113番元素、ニホニウムに! | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

テレビや新聞で大きく報じられていますが、日本の科学界にとっての歴史的ニュースです。
ここではNHKオンラインから引いておきます。
(6月8日22時付のものと9日4時付のものがあって、基本的には同じですが異なる部分もあるので、後者を主に前者も適宜混ぜて、私のコメントも付け加えます。)
・113番元素の名前の案 ニホニウムに決定(6月9日4時48分)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160609/k10010550601000.html?utm_int=news-culture_contents_list-items_002
・113番元素の名前の案「ニホニウム」に 国際機関が発表(6月8日22時52分)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160608/k10010550401000.html?utm_int=news-culture_contents_list-items_004
いずれも動画付きです。

概要>日本の理化学研究所のグループが発見し、日本に初めて命名権が与えられた「113番元素」について、化学に関する国際機関は名前の案を日本の提案どおり、日本ということばを取り入れた「ニホニウム」に決め、日本時間の8日午後10時半、ホームページで発表しました。また、元素記号の案を「Nh」に決めたと併せて発表しました。

>物質の元になる元素のうち、九州大学の森田浩介教授を中心とする理化学研究所のグループが、12年前に埼玉県和光市にある大型の実験装置を使って人工的に作り出すことに成功した113番目の元素について、化学に関する国際機関、「国際純正・応用化学連合」は去年12月、正式に元素として認定し、命名権を日本に与えました。

森田浩介(こうすけ)さんは、1957年1月生まれなので、59歳。
実験核物理学者。
北九州市出身で、九州大学の院で博士後期課程まで終えています(その後理学博士取得)。
現在、九州大学教授で、理化学研究所のチームリーダー。

「埼玉県和光市にある大型の実験装置」とは、理研仁科(にしな)加速器研究センターのRIビームファクトリーのことです。
http://www.riken.jp/research/labs/rnc/
http://www.nishina.riken.jp/facility/RIBFabout.html
http://www.nishina.riken.jp/facility/RIBFfacility.html

「国際純正・応用化学連合」は、英語名International Union of Pure and Applied Chemistryで、略称IUPACです。
1919年に設置され、本部はスイスのチューリッヒに、事務局はアメリカノースカロライナ州リサーチ・トライアングル・パークにあります。
ホームページは次の通り(英文)。
http://iupac.org/
2016年6月9日現在、4元素の命名の記事(Naming Four New Elements)がトップに来ています。
http://iupac.org/elements.html

>これまで元素を発見した国は、欧米とロシア以外にはなく、日本が元素の命名権を与えられたのは今回が初めてで、アジアでも初めてのことになります。

「元素を発見した国」は化学・物理が発達した国ということになりますが、近年は不安定な超ウラン元素を人工的に合成する必要があるので、そのために必要な加速器をもつ国に限定されます。
ロシアというのは、もちろん旧ソ連の時代を含んでいます。

>これを受けて、理化学研究所のグループは名前と元素記号の案をことし3月、国際機関に提出し、国際機関がふさわしいものかどうか審査を行ってきました。
>その結果、国際機関は「113番元素」の名前の案を日本の提案どおり、日本ということばを取り入れた「ニホニウム」に決め、日本時間の8日午後10時半、ホームページで発表しました。また、併せて元素記号の案を「Nh」に決めたと発表しました。

「ニホニウム」の英語つづりは、nihoniumです。

>国際機関では、これから5か月間、一般から意見を募集したうえで、ことしの末か、来年のはじめごろ、名前と元素記号を正式に決定する見通しです。決定すれば、世界中の教科書などに掲載されている、すべての元素を一覧にした周期表に「ニホニウム」の名前が書き加えられることになります。

意見公募の手続きがあるということですが、引っくり返されることはないでしょうから、113番目の元素がニホニウムとなるのはほぼ間違いありません。

>・困難を極めた実験
>理化学研究所のグループは113番元素を作るために、原子番号30番の亜鉛と原子番号83番のビスマスという金属に着目しました。>それぞれ、原子核の中には陽子が30個と、83個含まれていて、亜鉛とビスマスがしっかりと合体すれば理論上、陽子が113個の113番元素ができることになります。
>しかし、原子核の大きさは1000億分の1ミリと極めて小さく、衝突させること自体、非常に難しい実験となりました。また、衝突させることができたとしても、原子核と原子核がしっかりと合体する確率は、100兆分の1しかないため、実験は困難を極めました。
>理化学研究所のグループが実験を開始したのは2003年9月でしたが、実験に成功し、113番元素が出来たという十分な確証が得られたのは2012年8月で、実験開始から9年の時間がかかりました。

この辺りの難しさについては、後で森田さんご本人の解説も引いておきます。

>・95番以降は人工的に作り出された
>物質の元になる元素は原子番号1番の水素から、94番のプルトニウムまでが自然界に存在していますが、95番以降は人工的に作り出されたもので、これまでに118番まで報告されています。

ちなみに、95番はアメリシウムです。
ただ、テクネチウム(Tc、原子番号43)、プロメチウム(Pm、同61)なども、放射性核種しか存在しないため、地球誕生から今日までにすべて崩壊しており、人工的に作り出されて発見されたので、「自然界に存在しない」といえると思います。

>理化学研究所が作り出した113番元素と、115番、117番、118番の合わせて4つの元素は去年12月、化学に関する国際機関、「国際純正・応用化学連合」によって、新たに元素として認められました。
>そして、国際機関は、それぞれの元素を発見した研究グループから寄せられた名前の案が元素の名前としてふさわしいものかどうか審査したうえで、日本時間の8日午後10時半、4つの元素の名前の案を一斉に発表しました。

この機会に他の3元素についても名称と元素記号を紹介すると、
115番は、モスコビウムmoscovium、Mc、
117番は、tennessine、Ts、
118番は、oganesson、Og
となっています。(後二者の和名は不明)

8日付>新しい元素に名前をつける際には、語尾にアルファベットで「ium」を付けることがルールとなっています。そして、慣習として、神話や、研究拠点がある地域名、著名な科学者、それに元素の性質などに由来することがふさわしいとされています。

IUPACのホームページによると、語尾は第1族~16族までは「ium」、17族(ハロゲン)は「ine」、18族(希ガス)は「on」とすることになっています。

>今回の「ニホニウム」という名前は元素が発見された国、「日本」、ローマ字つづりで「nihon」に「ium」をつけて「nihonium」となりました。

>・「原発事故で失われた自信と信頼を再び」
>化学に関する国際機関、「国際純正・応用化学連合」のホームページには113番元素の名前の案を「nihonium」としたことについて、その由来や、込められた思いについて説明を加えています。>この中では「nihon」ということばについて、日本語で日本の国の名前を意味することや、太陽が昇る様子から名付けられていることが紹介されています。
>また、「nihonium」に込められた思いとして、「2011年に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故によって失われていた、日本人の科学に対する自信と日本の科学への信頼とを、今回の新
しい元素への命名によって、再び取り戻すことができるよう期待している」と記しています。

原発事故への言及は、後でみる森田さんのコメントには含まれていません。

IUPACの発表文の該当部分を直訳しておきます。
>原子番号113の元素に対して、理研仁科加速器研究センター(日本)の発見者たちは、nihoniumという名称とNhという元素記号を提案した。Nihonとは、Japanを日本語で表現するときの二つの言い方のひとつであり、文字通りには「日出づる国」(the Land of Rising Sun)を意味する。この名称は、この元素が発見された国と直接結び付くために提案された。113番元素はアジア諸国で発見された最初の元素である。森田浩介教授に率いられたチームは、この提案を行うとともに、1908年に43番元素の発見に関連して行われた小川正孝による先駆的な研究に対する敬意を表明している。チームはまた、2011年の福島原発災害により被害を受け科学に対する信頼を喪失した人々が、科学に対する誇りと信頼を取り戻すことを期待している。

やっぱりNHKの方が分かりやすいかな(^_^
「小川正孝による先駆的な研究」については、また後で。

>・森田教授がコメント
>113番元素を発見した理化学研究所のグループのリーダーを務める、九州大学の森田浩介教授は8日午後10時半すぎ、コメントを発表しました。その全文は次のとおりです。

私たち研究グループ一同が国際純正・応用化学連合=IUPACに提案しておりました113番新元素の元素名nihoniumと元素記号NhがIUPAC内部での審査過程を通過し、一般の批評=public  reviewを受けるためにIUPACのウェブサイトに公開されました。public  reviewのあとにIUPACによる正式決定がなされます。
なお、私たちはIUPACによる公開と同時に日本化学会命名法専門委員会に日本名「ニホニウム」を提案いたしました。IUPACにより、元素名と元素記号が、このまま最終決定されれば、この日本名も正式に決定されることになります。
長い元素発見の歴史の中で、欧米以外の国で元素を発見したグループはありませんでした。今回の新元素の認定と命名は日本発、アジア初のことであります。
私たちは応援してくださった日本の皆さんのことを思い、新元素を「ニホニウム」と命名いたしました。IUPACによる最終決定がなされれば、元素名nihoniumと元素記号Nhが周期表の一席を占めることになります。
人類の知的財産として将来にわたり継承される周期表に、日本を中心とする研究グループが発見した元素とその名前が載ることは、研究グループとして大変光栄なことです。私たちは応援してくださったすべての皆さんに感謝いたしております。ありがとうございます。
基礎科学は長期的に見れば、発見当時は思いもつかないような多大な恩恵を人類にもたらした例が数多くありますが、日々の生活にすぐに直接的な恩恵を与えることはまれです。そのため、基礎科学の研究は国家の支援、すなわち国民の皆様の税金によって成り立っています。長期的視野に立って時間のかかる基礎科学の研究を支援してくださった研究所と関係府省、そして国民の皆様に心より感謝いたします。
周期表に日本発の元素を見出した人が少しでも誇らしい気持ちになり、科学に興味を抱いてくださるなら、科学的な思考を持つ人の数を増やすことにつながり、ひいては日本の科学技術の発展に寄与しうると考えるとき、私たちは、私たちの行ってきたことに大きな意義を見出すことができます。今回の新元素発見と命名を多くの皆様と共に祝福できましたなら、研究グループ一同これに勝る喜びはありません。


なお、NHKオンラインには森田さんの記者会見や馳文科大臣の談話も別途掲載されています。
・ニホニウム 森田教授が喜びを語る
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160609/k10010550711000.html?utm_int=news-culture_contents_list-items_002

また、今年の年明けにこのブログで次の記事を載せています。
113番元素の命名権獲得:http://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/69059097.html
ニホニウムという名称以外のことは、今回よりもずっと丁寧に解説していますので、こちらもぜひご覧ください。
特に、113番元素生成実験の詳細、「RIビームファクトリー」の解説、幻に終わった明治の「ニッポニウム」発見(これが「小川正孝による先駆的な研究」で、この歴史的事実によりニッポニウムという元素名は永久に使えなくなった)などは、一読の価値はあると思います。