ν2 = 0.
また、(1)式の代わりに次の式が成り立ちます。
νj Njk = νk Nkj.
例として、最初の {3,6} の1行目3行目だと、1×6=3×2 となります。
正3角形タイル貼り {3,6}
[ 1 6 6 ]
[ 2 3 2 ]
[ 3 3 2 ]
正方形タイル貼り {4,4}
[ 1 4 4 ]
[ 2 2 2 ]
[ 4 4 1 ]
正6角形タイル貼り {6,3}
[ 2 3 3 ]
[ 2 3 2 ]
[ 6 6 1 ]
多面体関係で登場する行列としては、以前コンウェイ記号の行列表現を紹介しました。
多面体のコンウェイ記号と行列表示2 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)
そこで最後に、正多面体の配置行列(a)とコンウェイ記号の行列表現(b)の比較を行います。
bでは、多面体の要素数 (N0,N1,N2) をベクトル表示し、多面体の操作がベクトルの変換行列として表されるのでした。したがって、
1.多面体の範囲が、aでは正多面体に限定されているのに対し、bでは多面体全般となっている。
2.多面体は、bではベクトルで表示されるのに対し、aでは行列で表示される。
3.bは多面体の面の形を問わずその数だけを問題にするのに対し、aでは面の形(正何角形か)や頂点図形も情報として含む。
つまり、bはトポロジーの観点から見ているのに対し、aは幾何学の立場に立っている。
4.bはベクトルの変換行列なので行列表現は本質的だが、aは9種類の数値情報を行列として整理したもので行列表示は本質的ではない。
多面体など幾何の連載一覧 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)
2022/11/2、記事の題名に「と正タイル貼り」を挿入。
★ 一気に空気が入れ替わり雨が降り続いたこともあって、今日は冬の寒さです。10月って天気が良くて爽やかな季節だったと思うのですが。
★★ 今日のロジバン
so’u prenu mu’a cu’i cu rivbi lo nu nicygau le kumfa
「ソフ ㇷ゚レヌ ムハ シュヒ シュ リヴビ ロ゚ ヌ ニシァガウ レ゚ クㇺファ」
誰とは言わないがいく人かの人は部屋を掃除しない。
so’u : 少しの。不定数詞PA4類。-sot-
mu’acu’i : 例は省く。心態詞(談話系)UI*3類 <- mu’a例えば
rivbi : 避ける/回避する/逃れる,x1は x2(事)を x3(事)によって。-riv-
「遠回り」「迂回」も
nicygau : きちんとする/片づける,g1(者)は c1を x2(性質)において。<- nic+gau, nic<- cnici, gau<- gasnu
cnici :整っている/整然としている。x1は x2(性質)に関して。-nic-
gasnu : する,x1(者)は x2(事)を。-gau-
主述語は { cu rivbi } 「逃れる」で、そのx1は { so’u prenu } 「いく人かの人」、x2は { lo nu nicygau le kumfa } 「部屋を掃除すること」です。
gasnu のrafsi語基3字形である gau は、英文法式にいうと自動詞を他動詞化する働きをします。
例として、glagau 「熱する」、kargau 「開く」、pacnygau 「希望をもてるようにする」、jajgau 「集める」など。
出典は、.cogas.さんの