ハッブル定数の異なる推計 | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

・予測よりも速い宇宙の膨張速度
アストロアーツ2016年6月6日付記事、元はハッブルサイト/ケック天文台/ジョン・ホプキンス大学です。
http://www.astroarts.co.jp/news/2016/06/06hubble/index-j.shtml

概要>遠方銀河の距離の正確な測定から、ハッブル定数の値が73.2と高精度で求められ、宇宙の膨張速度が従来の予測よりも速いことが示された。

宇宙は膨張を続けていますが、ハッブル定数とは、その宇宙の膨張率のこと。
定数とよぶのは、宇宙のどこで測っても一定であるからであって、時間的には変動します。誤解しやすいので、ご注意ください。

この概要は、実はあまり正確な要約にはなっていません。
ハッブル定数の推定方法は複数あって、別の方法で求められていた推計値とは異なる値が得られたということです。
本来、どの推定方法でも一致しなければいけないのですが、どの方法にも特有の誤差があって、ずれが生じているというのが現状のようです。

>ジョンズホプキンス大学のAdam Riessさんたちの研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)と米・ハワイのケック望遠鏡を用いた観測で、現在の宇宙の膨張率を測定した。

ハッブル宇宙望遠鏡は、1990年に打ち上げられた天文衛星で、地上559kmの円軌道を描いています。
ケック望遠鏡は、ハワイ島マウナケア山頂にいくつもある天文台群のひとつで、日本のすばる望遠鏡のお隣です。
ケック望遠鏡は2基あって、仲良く並んでおり、どちらも口径10mです。

>宇宙の膨張率は、ある銀河までの距離とその銀河の後退速度(私たちから遠ざかっていく速度)から知ることができる。銀河までの距離を測定するため、研究チームではケフェイド変光星とIa型超新星の両方が存在する銀河を探し出した。

計算式は、「膨張率=後退速度/距離」となります。

ケフェイド変光星とはCepheid variableの訳で、英語ではセファイドと読みます。
ケフェウス座δ(デルタ)星と同じタイプの脈動変光星のことです。

>ケフェイド変光星の変光周期は絶対等級と関係があり、周期から本来の明るさを知ることができる。また、Ia型超新星は遠方にあっても観測できるほど明るく、本来の明るさが全て一定とされている。どちらも真の明るさを理論的に知ることができるので、それと見かけの明るさとを比較することで、天体まで(=天体が属する銀河まで)の距離を求められる。

宇宙は広大なので、距離測定のためには適当な物差しが必要です。
ケフェイド変光星もIa型超新星もその目的に役立ち、標準光源(standard candle)とよばれます。
ケフェイドは比較的近く、Ia型超新星は最も遠くの距離測定に使われます。
ただし、Ia型超新星は遠方にあるので、ケフェイドによる距離測定を基に補正する必要があります。
これを天文学では「距離のはしご」といいます。

>研究チームは、両タイプの天体が存在する銀河までの距離を測定してデータを較正し、さらに遠方銀河に存在する約300個のIa型超新星までの距離を計測した。

以上が距離の求め方です。

>一方、銀河の後退速度は、銀河からの光の波長がどの程度引き伸ばされているかを測定して知ることができる。銀河の距離と後退速度から求められた、「ハッブル定数」として知られる宇宙の膨張率を表す値は、73.2 km/s/Mpcとなった。これは、1Mpc(メガパーセク:約326万光年)離れるごとに膨張速度が秒速73.2km大きくなるということを表している。

われわれ素人は、太陽系を超える距離は「光年」で測るものだと思っていますが、天文学者が用いる距離の単位は光年ではなく「パーセク」です。
1パーセクとは、1天文単位(地球太陽間の距離)の長さを1秒角と見込む距離のことです。

>今回求められた現在の宇宙のハッブル定数は、不確定性が2.4%しかない極めて正確な値である。しかし、ビッグバンの残光である宇宙背景放射の観測から予測されるものとは合致しない。NASAの人工衛星「WMAP」による観測から予測される値は今回の結果より5%小さく、ヨーロッパ宇宙機関の人工衛星「プランク」のデータによる予測は9%小さいのだ。

プランクのデータによる推計値は67.1km/s/Mpc、WMAPのデータによる推計値は71km/s/Mpcです。
宇宙の年齢が1億歳延びた?:
http://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/67241736.html
これまではプランクによる67.1という値が最も精確だと考えられてきたので、いきなり73.2だと言われても混乱するだけです。

>この違いは、宇宙を加速膨張させているダークエネルギーのふるまいや、ダークマターの未知の性質によって説明できる可能性がある。「今回の結果は、宇宙の95%を占めているダークエネルギーやダークマター、暗黒放射といったものの謎に迫る、重要な手がかりになるかもしれません」(Riessさん)。

推計方法の違いが値の違いに影響しているはずですが、この説明だけではどういう可能性があるのか私にはよく分かりません。
雑誌などにより詳しい解説が載るのを待ちたいと思います。