『謎解き・津波と波浪の物理』3 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

『謎解き・津波と波浪の物理』1:http://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/68805991.html
『謎解き・津波と波浪の物理』2:http://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/68808226.html
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第4章は、津波の仕組みの解説です。

津波は、本来は「ゆるやかな盛り上がり」です。
沖合では、大きな津波でもその波高はせいぜい1mか2mです。
一方、波長は100kmにもおよびます。
これは、東京から直線距離で茨城県水戸市、山梨県甲府市、静岡県沼津市までに相当する距離です。
このきわめてゆるやかな盛り上がりに、風で起きる高さ数m程度の波も重なっているので、たとえそこに船がいても津波には気づきません。

ところが、東日本大震災の津波はまったく異なるものでした。
岩手県釜石市の沖合50kmあたりでとらえられた波形をみると、通常の海水面から5mの高さになる波がその観測点を3分程度で通過していました。
この波のスピードは秒速110m、時速では400km、これから計算される波長は20kmあまりで、津波としてはかなり短いものです。
波形記録を詳しくみると、ふたつの津波が重なっているように見えます。
まず2mくらいの波高まで10分かけて高まる第1の津波がやってきます。
この高まった状態のときに、先に述べた波長が短い最大3mあまりの津波がやってきます。
これが先行していた3mの津波に重なったために、合計で5mの高さになり、東日本大震災の悲劇を生んだのです。

津波は、海底の地形が大規模に、しかも急激に変化したときに発生します。
海底が、たとえば差し渡し100kmくらいの範囲で、3分くらいの間に数m隆起します。
このような現象を引き起こす代表例は、「地震」です。
地震は、陸地や海底の地盤がずれる現象ですが、津波を引き起こすのは海で起こる地震です。

特に警戒が必要なのは、「海溝型地震」です。
海溝とは海底に走る深い溝で、東北地方の太平洋沖200kmほどのところには日本列島に沿うように「日本海溝」が走っています。
深いところで8000m。
2011年3月の巨大地震は、この近くで発生したのです。

津波の威力を表わす高さの数値をふたつ紹介しておきます。
「津波の高さ」とは、海岸線での最高水位のことです。
詳しくいうと、海岸線に押し寄せた津波の水位が津波がないときの平均的な水位(平常潮位)にくらべてどれくらい高いかを示す数値です。
この水位には、潮の満ち干を観測する「検潮所」の観測データを使います。
よく使われる測器は「検潮儀」で、海水を導き入れた井戸の水位を自動計測します。
海面の水位は、潮の満ち干と風が起こす波によりたえず変化しています。
潮位とはその水位から「風の波の分」を取り除いたもので、潮の満ち干のみによる水位を意味します。
津波の高さは、平常潮位をゼロメートルとして示します。
もうひとつ、「遡上高(そじょうこう)」とは、陸にはいあがった津波の最高到達地点のことです。
詳しくいうと、海から陸にはいあがった津波がどの高さまで達したかを平常潮位から測ったものです。
通常、津波のあとで浸水の痕跡などを調査し、たとえば海の漂流物が木の枝に引っかかっていたというような事例から求めます。

津波が起こるのは、海底の変形が急に起きるため、海面も変形するからです。
変形がゆっくりだと起こりません。
水深4000mの海底が100kmくらいの広がりで隆起する場合なら、8分程度よりじゅうぶんに短い時間で隆起すれば、津波が起きる可能性があります。
同じ広がりで水深1000mなら、8分が17分になります。
地震を起こす海底の変形は、これくらいの広がりであれば数分で終わるので、海底の変形がほぼそのまま津波が発生したときの海面の形になります。
これは水が脇に逃げるだけの時間の余裕がないためです。

津波の伝わる速さについては、次のことがいえます。
・ 津波の伝わる速さは、水深が深いほど速い
・ 津波の伝わる速さは、重力が強いほど速い
もっとも二番目のほうは、地球上ではどこでも重力は同じですから、津波の速さの違いには影響しません。

この後、津波が深い海ほど速く進む理由が図解されているのですが、よく理解できなかったため省略します(T_T

数式で書くと、津波の速さは次のようになります。
  津波の速さ = √(重力加速度×水深)  重力加速度 = 9.8m/s2
  水深          速度
  4000m 秒速約200m 時速720km → ジェット機並みのスピード
  2000m          500km
  1000m          350km
  100m           100km → 高速道路を走る車のスピード

津波は「長波」なので、水深が浅くなるとスピードが落ちます。
岸に近づいて水深が浅くなると、先端にくらべて後ろから来ている部分のほうが水深の深いところを進んでいるのでスピードが速いため、波は後ろから前に押しつぶされるようになり、波長が短くなります。
また、岸に近づくと、スピードがより遅くなりますが、1分間に通る山の数は同じなので、波のエネルギーが前後の狭い幅に圧縮され、波高が高くなります。
水深が1000mから500mになると、波の高さは1.2倍に、
     〃   100m       〃  1.8倍に、
     〃    50m       〃  2.1倍になります。

これまで津波の話をしてきましたが、風波も沖合では深水波ですが、岸に近づいて水深が浅くなると、長波になります。
沖から海岸に波が近づくと、波高が高くなり、スピードは遅くなり、波長は短くなるのです。
岸に近づく波は正面からやってきます。
その理由は、岸に近づくと、水深が浅いために長波の性質をもって、岸から遠い深いところほど波が速く進むためです。
どの方向からやって来た波であっても、岸に着くころには海岸に平行な波となって正面から押し寄せるのです。

この後、津波に関連して川を遡る「ソリトン分裂」という興味深い現象が紹介されていますが、メカニズムがよく理解できないため省略します。


本書は、(海の)波について初歩から学ぶのに最適です。
ご興味のある方に広くお勧めできます。
ひとつだけ注文をつけておきます。
巻末に左開き横書きのページを数ページ設けて、本文中で定性的に述べたことを数式でまとめてあれば、特に理系読者にとっては学習の発展性が出ると思います。
せっかくのブルーバックスですからそれくらいあってもいいと思いますし、そのために100円程度高くなっても仕方ないでしょう。