目次
0.はじめに
1.角錐とその切頂、方化
2.与えられた頂点数と面の数をもつ凸多面体の構成
3.補足:切頂系列と方化系列のイメージなど
0.はじめに
以前、次の定理をご紹介しました。
定理(凸多面体の存在条件) : 頂点数V、面の数Fの凸多面体が存在するための必要十分条件は次の3つの式が成り立つこと。
V ≧ 4 ・・・ (1)
F ≧ 4 ・・・ (2)
V/2 +2 ≦ F ≦ 2V -4 ・・・ (3)
整凸多面体などについてもろもろ1:
https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471786365.html
(2.の定理10です。)
ただ、これが凸多面体の存在のための必要条件であることは示しました(定理9)が、十分条件であることの証明は付けていませんでした。
最近、次の本を買ったところ、十分条件の証明があったので、私なりに咀嚼してご紹介します。
(記号法や説明の順など変更していますが、実質的には同じです。)
日々 孝之 著 『多角形と多面体 図形が織りなす不思議世界』 講談社 ブルーバックスB-2153 256頁 2020年10月発行 本体価格¥1,200(税込¥1,320)
(なお、この本自体の書評を書くかどうかは未定です。)
3つの条件が成り立つとき、それらをみたす凸多面体が1種類以上存在することを証明します。
方針は、
角錐に切頂あるいは方化という操作を続けて行うことにより、どのような多面体ができるかを示し、
次に、角錐と切頂あるいは方化の操作の回数を適当にとることにより、どんな頂点数と面の数の組合せに対しても、それをみたす多面体が存在することを示す、
というものです。
できた多面体の解説のために、多面体AとBが、頂点数、稜の数、面の数について同じで、それらのつながり方も同じであるとき、AとBは同相である、と表現することにします。
ただし、凸多面体と同相の多面体が必ずしも凸ではない、という点に注意が必要です。
凸であることは、作成の手順により保障されます。
1.角錐とその切頂、方化
ここから証明に入ります。
n角錐を考えると、その頂点数V,稜の本数E、面の枚数Fは
V=n+1,E=2n,F=n+1
となります。
ただし、頂点は3価の頂点がn個、n価の頂点が1個、面は3角形がn枚、n角形が1枚です。
V3=n,Vn=1, F3=n,Fn=1, V=V3+Vn,F=F3+Fn.
n角錐のV,E,Fをベクトルの形で
Pn0 = (n+1,2n,n+1)
と表します。
ただし、Pn0はn角錐から始まる系列の最初の多面体を意味します。
以下、混乱しない範囲で多面体とそのベクトル表示を同一視します。
次に、n角錐Pn0に切頂と方化という2種類の操作を行います。
・切頂:3価の頂点付近を切り取る
切頂を1回行うと、その周辺の頂点数は1から3に増え、稜の数は3から6に増え、面の数は3から4に増えます。
新たにできた頂点の価数はいずれも3価です。
Pn0に1回切頂を行ってできる多面体の構成をPnt1で表すと、
Pnt1 = (n+3,2n+3,n+2)
Pnt1も、頂点は1個を除けばすべて3価の頂点です。
したがって、同様に切頂を行うことができ、できた多面体の構成をPt2で表すと、
Pnt2 = (n+5,2n+6,n+3)
この操作は無限に続けることができます。
n角錐Pn0にm回切頂を行って得られる多面体をPtmとすると、
Pntm = (n+2m+1,2n+3m,n+m+1)
・方化:3角形の面に3角錐を貼り付ける。ただし、結果が凸多面体となるよう3角錐の高さを調整する
方化を1回行うと、その周辺の頂点数は3から4に増え、稜の数は3から6に増え、面の数は1から3に増えます。
新たにできた面はいずれも3角形です。
Pn0に1回方化を行ってできる多面体の構成をPnk1で表すと、
Pnk1 = (n+2,2n+3,n+3)
Pnk1も、面は1枚を除けばすべて3角形です。
したがって、同様に方化を行うことができ、できた多面体の構成をPk2で表すと、
Pnk2 = (n+3,2n+6,n+5)
この操作は無限に続けることができます。
n角錐Pn0にm回方化を行って得られる多面体をPnkmとすると、
Pnkm = (n+m+1,2n+3m,n+2m+1)
切頂の t はtruncateの頭文字、方化の k はkisの頭文字をとっています。
なお、今回の証明の範囲では切頂と方化のどちらか1つの操作を繰り返すだけで、2種類の操作を組み合わせて行うことはありません。
最初のn角錐も、それにm回の切頂・方化を行って得られる多面体も、すべて凸多面体であるという点をご確認ください。
これまで便宜上、PtmやPkmといった多面体が(同相を除き)いずれも1通りに決まるかのような説明を行ってきました。
確かに、最初にnを定めれば、Pn0,Pnt1,Pnk1は(同相を除き)1通りに定まります。
しかし、Pnt2以降,またPnk2以降は必ずしも1通りにはなりません。
というより、一般には1つのmに対して複数のPntm(Pnkm)が存在し、その数はmが大きくなるほど多くなります。
これは、切頂の対象となる3価の頂点は一般的には複数存在し、また方化の対象となる3角形の面が一般的には複数存在するためです。
ただ、今回の証明に関する限り、V,F,n,mにしか注目しないので、複数のPtm(Pkm)間の違いは無視することとします。
2.与えられた頂点数と面の数をもつ凸多面体の構成
与えられた頂点数Vと面の数Fをもつ凸多面体を、1で挙げた操作により構成します。
やり方は、頂点数Vと面の数Fの大小関係により、3つの場合に分けられます。
a.頂点数と面の数が等しい場合(V=F)
V=Fの場合には角錐がそのまま求める凸多面体となります。
n = V-1 = F-1
とおいて、n角錐をつくると、それが求める多面体となります。
Pn0 = (n+1,2n,n+1) = (V,V+F-2,F).
ここで、条件の(1)と(2)から、 n+1 ≧ 4
∴ n ≧ 3
したがって、角錐であることが保証されます。
b.頂点数が面の数より大きい場合(V>F)
V>Fの多面体は、角錐に切頂を行うことにより得られます。
nをn角錐の最大価数、mを切頂の回数とすると、
m = V-F,
n = F-m-1 = 2F-V-1
とおいて、n角錐に対してm回切頂を行えばよい。
ここで、条件(3)の前半から、
2F-V-4 ≧ 0.
∴ n = 2F-V-1 ≧ 3
となるので、Pn0が角錐となることが保証されます。
したがって、(2F-V-1)角錐を(V-F)回切頂すると、求める多面体が得られます。
Pntm = (n+2m+1,2n+3m,n+m+1)
= (V,V+F-2,F).
c.面の数が頂点数より大きい場合(F>V)
F>Vの多面体は、角錐に方化を行うことにより得られます。
nをn角錐の最大価数、mを方化の回数とすると、
m = F-V,
n = V-m-1 = 2V-F-1
とおいて、n角錐に対してm回方化を行えばよい。
ここで、条件(3)の後半から、
2V-F-4 ≧ 0.
∴ n = 2V-F-1 ≧ 3
となるので、Pn0が角錐となることが保証されます。
すなわち、(2V-F-1)角錐を(F-V)回方化すると、求める多面体が得られます。
Pnkm = (n+m+1,2n+3m,n+2m+1)
= (V,V+F-2,F) .//
bの例として、頂点Vが7個、面Fが6枚の多面体をつくってみます。
n = 2F-V-1 = 4, m = V-F = 1.
したがって、4角錐を1回切頂すればよい。
ただし、この多面体と同相である整凸多面体は存在しません。
cの例として、頂点Vが6個、面Fが8枚の多面体をつくってみます。
n = 2V-F-1 = 3, m = F-V = 2.
したがって、3角錐を2回方化すればよい。
3角錐を1回方化すると、双3角錐になります。
したがって、得られた多面体は双3角錐を1回方化したものと同相です。
ただし、この多面体と同相である整凸多面体は存在しません。
3.補足:切頂系列と方化系列のイメージなど
以上みてきたように、条件(1)~(3)をみたす頂点数Vと面の数Fをもつ凸多面体は必ず存在します。
しかし、証明で出てきた方法で作れる多面体は、必ずしも整凸多面体にはならず、馴染みのないものが多いです。
これは、条件(1)~(3)をみたすどんなに大きいVとFの組合せについても、存在を証明できなければならないというので、やむを得ないのでしょうね。
n≧4のとき、切頂でできる系列は、切頂の対象とならないn価の頂点を除き、角を次々と切り取っていくため、どんどん丸っこくなります。
ただ、n価の頂点はいつまでも残ります。
一方、n≧4のとき、方化でできる系列は、方化の対象とならないn角形の面を除き、面の上により背の低い3角錐がどんどん重なって付いていきます。
こちらも、平らな面の中央を盛り上げるので、次第に丸っこくなります。
ただ、もともと一番広いn角形の面はいつまでも残ります。
多面体の連載など一覧:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12598605490.html