束論入門3 | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

 束論入門1 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)

 束論入門2 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)

 --------------------------------

 

  3.ブール代数

 

 分配束の定義: 束 La は、その任意の元 x, y, z が次の c-5∨b,c-5∧b をみたすとき、分配束(distributive lattice)という。

  c-5∨b           c-5∧b

  (x∨y)∧(x∨z) ≦ x∨(y∧z),

              x∧(y∨z) ≦ (x∧y)∨(x∧z).

 

 これらの不等式は、先に出てきた c-5∨a,c-5∧a と対を成すものです。

 

 c-5∨a,c-5∧a と c-5∨b,c-5∧b から、 分配束では、次の分配律が成り立ちます。

  c-5∨c  x∨(y∧z) = (x∨y)∧(x∨z)

  c-5∧c  x∧(y∨z) = (x∧y)∨(x∧z)

 

 補元の定義: 有界束 La において、2元 x, y が相補律と呼ばれる次の d-1,d-2 をみたすとき、

  d-1 x∨y = 1

  d-2 x∧y = 0

 yをxの補元(complement)、またxをyの補元という。

 

 一般の有界束においては、任意の元に対して必ずしも補元が存在するとは限りません。

 

  相補束の定義:

 有界束 La において、その任意の元が補元をもつとき、La を相補束(complemented lattice)という。

 

 1 は最大元、0 は最小元なので、d-1 と d-2 から、 1 の補元は 0,0 の補元は 1 であることが分かります。

 

  ブール代数の定義:

 束 La が分配束でありかつ相補束であるとき、La をブール束(Boolean Lattice)あるいはブール代数(Boolean Algebra)という。

 

 本稿では以後、ブール代数の方を採用します。

 また、La がブール代数のとき、Ba と表記します。

 

  ブール代数の諸定理:

 (1) xの補元は一意的に決まる。

  以下、xの補元を次のように表す。

   y = xc

 (2) 補元の補元はもとの元。

   xcc =x.

 (3) ド・モルガンの法則

   (x∨y) c = xc∧yc, (x∧y) c = xc∨yc

 (4) 補元をとる操作は不等号を逆転させる。

   x ≦ y ←→ yc ≦ xc

 (5) x∧yc=0 ならば x ≦ y, xc∨y=1 ならば x ≦ y.

 証明:(1) x∨y=1,x∧y=0,x∨z=1,x∧z=0 として、y=zを示せばよい。 z=z∧1=z∧(x∨y)= (z∧x)∨(z∧y)=0∨(z∧y)=z∧y.よって、z≦y.同様に、y≦zも示せる。∴ z=y.

 (2) xccはxcの補元であり、またxもxcの補元なので、(1)から xcc =x.

 (3) (x∨y)∨(xc∧yc)=(x∨y∨xc)∧(x∨y∨yc)=(1∨y)∧(x∨1)=1∧1=1. (x∨y)∧(xc∧yc)=(x∧xc∧yc)∨(y∧xc∧yc)=(0∧yc)∨(xc∧0)=0∨0=0. したがって、xc∧ycはx∨yの補元なので、xcc=x.

 (4) x≦y とすると、y=x∨y.このとき、yc=(x∨y) c=xc∧yc.∴ yc≦xc.逆に、yc≦xcとすると同様にして xcc≦ycc が得られるので、(2)からx≦y.

 (5) 前半だけ証明を示す。x∧yc=0 とする。このとき x∧yc=0≦x.また x∧yc=0≦y.したがって、x∧yc≦x∧y.すなわち (x∧yc)∨(x∧y)=x∧y.この左辺は (x∧yc)∨(x∧y)=((x∧yc)∨x)∧((x∧yc)∨y)=(0∨x)∧(x∨y)=x∧(x∨y)=x.x∧y=x なので、x ≦ y が得られる。

 

 

 ブール代数の例とブール代数でない有界束の例を挙げます。

 

 べき集合 P (X) に包含順序を入れてできる有界束は、任意の元Yの補元を X\Y (差集合)として定義すれば、ブール代数となります。

 これは、ブール代数の典型的例です。

 

 Rのすべての開区間から生成される集合に包含順序を入れてできる有界束では、任意の元Xの補元を Xの外部 Ext X=Int(R\X) と定義すると、これは相補律のうち d-2 をみたすものの、d-1 はみたさないため、ブール代数にはなりません。

   d-1 x∨y = 1

   d-2 x∧y = 0

 たとえば、開区間 〕0, 1〔 の外部は、 〕-∞, 0〔 ∪ 〕1, ∞〔 ですが、

   〕0, 1〔 ∪ (〕-∞, 0〔 ∪ 〕1, ∞〔 ) ≠ R

 となるためです。(0と1が含まれない。)

 これは、排中律の不成立に対応します。

 

 自然数集合に整除関係を順序として入れてできる有界束では、0でない任意の2元 n, m に対して、その結び=最小公倍数kが存在し、それらはすべて 0 とは異なるため、ブール代数ではありません。

   n∨m = k ≠ 0   ただし、n≠0,m≠0

 

 

  原子元の定義:

 ブール代数 Ba において、その元xが次の(1)と(2)をみたすとき、x を Ba の原子元(atom)あるいはアトムという。

 (1) x は最小元 0 ではない

 (2) y≦x ならば y=0 か y=x である

 

 上の定義から、原子元xと最小元0との間にはいかなる元も存在しない、すなわち原子元とは、最小元 0 を除いたうちの極小元のことであることが分かります。

 

  定理:ブール代数 Ba の元xについて、

 xが原子元である ←→ Ba の任意の元 y, z について、x≦y∨z のとき、x≦y または x≦z である。

 

  原子的と非原子的の定義:

 ブール代数 Ba において、最小元0でない任意の元yに対して、x≦y となる Ba の原子元xが存在するとき、Ba は原子的(atomic)という。

 またブール代数 Ba において、いかなる原子元も存在しないとき、Ba は非原子的(atomless)という。

 

 ブール代数は、(1) 原子的ブール代数、(2) 非原子的ブール代数、(3) 原子的でも非原子的でもないブール代数、の3種類に分類されます。

 

 べき集合に包含順序を入れてできるブール代数は、一元集合が原子となるので、原子的です。

 

 Rのすべての開区間から生成される集合に包含順序を入れてできる有界束はブール代数ではありませんが、上の定義を当てはめると非原子的です。

 なぜなら、どの開区間についても開区間の縮小無限列が存在するからです。

 

 

  4.ハイティング代数

 

  相対擬補元の定義:

  x, y, z を La の元とする。このとき、x∧z≦y をみたす最大元zを、yに対するxの相対擬補元(relative pseudo complement)と呼び、記号 xy で表す。

   xy =: max{z|x∧z≦y}

 

  定理: x, y, z を La の元とする。このとき、xy について(1),(2)が成立する。

 (1) x∧(xy) ≦ y.

 (2) x∧z ≦ y ←→ z ≦ xy.

 

 任意の束においては、相対擬補元の存在は必ずしも保証されません。

 

  相対擬補束の定義:

 束 La は、その任意の元 x, y についてつねに相対擬補元 xy が存在するとき、相対擬補束(relatively pseudo complemented lattice)という。

 

  定理:相対擬補束 La では次の(1), (2)が成立する。

 (1) La には、最大元1が存在する。

 (2) La は分配束である。

 証明:(1) 任意の2元 x, y について、x∧y≦x.「x∧z≦y ←→ z≦xy」から、任意のyについて y≦xx となる。すなわち、xx が最大元1である。

 (2) x∧(y∨z)≦(x∧y)∨(x∧z) を示す。この式の右辺をuと置く。すると、x∧y≦u, x∧z≦u.それぞれに「x∧z≦y ←→ z≦xy」を適用すると、y≦xu,z≦xu を得る。よって、y∨z≦xu となり、再び「」を適用すると、x∧(y∨z)≦u が成立する。

 

 ・相対擬補束では、最小元 0 が存在するとは限らない。

 

 定理 : 相対擬補束 La では、任意の元 x, y について、次の式が成立する。

   x ≦ y ←→ xy = 1.

 証明:「x∧z≦y ←→ z≦xy」から、x∧1≦y ←→ 1≦xy.左辺は x≦y,右辺は 1=xy とそれぞれ同値である。

 

 これでようやくハイティング代数が定義できます。

 

  ハイティング代数の定義:

 相対擬補束 La に最小元 0 が存在し、かつその任意の元xに対して

   ¬x =: x0

 により、擬補元と呼ばれる ¬x が定義されているとき、La をハイティング代数(Heyting algebra)または擬似ブール代数(pseudo Boolean algebra)という。

 以下、ハイティング代数をHaで表す。

 

 ・Ha の ¬x は、Ba の xc とは異なり、x∨¬x=1 (排中律に相当)や ¬¬x≦x (二重否定除去に相当)は、必ずしも成立しない。

 これらも成立することを要請すれば、Ba になる。

 

 束と論理の関係では、ブール代数 Ba は古典命題論理に相当し、ハイティング代数 Ha は直観主義命題論理に相当します。

 

 --------------------- 続 く -------------------

 

 

 ★ 今日のロジバン お酒の種類

 これまでお酒関係では、アルコール xalka,ビール birje,ワイン vanju という単語を紹介しました。

 他には次のようなものがあります。(冠詞付きの場合)

 lo xalknsake 「ロ゚ ㇰハㇽ゚ㇰンケ」 日本酒

 lo xalkncotcu 「ロ゚ ㇰハㇽ゚ㇰンショチュ」 焼酎

 lo uiski 「ロ゚ ウィㇲキ」 ウイスキー

 lo vo'otka 「ロ゚ ヴォㇳカ」 ウォッカ

 lo xalknrumu 「ロ゚ ㇰハㇽ゚ㇰンム」 ラム

 

 ウイスキーとウォッカはほぼそのままですが、日本酒、焼酎、ラムは語頭にアルコールを意味する “xalkn” を付けています。

 “sake” と “rumu” は二重子音を含まないため、そのままでは内容語として使えないからでもあります。

 飲み屋での用例については、2021/10/1, 2, 4の「★今日のロジバン」をご覧ください。

 出典は、

 ロジバン語会話集 - ウィキトラベル (wikitravel.org) お酒の項から