『謎解き・津波と波浪の物理』2 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

『謎解き・津波と波浪の物理』1:http://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/68805991.html
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第3章では、風が起こす波、つまり風波のメカニズムについて丁寧に解説しています。

水面の波について大事なのは、 「波の動き」と「波の下の水の動き」を区別することです。
波の動きは水面の形の変化であり、水という媒質そのものの移動ではありません。
ここでは、波が伝わっていくにつれて波の下の水がどのように動くかを説明します。

波が左から右に進んでいくとします。
右から順に、最初の山を1、谷を5、次の山を9とし、山と谷の中間を3と7とします。
下の図解では1~9は波の位置を表わしていますが、別の見方では同じ場所の時間変化を表わしていると解釈することもできます。
この場合には、1~9は時間的順序を意味します。
まず、波の下の水(の塊)に働く力を考えます。
山の直下(下図の1と9)では水は真下に引っ張られますが、水平方向に働く力はありません。
山と谷の間では、谷方向に水平に働く力が存在し、その大きさは山と谷のちょうど中間(図の3と7)で最大になります。
谷の直下(図の5)では両側から押されるため、真上に向う力が働きます。
これを矢印を使って図解しますが、斜めの矢印は書きづらいので、水平方向と垂直方向に分けて記載します。
・印は、その方向の力がゼロであることを意味します。
また、たとえば→→は右向きの大きな力、→は同じく小さな力を意味しますが、定量的にちょうど2倍になっているわけではありません。
  力(加速度)   (波の進行方向は左から右へ →)
     山          谷        山
     9(1) 8  7  6  5  4  3  2  1
水平方向  ・  → →→ →  ・   ← ←← ←  ・
垂直方向 ↓↓  ↓  ・  ↑  ↑↑  ↑  ・  ↓ ↓↓
                        
さて、上でみたのは水(の塊)に働く力であって、水がその通りに動くわけではありません。
力は物体の動き方を変えるので、上の矢印はそのまま加速度となります。
一方、速度は加速度の累積なので、たとえば5での水平方向左向きの速度は2、3,4での左向き加速度の累積なのでもっとも大きくなります。
  速度       (波の進行方向は左から右へ →)
     山           谷           山
     9(1) 8  7   6   5  4   3  2  1
水平方向 →→ →  ・  ←  ←← ←  ・  → →→
垂直方向  ・  ↓  ↓↓  ↓  ・  ↑  ↑↑ ↑  ・
                         
実際の速度は水平方向の速度と垂直方向の速度の合成なので、1では右向き、2では右上向き、3では上向き、4では左上向き、5では左向き、6では左下向き、7では下向き、8では右下向きとなります。
一箇所の水の動きとして考えると、波の下で水は円運動を行っており、波の進行方向を右とすると、円運動は時計回りとなっています。

海底を感じない波を深水波といいます。
深水波では、波の進行とともに、水は深さにかかわらず円を描きます。
ただし、水深が深くなるとともに、円運動の直径は小さくなります。
波長の半分の水深となれば、円運動の直径は水面での動きの4%となり、波長と同じ長さだけ深くなれば直径は同じく0.02%になります。

厳密には、水深が波長の半分より深ければ「深水波」、波長の1/25より浅ければ「長波」といい、両者の中間を「浅水波」といいます。
深水波とは、水深の深い場所で水面を伝わる波という意味です。
長波とは、水深に比べて波長がきわめて長い波という意味です。
現実の海では、典型的な長波は津波です。
海の平均水深は4kmくらいなので、長波の波長はその25倍である100km以上あります。
津波の波長は数百kmにおよぶこともあるので、海のほとんどは津波にとっては浅い海です。
海底が浅いと、水の動きが海底にぶつかってしまい、水は円運動できません。
これが 「海底を感じる波」という意味です。
長波では、水は上から下まで水平の往復運動をしています。
一方、深いところにある海底は波にとってはないのと同じです。
こちらは「海底を感じない波」であり、深水波と呼ばれるものです。

「水深が深くて海底を感じていない」深水波では、水は円運動していました。
一方、「水深が浅くて海底を非常に強く感じている」長波では、水は上から下まで水平の往復運動でした。
となると、その中間の浅水波は、水の動きも円運動と水平な往復運動の中間、つまり上下につぶれた楕円形になります。
物理学では、まず浅水波の数式をつくって、次にその両極端の場合として深水波と長波の数式を導きます。

表面張力について説明します。
水の分子はH2Oという化学式で表わされるとおり、水素原子2個と酸素原子1個からできています。
水の分子は全体としては電気的に中性ですが、原子たちをつなぎ合せている価電子の存在確率分布は酸素原子のほうに偏っており、このため酸素原子の部分は負、水素原子の部分は正の電荷を帯びています。
そうなると、ひとつの水分子の正の電荷を帯びた水素原子の部分が隣の水分子の負の電荷を帯びた酸素原子の部分と引き合うことになります。
これを水素結合といいます。
水素結合により隣り合った水分子どうしの間に引力が働くので、水は低温のとき固体(氷)になり常温のとき液体になるのです。
平らだった水面に凹凸ができると、そのぶんだけ水面が引き伸ばされるわけですから、水面の水分子たちは引き合って元に戻そうとします。
その表面張力が復元力となって波ができます。
これが表面張力波です。

  深水波の波長と進む速さ
   波長   速度   
  300m  21.6 m/s
  200m  17.7m/s
  100m  12.5m/s
   50m   8.8m/s
   30m   6.8m/s

重力を復元力とするふつうの波は、波長が長いほど速く伝わります。
表面張力波はその逆で、波長が短いほど速いのです。
だから、水面を伝わる波で一番進む速度が遅いのは、二つの性質の境目に当たる波長1.7cmのところで、そのときの速さは秒速23cmです。
秒速23cmより遅い波はあり得ないので、ほとんど止まりそうな波というものは存在しません。

波長によって波の伝わる速さが違うとき、この波は「分散性」をもっているといいます。
深水波は分散性の波で、波長が長いほど伝わるスピードが速いのです。
表面張力波も分散性の波ですが、逆に波長が短いほど速いという性質があります。
一方、津波に代表される長波には分散性がなく、波長が違っても伝わる速さは同じです。
また、音波も分散性をもちません。
仮に音波が分散性をもっていたら、楽器の音色もおかしくなってしまいます。
波の分散性は、先にみた独立性とは異なる性質ですが、独立性がないと分散性は意味をもちません。

波長が100mの波の時速は45kmです。
  12.5m/s × 60s/m × 60m/h = 45km/h
海岸から1000km離れた沖合に波が生まれたとすると、
  1000km / (45km/h) ≒ 22.2h
1日弱でそのうねりが海岸にやって来るという計算になります。
しかし、これは間違いで、実際はその2倍、つまり2日弱かかります。
不思議ですね!
その理由を説明します。

波が群れとなって伝わるときの速度を、「群速度」といいます。
うねりがやってくる時間が計算の2倍かかる理由は、うねりがやって来るのは群速度だからです。
これに対して、ひとつひとつの波が伝わる速度を「位相速度」といいます。
波を構成する山や谷の位置を位相といい、位相速度とはその動く速度という意味です。
深水波の場合、群速度は位相速度の半分です。
このため、先のような現象が生じるのです。

なぜ群速度を考えなければいけないかというと、波長100mの波といっても、実際には波長99mの波や101mの波も重なっています。
そうなると、音波の場合のうなりのように、波長100mの波の振幅がずっと大きな範囲で緩やかに変動します。
振幅がゼロのところから次のゼロのところまでが、ひとつの群れです。
群れは全体として群速度で進みますが、その群れの中を個々の波が位相速度で最後尾から先頭まで進んでいきます。
群れの最後尾で個々の波が生まれたときの振幅は小さく、次第に大きく成長していきます。
しかし、途中からまた振幅が縮小していき、先頭までたどり着いたときには消滅します。
このため、波が群れから抜け出すことはないのです。

なお、群速度は「波のエネルギーが伝わる速さ」でもあります。
(k:本書の範囲を外れますが、光(電磁波)でも群速度と位相速度の違いは重要です。
相対論がすべての速度の上限とする光速度30万km/sとは群速度のことであり、位相速度はそれより速くなり得ますが、エネルギーも情報も位相速度で伝わることはできないため、相対論に問題はありません。)

波は砕けて一生を終えます。
その瞬間を、「砕波(さいは)」といいます。
砕波とは、水が水面から離れてしまう現象です。
砕波を説明するためには、微小振幅の仮定を外して、「有限振幅」の波を考える必要があります。
有限振幅の波とは、無視できない大きさの振幅をもつ波という意味です。
微小振幅の仮定のもとでは、水の動きは波の移動にともなって円を描くので、水は移動せずにくるくる回るだけで、あくまでその場にとどまっています。
ところが、波の振幅が大きくなると、円運動が少し崩れて、波の進行方向と同じ向きに水が動くときのほうが、反対向きに動くときよりも速くなります。
そのため、1回転したときにもとの位置に戻らず少し波の進行方向に移動します。
波が水を運ぶようになるのです。

海岸に近いところでは波が水を海岸の方向に運ぶのであれば、海水はどんどん海岸に押し寄せる一方のはずですが、実際にはそうなっていません。
それは、離岸流(りがんりゅう)が存在するからです。

「離岸流」とは、岸から離れて沖に向かう流れのことです。
おおむね10~30mの幅で岸から数十~数百mくらい沖まで流れていきます。
流速は秒速2mくらいになることもあります。
海水浴などで泳いでいるときに離岸流に巻き込まれたら、流れに逆らって岸のほうに泳いでも流されるので、まず岸に平行に泳いで離岸流から抜け出さなくてはなりません。

沖合では谷から山までの高さ、つまり波高が波長の1/7を越える波は砕けます。
よくある波長30mくらいの波であれば、波高は4mほどにしかなれません。

砕波、つまり波の砕け方にもいく通りか種類があります。
「崩れ波」とは、沖合で、横一列になって進んでいる波の山が風に吹かれてとがってきて、波頭が白く泡立つように崩れる砕け方です。
「巻き波」とは、もう少し海岸に近いところで、海底が急に浅くなって水の進行が急に遅くなり、波頭の水が勢いよく前方に投げ出される砕け方です。
サーフィンの達人が乗る巨大な波の砕け方がこれです。
「砕け寄せ波」とは、砂浜に乗り上げてきた波がぐずぐずと崩れるタイプです。
波が斜面を駆け上がっているうちに、波ではなくなってしまう感じです。

天気予報の波の高さは何を意味するのでしょうか。
海の表面には複雑な形の波がたくさんできていて、いろいろな波高の波が来ます。
この波の高さをある一定の時間にわたって測定し、記録した数値を高い順に並べます。
このうち、高いほうから1/3を選んで平均した波高を「有義波高(ゆうぎはこう)」といいます。
この有義波高をもつ仮想的な波が「有義波」です。

波の高さは、統計学でいう「レイリー分布」になっています。
一定の時間、波の高さ別にその数をかぞえると、もっとも数の多いピークを境にして、それより低い側では急に少なくなりますが、高い側では緩やかに少なくなります。
つまりピークよりうんと高い波も少しはやって来るということです。
1000回に1回は、有義波高の1.85倍くらいの波がやってくる計算になります。
かりに15秒に1回の波が来るとすれば、1分間で4回、1時間では240回の波がやってきます。
4時間くらいで、1000回の波が到達する計算です。
すなわち、天気予報で「波の高さは2m」といっていれば、数時間に1回くらいは4m近い高波が来るのです。

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