銀河風と銀河合体 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

・銀河から吹き出す激しい風
―銀河風の構造に刻まれた銀河合体とスターバーストの歴史―
国立天文台昴望遠鏡の2月3日付発表です。
http://subarutelescope.org/Pressrelease/2016/02/03/j_index.html

概要>広島大学、国立天文台、台湾中央研究院、法政大学からなる研究チームは、すばる望遠鏡主焦点カメラSuprime-Cam(シュプリーム・カム)での観測によって、スターバースト銀河NGC 6240から吹き出す大量の電離ガスの詳細構造をとらえることに成功しました。この電離ガスは差し渡し30万光年にも及んでおり、スターバースト(銀河の中で起こる激しい星生成活動=爆発的星生成)によって生成された銀河風によって銀河から外に吹き飛ばされています。すばる望遠鏡の集光力と高解像度によって、近傍宇宙では最大規模の銀河風の複雑な構造が明らかになりました。

耳慣れない言葉が多いと感じる方もいらっしゃるでしょうが、以下ていねいな解説があります。

>スターバーストとは、銀河の中で起こる激しい星生成活動 (爆発的星生成) のことを言います。私たちの住む銀河系 (天の川銀河) の星生成率は、銀河系全体で1年間に太陽が一つ生まれる程度だと考えられていますが、スターバーストを起こしている銀河 (スターバースト銀河) では、この 10 倍以上の生成率で星が生まれています。中には星生成率が銀河系の 100 倍 ? 1000 倍に達する激しいスターバー
ストを起こしている銀河も存在します。

>スターバーストは、銀河の進化にとってきわめて重要な現象です。何らかのきっかけでスターバーストが起きると、銀河中の星間ガスが星生成に使われ、急速に減ってしまいます。また、スターバーストで大量に生成された大質量星からの強力な紫外線や、それらの星々が死ぬときの超新星爆発によって、銀河中のガスが銀河の外に吹き飛ばされてしまう現象 ?銀河風 (スーパーウィンド)? が生じると考えられています。銀河風は、銀河内のガスを非常に効率よく銀河外に運ぶので、銀河はより大量のガスを失い、星生成活動が急速に停止します。また、銀河内の金属を豊富に含むガスを銀河の周囲に撒き散らします。こうして、スターバーストとそれに続く銀河風は銀河進化と銀河外のガスの進化に大きな影響を与えると考えられています。

というわけで、スターバーストは銀河の一生の一時期に見られる現象であり、永続することはありません。

太陽からは太陽風が、星からは星風が吹きます。
同じように、銀河からは銀河風が吹くというのですが、それぞれのメカニズムが大事ですね(^_^

さて、スターバーストが起こるにはきっかけが必要です。

>大規模なスターバーストが起こる要因の一つは、銀河同士の衝突・合体です。ガスを豊富に含む渦巻銀河が合体すると、銀河内のガスは混じり合うことで最終的には合体銀河の中心部に落ちていきます。こうして中心部に大量のガスが集まり、そこで爆発的に星が生まれます。すなわち、スターバーストが起きるわけです。そして、スターバーストによって生成された大量の星間塵が、若い大質量星からの紫外
線を吸収して温められて、赤外線で明るく輝くのです。

星どうしの距離は星の直径と比べて非常に大きいため、星と星が衝突することはほとんどあり得ません。
これに対して、銀河どうしの距離は銀河の直径と比べてそれほど大きくないため、銀河どうしの衝突・合体はかなりの頻度で起こります。
われわれの銀河系も遠い将来お隣のアンドロメダ銀河と衝突・合体すると予測されています。
ただ、銀河どうしが衝突しても、その中の星どうしが衝突することはありません。
影響を受けるのは、主に銀河内の星間ガスです。

星間塵が赤外線で明るく輝くのは、熱放射(黒体放射)です。
△黒体放射って何のこと?:
http://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/68303163.html

>NGC 6240 は、へびつかい座の方向、約3億5千万光年かなたにあるスターバースト銀河で、その星生成率は銀河系の 25 倍 ? 80 倍程度であると推定されています。非常に特異なその形態より、二つの渦巻銀河が合体途上にある天体だと考えられています。銀河合体によって引き起こされたスターバーストによって、NGC 6240は赤外線で明るく輝いており、その総放射エネルギーは太陽の1兆倍近くにもなります。NGC 6240 は、銀河合体とスターバーストの関係を詳しく調べ、そうした現象が銀河進化に与える影響を解明するための格好の研究対象です。そのため、5億光年以内の近傍宇宙において最もよく研究されているスターバースト銀河の一つとなっています。

NGCは銀河カタログの一つ。
銀河の特定は、カタログ名と掲載順の番号で行います。

へびつかい座は夏の星座。
トレミーの48星座の一つであり、黄道上に位置していますが、黄道十二星座には含まれません。

NGC 6240の擬似カラー画像がすばるのサイトに載っています。
確かにふつうの渦巻銀河などと比べると、相当変わった形をしています。

>研究チームはこの重要な天体のスターバーストの歴史を解明するために、すばる望遠鏡主焦点カメラ Suprime-Cam を用いた観測を行いました。電離ガスから放たれる水素の光 (Hα 輝線) を選択的に通す特殊なフィルターを使って観測することで、銀河風の詳細な構造を明らかにしようとしたのです。

Hα 輝線とは、水素原子の線スペクトルのうち、量子数3の電子軌道から同2の電子軌道への遷移により放射されるもので、波長656.28nmであり、可視光の領域です。

次の文章はすばるサイトの図を見ながらお読みください。
>観測の結果、複雑な構造を持つ巨大な電離ガスの様子が NGC 6240 の中に浮かび上がってきました (図1、図2)。電離ガスの差渡しは 30 万光年にも及び、複雑なフィラメント (筋状) 構造やループ (環状) 構造も見られます(図3)。NGC6240 に広がった電離ガスがあることは知られていましたが、これほど淡いところまではっきりと内部構造が捉えられたのはこれが初めてです。特に、銀河の北西 (図
2の右上方向)と南東(図2の左下方向) には巨大な「破れた泡構造」があることが初めて発見されました。「これは銀河風が銀河円盤の垂直方向 (北西 ? 南東方向) にガスを吹き飛ばしたことを示しているのでしょう」と、研究チームリーダーの吉田道利さん (広島大学) は語ります。

惑星状星雲の構造を、数桁拡大したようなものですね。
まあ、惑星状星雲の中心にある白色矮星みたいに高密度のものは存在していないでしょうが。

>得られたデータを詳細に解析した結果、NGC 6240 は過去に少なくとも3回の激しいスターバーストを起こしており、各々のスターバーストによって発生した銀河風が、今回明らかになった複雑な電離ガス構造を形成したことが分かりました。最も古いスターバーストは今から約8千万年前に起こっています。NGC 6240 の銀河合体は約 10 億年前に始まったと考えられているため、今回の結果は、銀河合体がかなり進んだ段階で突然スターバーストが引き起こされたことを示しています。これらの結果は、今後、銀河合体を通じた銀河進化の研究に貴重な示唆を与えるものと期待されます。
>この研究成果は、アメリカ天文学会の天体物理学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載予定です

銀河合体が始まってすぐにスターバーストが始まるのではないとすれば、後者の引き金が何なのか、新たな疑問が湧いてきます。
研究のさらなる進展を期待します。