金星大気は高緯度ほど不安定 | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

・高緯度ほど不安定、金星大気の熱構造

 アストロアーツ3月4日付記事、元は京都産業大学とJAXA宇宙科学研究所です。

 http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/11127_venus

 

 概要>探査機「あかつき」などによる観測から、金星の高度40~85kmにおける気温分布が調べられた。金星では高緯度ほど大気が不安定な領域が広がっており、地球の大気構造とは反対の傾向にあるようだ。

 

 >金星は質量や大きさが地球とよく似ていて、地球の双子星と呼ばれることもある。しかし、金星の大気の主成分は二酸化炭素で、濃硫酸の雲が全球を覆っており、地表面の気温が摂氏460度、気圧が90気圧にも達するなど、環境面では金星と地球はまったく異なる惑星だ。さらに、金星では自転速度の60倍の速度で大気が回転する「スーパーローテーション」という現象が生じている。こうした謎の解明には、金星大気を観測して知見を蓄積することが必要不可欠である。

 

 金星は「地球の双子星」ということなので、地球と金星を比べてみましょう。

                 地球   金星   

 質量(1024kg)         6.0    4.9

 太陽からの平均距離(au)  1    0.72

 公転周期(日)       365.24  224.7

 平均密度(g/cm3)      5.5    5.2

 

 確かによく似ていることが分かります。

 違いの方は、引用文の「しかし」以降に記載されている通りで、こちらは大違いです。

 人間どころかいかなる生命の存続も成り立たない過酷な環境、一言でいうと「焦熱地獄」です。

 詳細については次の書評をご覧ください。

 『惑星気象学入門』1:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471782237.html

 

 ここで、アストロアーツ掲載の上の画像をご覧ください。

 「金星探査機「あかつき」の赤外線カメラ「IR2」がとらえた金星の夜面の擬似カラー画像」です。

 下層からの赤外放射を捉えているので、雲は赤外線を透過しないため暗く写りますが、この画像では明暗反転して雲を明るく表示しています。

 

 >これまでの観測で、金星大気の大規模な弓状模様や極域のS字構造など、特定の高度で見た雲の構造が見つかっている。しかし、水平方向の情報だけでは大気構造を理解することはできない。大気が高さ方向にどのような構造になっているかを知ることが、大気の変化を明らかにするための重要な情報となる。さらに、大気の変化や雲の発生が、地球と同様に地形の影響を受けているかどうかを明らかにするためには、雲の下の大気も調べる必要がある。 >京都産業大学の安藤紘基さんたちの研究チームは、金星探査機「あかつき」とヨーロッパ宇宙機関の金星探査機「ビーナスエクスプレス」の電波掩蔽観測データを利用して、高度40~85kmにおける全球的かつ統計的な気温の高度分布の取得に世界で初めて成功した。

 

 「あかつき」は、当時の宇宙科学研究所(ISAS、その後合併してJAXAとなる)が2010年5月に打ち上げた金星探査機ですが、2010年12月に金星軌道投入に失敗、その後2015年に再度軌道投入を試みて今度は成功しました。

 

 「ビーナスエクスプレス」は、欧州宇宙機関(ESA)が2005年11月に打ち上げた金星探査機。

 2006年5月に金星軌道投入。

 2014年5月に観測運用終了。

 

 掩蔽は「えんぺい」と読み、地球と天体Aの間に天体Bが入って、Aが隠されることを意味します。

 この場合はAが探査機、Bが金星です。

 

 >電波掩蔽観測とは、探査機が惑星の背後に隠れる時(または背後から現れる時)に探査機から地上のアンテナに向けて電波を射出し、探査機の軌道運動と惑星大気を通過する際の電波の屈折によって電波の受信周波数が変化する性質(ドップラーシフト)を利用して、惑星の気温の高度分布を測定するというものだ。これにより、雲の下の様子を調べることができる。

 

 ここで、アストロアーツ掲載の真ん中の画像をご覧ください。

 「電波掩蔽観測の概念図」です。

 

 >緯度と高度に対応する気温分布から、高度60kmより低い領域では温度は緯度とともに単調に下がっていることや、反対に高度60kmより上空では温度は緯度とともに上昇していること、「Cold collar」という局所的に冷たい領域が緯度65度付近に存在していることが明らかになった。これらの特徴は、過去の電波掩蔽観測や光学観測の結果と整合している。

 

 Collarは、カラーつまり襟(えり)ですね。

 冷たい領域が金星の緯度65度付近をぐるっと取り巻いている様子を表現しています。

 

 >次に大気構造をより詳しく調べるため、今回の観測結果から大気安定度を調べたところ、緯度70度よりも低緯度では大気安定度の低い領域が高度50~55kmに位置し、それより上層では高安定、下層では弱安定になっていることがわかった。これは過去の金星探査の結果と一致し、金星大気が長年にわたって構造を維持していることが示された。

 

 大気安定度が低いというのは、上昇気流や下降気流が起こりやすいということです。

 

 >一方、緯度70度よりも高緯度では、大気安定度の低い領域が高度40kmまで広がっていることがわかった。金星の高緯度領域では大気の不安定な領域が低緯度よりも広く存在していることを初めて示した研究となる。地球では、大気安定度の低い領域は赤道上空が最も広く、緯度が上がるにつれて大気安定度の低い領域は狭くなる。つまり、大気安定度という観点から見ると、金星と地球は真逆の傾向を持っていることになる。

 

 地球とは、大気安定度という点でも反対になっていると。

 

 >極域で大気安定度の低い領域が広がっているという結果は、そこで強い上昇気流や下降気流が発生していることを示唆している。こうした大気の運動は、水蒸気や硫酸蒸気などの雲の材料となる物質を速やかに下層から上空に運び、分厚い雲の生成や維持につながっている可能性がある。この考えは、金星の雲が極域で最も分厚いという観測結果とも一致する。

 

 金星大気の秘密を解くカギは、極域にありそうですね。

 

 ここで、アストロアーツ掲載の下の画像をご覧ください。

 「金星の大気安定度の緯度分布の概念図」です。

 横軸が緯度を表し、左端が赤道、右端が北極・南極です。

 縦軸は高度を表します。

 極域では赤道よりも大気の上下運動がより大きいことが分かります。

 

 >今回得られた気温や大気安定度の分布は全球的に均一なもので、従来の数値モデルに比べて信頼性が高く不定性が低い。今後、モデルの構築や改良、モデルから観測結果を解釈する際の良い指標として、今回の成果が大いに利用されると期待される。

 

 金星に限らず惑星の気象のメカニズムは専門的で素人には難解なのですが、今回の研究は分かりやすい図解となっています。

 私も、多少は金星の気象についての理解が深まったという気がします(^_^