凸多面体の存在条件 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

目次

  0.はじめに

  1.角錐とその切頂、方化

  2.与えられた頂点数と面の数をもつ凸多面体の構成

  3.補足:切頂系列と方化系列のイメージなど

 

 

  0.はじめに

 以前、次の定理をご紹介しました。

 定理(凸多面体の存在条件) : 頂点数V、面の数Fの凸多面体が存在するための必要十分条件は次の3つの式が成り立つこと。

   V ≧ 4              ・・・ (1)

   F ≧ 4              ・・・ (2)

   V/2 +2 ≦ F ≦ 2V -4  ・・・ (3)

 整凸多面体などについてもろもろ1: 

https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471786365.html

(2.の定理10です。)

 

 ただ、これが凸多面体の存在のための必要条件であることは示しました(定理9)が、十分条件であることの証明は付けていませんでした。

 最近、次の本を買ったところ、十分条件の証明があったので、私なりに咀嚼してご紹介します。

 (記号法や説明の順など変更していますが、実質的には同じです。)

 日々 孝之 著 『多角形と多面体 図形が織りなす不思議世界』  講談社 ブルーバックスB-2153 256頁 2020年10月発行 本体価格¥1,200(税込¥1,320)

 (なお、この本自体の書評を書くかどうかは未定です。)

 

 3つの条件が成り立つとき、それらをみたす凸多面体が1種類以上存在することを証明します。

 方針は、

 角錐に切頂あるいは方化という操作を続けて行うことにより、どのような多面体ができるかを示し、

 次に、角錐と切頂あるいは方化の操作の回数を適当にとることにより、どんな頂点数と面の数の組合せに対しても、それをみたす多面体が存在することを示す、

 というものです。

 

 できた多面体の解説のために、多面体AとBが、頂点数、稜の数、面の数について同じで、それらのつながり方も同じであるとき、AとBは同相である、と表現することにします。

 ただし、凸多面体と同相の多面体が必ずしも凸ではない、という点に注意が必要です。

 凸であることは、作成の手順により保障されます。

 

 

  1.角錐とその切頂、方化

 ここから証明に入ります。

 

 n角錐を考えると、その頂点数V,稜の本数E、面の枚数Fは

   V=n+1,E=2n,F=n+1

 となります。

 ただし、頂点は3価の頂点がn個、n価の頂点が1個、面は3角形がn枚、n角形が1枚です。

   V3=n,Vn=1, F3=n,Fn=1, V=V3+Vn,F=F3+Fn.

 n角錐のV,E,Fをベクトルの形で

   Pn0 = (n+1,2n,n+1)

 と表します。

 ただし、Pn0はn角錐から始まる系列の最初の多面体を意味します。

 以下、混乱しない範囲で多面体とそのベクトル表示を同一視します。

 

 次に、n角錐Pn0に切頂と方化という2種類の操作を行います。

 

 ・切頂:3価の頂点付近を切り取る

 切頂を1回行うと、その周辺の頂点数は1から3に増え、稜の数は3から6に増え、面の数は3から4に増えます。

 新たにできた頂点の価数はいずれも3価です。

 Pn0に1回切頂を行ってできる多面体の構成をPnt1で表すと、

   Pnt1 = (n+3,2n+3,n+2)

 Pnt1も、頂点は1個を除けばすべて3価の頂点です。

 したがって、同様に切頂を行うことができ、できた多面体の構成をPt2で表すと、

   Pnt2 = (n+5,2n+6,n+3)

 この操作は無限に続けることができます。

 n角錐Pn0にm回切頂を行って得られる多面体をPtmとすると、

   Pntm = (n+2m+1,2n+3m,n+m+1)

 

 ・方化:3角形の面に3角錐を貼り付ける。ただし、結果が凸多面体となるよう3角錐の高さを調整する

 方化を1回行うと、その周辺の頂点数は3から4に増え、稜の数は3から6に増え、面の数は1から3に増えます。

 新たにできた面はいずれも3角形です。

 Pn0に1回方化を行ってできる多面体の構成をPnk1で表すと、

   Pnk1 = (n+2,2n+3,n+3)

 Pnk1も、面は1枚を除けばすべて3角形です。

 したがって、同様に方化を行うことができ、できた多面体の構成をPk2で表すと、

   Pnk2 = (n+3,2n+6,n+5)

 この操作は無限に続けることができます。

 n角錐Pn0にm回方化を行って得られる多面体をPnkmとすると、

   Pnkm = (n+m+1,2n+3m,n+2m+1)

 

 切頂の t はtruncateの頭文字、方化の k はkisの頭文字をとっています。

 

 なお、今回の証明の範囲では切頂と方化のどちらか1つの操作を繰り返すだけで、2種類の操作を組み合わせて行うことはありません。

 最初のn角錐も、それにm回の切頂・方化を行って得られる多面体も、すべて凸多面体であるという点をご確認ください。

 

 これまで便宜上、PtmやPkmといった多面体が(同相を除き)いずれも1通りに決まるかのような説明を行ってきました。

 確かに、最初にnを定めれば、Pn0,Pnt1,Pnk1は(同相を除き)1通りに定まります。

 しかし、Pnt2以降,またPnk2以降は必ずしも1通りにはなりません。

 というより、一般には1つのmに対して複数のPntm(Pnkm)が存在し、その数はmが大きくなるほど多くなります。

 これは、切頂の対象となる3価の頂点は一般的には複数存在し、また方化の対象となる3角形の面が一般的には複数存在するためです。

 ただ、今回の証明に関する限り、V,F,n,mにしか注目しないので、複数のPtm(Pkm)間の違いは無視することとします。

 

 

  2.与えられた頂点数と面の数をもつ凸多面体の構成

 

 与えられた頂点数Vと面の数Fをもつ凸多面体を、1で挙げた操作により構成します。

 やり方は、頂点数Vと面の数Fの大小関係により、3つの場合に分けられます。

 

 a.頂点数と面の数が等しい場合(V=F)

 V=Fの場合には角錐がそのまま求める凸多面体となります。

 

   n = V-1 = F-1

 とおいて、n角錐をつくると、それが求める多面体となります。

   Pn0 = (n+1,2n,n+1) = (V,V+F-2,F).

 

 ここで、条件の(1)と(2)から、 n+1 ≧ 4

 ∴ n ≧ 3

 したがって、角錐であることが保証されます。

 

 b.頂点数が面の数より大きい場合(V>F)

 V>Fの多面体は、角錐に切頂を行うことにより得られます。

 

 nをn角錐の最大価数、mを切頂の回数とすると、

   m = V-F,

   n = F-m-1 = 2F-V-1

 とおいて、n角錐に対してm回切頂を行えばよい。

 

 ここで、条件(3)の前半から、

   2F-V-4 ≧ 0.

 ∴ n = 2F-V-1 ≧ 3

 となるので、Pn0が角錐となることが保証されます。

 

 したがって、(2F-V-1)角錐を(V-F)回切頂すると、求める多面体が得られます。

   Pntm = (n+2m+1,2n+3m,n+m+1)

       = (V,V+F-2,F).

 

 c.面の数が頂点数より大きい場合(F>V)

 F>Vの多面体は、角錐に方化を行うことにより得られます。

 

 nをn角錐の最大価数、mを方化の回数とすると、

   m = F-V,

   n = V-m-1 = 2V-F-1

 とおいて、n角錐に対してm回方化を行えばよい。

 

 ここで、条件(3)の後半から、

   2V-F-4 ≧ 0.

 ∴ n = 2V-F-1 ≧ 3

 となるので、Pn0が角錐となることが保証されます。

 

 すなわち、(2V-F-1)角錐を(F-V)回方化すると、求める多面体が得られます。

   Pnkm = (n+m+1,2n+3m,n+2m+1)

       = (V,V+F-2,F) .//

 

 bの例として、頂点Vが7個、面Fが6枚の多面体をつくってみます。

   n = 2F-V-1 = 4, m = V-F = 1.

 したがって、4角錐を1回切頂すればよい。

 ただし、この多面体と同相である整凸多面体は存在しません。

 

 cの例として、頂点Vが6個、面Fが8枚の多面体をつくってみます。

   n = 2V-F-1 = 3, m = F-V = 2.

 したがって、3角錐を2回方化すればよい。

 3角錐を1回方化すると、双3角錐になります。

 したがって、得られた多面体は双3角錐を1回方化したものと同相です。

 ただし、この多面体と同相である整凸多面体は存在しません。

 

 

  3.補足:切頂系列と方化系列のイメージなど

 

 以上みてきたように、条件(1)~(3)をみたす頂点数Vと面の数Fをもつ凸多面体は必ず存在します。

 しかし、証明で出てきた方法で作れる多面体は、必ずしも整凸多面体にはならず、馴染みのないものが多いです。

 これは、条件(1)~(3)をみたすどんなに大きいVとFの組合せについても、存在を証明できなければならないというので、やむを得ないのでしょうね。

 

 n≧4のとき、切頂でできる系列は、切頂の対象とならないn価の頂点を除き、角を次々と切り取っていくため、どんどん丸っこくなります。

 ただ、n価の頂点はいつまでも残ります。

 

 一方、n≧4のとき、方化でできる系列は、方化の対象とならないn角形の面を除き、面の上により背の低い3角錐がどんどん重なって付いていきます。

 こちらも、平らな面の中央を盛り上げるので、次第に丸っこくなります。

 ただ、もともと一番広いn角形の面はいつまでも残ります。

 

 

多面体の連載など一覧:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12598605490.html