重力波を初観測 | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

・アインシュタインの予測から100年、重力波を直接検出
アストロアーツ2月12日付記事、元はLIGO CaltechとNSFです。
http://www.astroarts.co.jp/news/2016/02/12gravitationalwave/index-j.shtml

今回のニュースはマスコミ各社が報道したので、いったんはアストロアーツ以外から引こうと思ったのですが、必要なデータはやはりアストロアーツがよくまとめているので、いつものように落ち着きました(^_^

概要>米国のレーザー干渉計型重力波検出器「LIGO」が世界で初めて、ブラックホール同士の合体から発生した重力波を検出した。アインシュタインが一般相対性理論を発表し重力波の存在を予測してから100年、ついにその時が訪れ、重力波天文学の新しい窓が開いた。

LIGOはライゴと読むようですね。
Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory(レーザー干渉計重力波観測所)の略です。

>質量を持つ物体が存在するとその周囲の時空はゆがみ、物体が運動することで時空のゆがみが光速で広がっていく。この「時空のゆがみの伝播=重力波」の存在はアインシュタインが1915年から1916年にかけて発表した一般相対性理論によって予測され、中性子星の連星の合体や超新星爆発、ブラックホールなどから発生すると考えられてきたが、これまで直接検出されたことはなかった。

観測は半世紀前から試みられていましたが、なぜ今まで観測できなかったのかというと、重力波があまりにも微弱なために観測機器の精度をそれを捉えられるほど高めるのに時間がかかったからからです。

>その予測からほぼ100年となる昨年9月14日、米・ワシントン州ハンフォードとルイジアナ州リビングストンに設置されているレーザー干渉計型重力波検出器「LIGO」によって、ついに重力波が世界で初めて検出された。
>検出された重力波は、約13億年前に太陽の29倍の質量と36倍の質量を持つブラックホール同士が合体して1つのブラックホールが作られた際、太陽3個分の質量がエネルギーに変換され放出されたものだ。重力波源の方向は特定できていないが、リビングストンではハンフォードに比べて7ミリ秒早く現象が記録されていることから、南半球がわの空域と思われる。

距離(何年前に生じた事象か)と合体した2つのブラックホールそれぞれの質量は特定されていますが、方向は特定できていません。
方向は、3か所で検知しないと特定できないのですね。
ただ、ブラックホールの質量は理論的なシミュレーションから推測できるのでしょうが、距離はどうやって分かるのでしょうか?
普通の光(電磁波)なら赤方偏移の程度で推計できますが、重力波でも赤方偏移が生じるのは同様なので、それで距離がわかるのかな。

>一般相対性理論によると、互いの周りを回るブラックホールのペアは重力波を放出してエネルギーを失いながら、数十億年かけて徐々に接近していく。そして最後の瞬間、ブラックホール同士は光速のほぼ半分もの速度で衝突し、質量の一部がエネルギーに変換され重力波となって放出される。それが、今回LIGOが検出したものだ。従来の装置をアップグレードして行われた、最初の観測で見つかったものである。

>1974年、Joseph Taylor Jr.とRussell Hulseが中性子星の連星系を発見し、8年後の1982年にTaylorとJoel M. Weisbergがその連星系の軌道がゆっくりと収縮していることを明らかにした。軌道が縮んだのはエネルギーが重力波として放出されているためであり、これは重力波の存在を間接的に証明するものである。TaylorとHulseは連星発見により1993年のノーベル物理学賞を受賞している。そして今回の検出は、重力波の存在を「直接的に示した」ものだ。

1982年に連星系の収縮発見で重力波存在の間接証明がなされ、今回、連星系の合体観測で重力波存在の直接証明がなされたわけです。
1982年のときの連星系では両方とも中性子星でした(そのうちの一方はパルサー)が、今回は両方ともブラックホールです。
一般相対論は重力を扱う理論であり、重力が強いほどその効果が大きくなります。
普通の恒星程度では、合体したとしても密度が低すぎて検知できるほどの大きさの重力波は出てきません。

>「重力波の検出は、新しい時代の始まりです。重力波天文学がやっと現実のものとなったのです」(米・ルイジアナ州立大学 Gabriela Gonzalézさん)。
>「アインシュタインに直接報告ができたら、最高でしょうね」(1980年代にLIGOを重力波検出器として最初に提案したチームの一員で、現・マサチューセッツ工科大学名誉教授 Rainer Weissさん)。
>「この発見によって人類は、新たな探求へ乗り出す時が来ました」(現・カリフォルニア工科大学名誉教授、1980年代Weissさんと同チームだったKip Thorneさん)。

Kip Thorneさんはこの分野で有名な人ですが、まだご存命だったのですね。


さて、天文ニュースとしては以上でよいのですが、LIGOの詳細とか日本の同様の施設とか物理学的な意義については十分ではないように感じるので、NHK2月12日付ニュースから補足します。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160212/k10010406281000.html

>日本の専門家も発表見守る
>重力波の観測を目指して日本が建設を進めている観測装置、「KAGRA」の研究プロジェクトで、観測データの分析を担当する大阪市立大学の神田展行教授は、研究室のメンバーとともに大阪・住吉区の大学の会議室に集まり、国際研究チームの発表をインターネット中継で見守りました。時折メモを取りながら耳を傾け、発表が終わるとメンバーから拍手が沸きました。

日本のKAGRAとは以下のようなもの(私なりのまとめです)。
・KAGRA 大型低温重力波望遠鏡の愛称
岐阜県飛騨市神岡町の地下の神岡鉱山跡に2012年4月に建設開始し、早ければ2015年度中にも試験運転に入る予定。
構造は、地下約200mの空間に長さ3kmのレーザー干渉計2本をL字型に直交させ、超新星爆発や中性子星の合体などの非常に激しい天体の動きで発生する重力波(時空のゆがみ)を捉える。
KAGRAでは、検出器にサファイアという光学素子を使用し、かつそれをマイナス253℃まで冷却することで、検出器の感度を制限していた熱雑音をさらに低減することを目指している。
名称のKAは神岡のKA、 GRAはGravity やGravitational wave といった重力をイメージする言葉。神様に奉納する踊りである「神楽」とのごろ合わせも少し意識している。
2012年1月にKAGRAという愛称が決まるまでは、LCGTという略称が使われていた。

>神田教授は、「論文を読み込んで検証する必要はあるが、発表を聞いたかぎりではものすごい快挙で驚いている。アインシュタインが存在を予言した『重力波』を世界で初めて捉えたこと自体すごいが、その重力波がブラックホールから出たとみられる点にもびっくりしている。光を発しないブラックホールは重力波を捉える以外、観測する方法はないとされてきたが、今回の成果はブラックホールの存在を裏付ける証拠を観測したことになる」と話していました。

これまでも相当数のブラックホールとされる天体が発見されていますが、それらはすべて降着円盤や宇宙ジェット、周囲を回るガス雲などの天体の運動といった間接証拠です。
ブラックホール自体から放射された電磁波などを観測した例はありません。
もちろんすべてを飲み込むブラックホールが観測可能な電磁波を放射することはないわけですが。
(ホーキング放射は天体規模のブラックホールでは小さすぎて、事実上観測不可能です。)

>そのうえで、「今回の発表で、日本の観測装置、『KAGRA』でも重力波を観測できるはずだと勇気づけられた。今後、日本を含む世界各地で観測体制を整え、今回の研究成果を検証していくことが、物理学や天文学の発展のために重要だ」と話していました。

>「天文学の新時代が幕を開けた」
>素粒子物理学を研究している東京大学数物連携宇宙研究機構の村山斉機構長は「大変興奮しています。天文学の新時代が幕を開けました」と述べてその成果を高く評価しました。
>村山教授は、出張先の首都ワシントンでNHKの取材にメールで応じ、「アインシュタインは時空が震えることを予言していましたが、それが確認されました。小さな『さざ波』をとらえた技術的に見ても、とんでもない離れわざです」と述べました。そのうえで、「これで、ブラックホールを重力波を使って『聞く』ことができるようになります。『KAGRA』という重力波の観測施設を作っている日本の仲間たちにとってもすばらしいニュースです。これから驚くべき発見が次々とあることを期待します」とコメントしています。

>LIGO重力波観測所とは
>「LIGO重力波観測所」はアメリカのカリフォルニア工科大学とマサチューセッツ工科大学が中心となって建設した観測施設で、実験には、世界15か国の1000人以上の科学者が参加しています。
>長さ4キロメートルの2本の長大なパイプをL字型に組み合わせ、そのパイプの中を真空に保っている施設で、アメリカの西部ワシントン州と南部ルイジアナ州の2か所に同じ施設が2つあります。2つの施設では、パイプの中でレーザー光線を照射していて、その光線が往復する時間に僅かな変化があると、それが重力波による変化である可能性が高いとされ、同じ変化を2か所の施設で同時に観測して互いに検証することで重力波かどうかを判定できるということです。
>LIGOでの重力波の観測は2002年から始まりましたが、2010年までの8年間一度も重力波を観測できず、いったん運用を終えています。その後、観測の能力を10倍に上げるための改修工事がおよそ5年かけて行われ、「アドバンストLIGO」より高度になったLIGOとして去年9月から再び観測を始めていました。
>重力波の観測施設はほかにもあり、ヨーロッパの研究機関がイタリアに建設し2007年から運用を始めた「VIRGO」のほか、日本の岐阜県飛騨市には「KAGRA」という施設があります。

>NASA「待ちに待った一歩」
>アメリカを中心とした国際研究チームが、アインシュタインが提唱した「重力波」を初めて直接観測したと発表したことについて、NASA=アメリカ航空宇宙局も11日プレスリリースを出し「宇宙物理に新たな分野を切りひらく待ちに待った第一歩だ」と述べています。
>NASAのプレスリリースは11日ホームページに掲載され、はじめに首都ワシントンで発表されたLIGO重力波観測所での観測結果を紹介し、「私たちの宇宙に関する知識のほとんどは、星々などが出す光の観測を通して形づくられてきた。重力波で研究できるということは、たとえるならば、新しい窓を通して宇宙を見ることができるということで、ほかの手法による観測をおおいに補ってくれるだろう」とコメントして観測結果を高く評価しました。
>そのうえで、NASAは、LIGOが今回重力波を通して直接観測したという2つのブラックホールが合体する現象について、「X線などを通して観測を試みている。複数の手法による観測ができれば、この現象をより深く理解できることにつながる」と述べていて、ヨーロッパ宇宙機関などと共同で探査に取り組んでいくとしています。

X線など電磁波で観測できればより確実ですが、方向が分かっていないので難しいかもしれませんね。


★ 外は大荒れの天気なので、家事が一段落した後はパソコンに向かっています。