ジョンソン立体の解説1 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

目次
 0.はじめに―正多角形からなるいろいろな立体
 1.ジョンソン立体とは?
 2.記号の説明
 3.第1グループ―角錐、台塔、丸塔からできるジョンソン立体
 4.第2グループ―角柱、正多面体、半正多面体からできるジョンソン立体
 5.第3グループ―他の多面体とは無関係のジョンソン立体
 6.おわりに


 0.はじめに―正多角形からなるいろいろな立体
多面体シリーズの第3弾として、ジョンソン立体をご紹介します。

多面体の連載など一覧:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12598605490.html


実は、多面体シリーズの連載を始めたのはこれが目的でした。
今回の記事は数学(立体幾何学)の成果の紹介だけで、証明なし、厳密な議論は一切行いません。
数学というより、立体の分類学、博物学というレベルです。

立体のうち面が正多角形だけからなりかつすべての頂点が凸となっているものを、「整凸多面体」(せいとつためんたい、regular-faced convex polyhedron)といいます。
(regularは「正」、regular-facedは「整」なのですね。)
これまで取り上げてきた正多面体、半正多面体、正角柱、反正角柱はいずれも整凸多面体です。
これらはしかも規則性のある形となっていますが、整凸多面体にはそれら以外のもっと変わった形のものもあります。
それがジョンソン立体です。
ジョンソン立体は、それぞれの規則性をもつ他の多面体をすべて取り除いた後の、言ってみれば“残り物”であって、だからこそ“福”ならぬ面白い形もいっぱいあるのです(^_^

整凸多面体の対称性(高い順)
  正多面体 > 準正多面体 > (それ以外の)半正多面体
            > 正角柱・反正角柱 ≧ ジョンソン立体
(注)1.それぞれの中でも対称性はさまざまなので、厳密なものではなく、イメージ程度とお考えください。
  2.ジョンソン立体の対称性は個々に異なりますが、高くて正角柱と同程度、大部分はそれよりも低いです。

ただし、ジョンソン立体の形を見て楽しむためには、正多面体、半正多面体などの形に十分馴染んでいることが必要です。


 1.ジョンソン立体とは?
正多面体、半正多面体、正角柱、反正角柱以外の整凸多面体を、「ジョンソン立体」(Johnson solid)または「ザルガラー多面体」(Zalgaller polyhedron)といいます。
今回取り上げるのは、この立体たちです。
ジョンソン立体は全部で92種類あります。

ジョンソン立体は、規則性の高い正多面体や半正多面体などとは異なり、各面の形が異なるのはもちろんのこと、頂点周りの形状も頂点ごとに異なります。
また、変わった形が多くて、名称を聞いても(読んでも)形が思い浮かばないものが多く、しかもその数は92種類とたくさんあります。
このため、名称に加えて J1~J92という番号が付けられており、これはどの研究者も共通に使用しています(番号は同じですが、J以外のアルファベットを使う研究者もいます。)。

百聞は一見に如かずということで、とりあえずその姿を紹介しているサイトをいくつかご覧いただきましょう。

c.http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A3%E4%B8%89%E8%A7%92%E5%8F%B0%E5%A1%94%E6%9F%B1
Wiki(日本語)ですが、(正多面体、半正多面体と違って)こちらは勝手に動き回らないのがよいです。
なお、以下で使うジョンソン立体の名称は基本的にはwikiと同じです。
d.http://mathworld.wolfram.com/JohnsonSolid.html
WolframMathWorld(英文)ですが、(正多面体、半正多面体と違って)こちらは大きいのがよいです。

 

(次の3つはリンクが切れています。ゴメンナサイm(_ _)m
a.http://www.uwgb.edu/dutchs/symmetry/johnsonp.htm
ウィスコンシン大学のスティーブン・ダッチ教授のサイト(英文)。
最初の解説は後で訳すので、とりあえず無視してください。
私はこの色付けが一番好きですが、番号が付いていないのが玉にキズです(順序はほぼ同じ)。
b.http://maths.ac-noumea.nc/polyhedr/p_Johnson_.htm
このサイト(英文)は、正3角形が赤、正方形が青、正5角形が緑、正6角形が水色、正8角形がオレンジ、正10角形が灰色と、面の形により色付けを決めているのが特徴。
ただ、暗いのが難点。もっと光を(ゲーテ)(^_^e.http://flashs.goraikou.com/gallery/polyhedron3d/polyhedronFrame.html
多面体ギャラリー(日本語)。
左側に正多面体、準正多面体(このブログでいう半正多面体のこと)、正多角柱、正多角反柱、ジョンソン立体の順に並んでいるので、見たい立体をクリックします。
(邪魔な広告が出ている場合には、その右上の小さな×をクリックして消してください。)
マウスで好きなように向きを変えられる(回転させられる)ので、自分で模型を作らなくても気が済むまでさまざまな方向から眺めることができます。
ジョンソン立体は、これまで見てきた正多面体などとは違って頂点ごとに形状が異なるため、一方向だけから眺めたのでは隠れている部分がどうなっているのかが分かりません。
そのため、このサイトは重要です。)

ジョンソン立体の研究史は、wikiによれば次のとおり。
「1966年、アメリカの数学者ノーマン・ジョンソン(Norman Johnson)が全92種を記した一覧表を発表し、それぞれに番号と名前を与えたが、これで全てだとの証明はされなかった。
3年後の1969年、ヴィクター・アブラモヴィッチ・ザルガラー(Victor Abramovich Zalgallar)がコンピュータを駆使して、この一覧表が完全であることを証明した。」

以下の解説はすべて、ご覧いただいたジョンソン立体の姿をより深く理解して楽しんでいただくためのものであり、文章だけ読んでも意味はありません。
上でご紹介したサイトの一つあるいは複数でジョンソン立体の実際の姿を横に見ながらお読みください。

92種類の立体は、大きく3つのグループに分類されます。
・J1~J48(48種類) : 角錐、台塔(だいとう)、丸塔(まるとう)、それら同士あるいはそれらと角柱、反角柱を組み合わせたもの。
・J49~J83(35種類) : 角柱、正多面体、半正多面体の面に(から)角錐あるいは台塔を取り付けたり取り除いたり回転させたりしたもの。
・J84~J92(9種類) : 他の多面体とは無関係のもの。ただし、J87のみJ86に角錐を取り付けたもの。
なお、第1グループのJ44~J48の5種類はキラル、つまり左右の別がある(鏡に映したものが重ならない)ので、それらの左右を区別すると、97種類になります。

92種類のうち、単位立体(2つ以上の整凸多面体に分解できないもの)は、
・J1~J6(第1グループの角錐、台塔、丸塔計6種類)、
・J63、J80、J83(第2グループの3側錐欠損20面体、双側台塔欠損斜方20・12面体、3側台塔欠損斜方20・12面体の3種類)
・J84~J86、J88~J92(第3グループの孤独な立体8種類)
の計17種類です。
また、ジョンソン立体を構成する単位立体は、これらに加えて、
・正4面体、立方体、正12面体(正多面体3種類)
・切頂4面体、切頂立方体、切頂12面体(半正多面体3種類)
・正3角柱、正5角柱、正6角柱、正8角柱、正10角柱(正角柱5種類)
・正4角反柱、、正5角反柱、正6角反柱、正8角反柱、正10角反柱(反正角柱5種類)
の計16種類
合計33種類です。


 2.記号の種類
以下ではジョンソン立体をすべて文章で解説しますが、その際にスティーブン・ダッチさんの記号を部分的に使うので、その解説の和訳と私なりの補足説明を載せておきます。

   多面体の各部の名称
名称        記号          名称                   
角柱(Prism)    Pn  正n角柱 : 天井と底面の2つの正n角形をn個の正方形の側面
                でつないだもの(n≧3)
反角柱(Antiprism) Sn  正n角反柱 : 天井と底面の2つの正n角形を2n個の正3角形
                の側面でつないだもの(n≧3)
角錐(Pyramid)   Yn 底面の正n角形の各辺に付けたn個の正3角形を1つの頂点に
                集めたもの(n=3,4,5)
        Y3は正4面体、Y4は正8面体の半分、Y5は正20面体の正5角形のふた
台塔(Cupola)    Qn  天井がn角形、底面が2n角形で、側面に正方形と正3角形が
                交互に連なったもの(n=3,4,5)
        Q3は立方8面体の半分、Q4は斜方立方8面体の正8角形のふた、Q5は
        斜方20・12面体の正10角形のふた。
丸塔(Rotunda)   Rn 正3角形と正5角形からなる20・12面体の一部(n=2,3,5)
         R5は20・12面体の半分、R2とR3は後の解説参照
三日月(Lune)    L 正方形1つとそれを両側から挟む正3角形2つの計3面から
                なる単位
球形屋根(Corona)  U 正n角形の各辺と頂点に正3角形を付けたもの
除去した部分    - 多面体から除去した部分はその記号の前に負号を付けて表示
                される

記号は各名称の頭文字あるいはそれ以外の部分からとっているものが多いです。
・角柱はPrismプリズムなので記号P、角錐はPyramidピラミッドなので記号Y、この2つは分かりやすいですね。
(ちなみに、多面体とは無関係ですが、円柱はCylinderシリンダー、円錐はConeコーンです。後者はソフトクリームの食べられる容器や道路上の赤いコーンでお馴染みですね。)
・反角柱の記号Sの由来はよく分かりません。Aを使う方が一般的ですが、本稿ではダッチさんに敬意を表してSを使います。(本当は混乱を避けるためだけど。)
・台塔の英名Cupolaキューポラは丸天井、ドームの意。
その記号Qは音をとったものでしょう。
昔町工場で見られたキューポラは、円筒形で直立した銑鉄の溶解炉。
埼玉県の川口にその工場が集まっていて、『キューポラのある町』という映画も作られました。吉永小百合主演ですが、1962年なので、さすがに私もリアルタイムでは見ていません。
・P,Y,S,Qの後に付いている数字は回転対称性を表わし、たとえばP3であれば1/3(=120°)回転すれば元の形に重なることを意味します。
・丸塔の英名Rotundaロタンダは丸屋根のある円形建築物、円形大広間の意。
ただ、R5は独立したジョンソン立体ですが、R2とR3はそれぞれJ91とJ92の一部としてのみ現れます。
したがって、Rnは独立した立体であるPn~Qnとは性格が少し違いますが、nが回転対称性を表わす点は同じで、1/n回転すると元の形に重なります。
・球形屋根の英名Coronaコロナはもともとは冠の意。
比喩的な用法が多く、たとえば植物学では花冠(花の花びらの部分)を意味し、また建築でも使います。
一番有名なのは天文学における太陽の周りのコロナですね。

残念ながら2020年からはウイルスとそれによる感染症の名称になってしまいましたが。(2021/1/1追加)
私は、コロナを球形屋根と訳すのはその形から見て適確ではなく(というより意味不明)、「冠」の方が分かりやすく望ましいと思いますが、混乱を避けるため以下の解説では球形屋根のままにしてあります。
球形屋根の記号Uは実際の形からとっているのだと思います(J86以降の解説参照)。
球形屋根には、V2(正方形2枚)、U2(正方形3枚)、U3(正6角形1枚、正方形3枚)の3種類があります。

 プラトン多面体とアルキメデス多面体の記号
名称        記号    備考        .
正12面体      D5   Dodecahedronから
正20面体      I5    Icosahedronから
斜方20・12面体   E5   
切頂多面体      Tn   Truncatedから
 ―正4面体     T3
 ―立方体      T4
 ―正12面体    T5

 操作の種類と用語
用語          定義                     記号           
Augmented   立体のある面に台塔あるいは角錐を付ける  付加される部分に対応して
                               Qn,Yn
Elongated    立体に角柱を挿入したり一端に付け加え   付加される角柱に対応して
          たりして延長する             Pn
Gyroelongated 立体に反角柱を挿入したり一端に付け加え  付加される反角柱に対応して
          たりして延長する             Sn
Gyrate      通常の操作に比べてねじれた部分     ねじれた部分に対応する記号
                               の前に g
Diminished   立体から取り除かれた部分         除去される部分の記号の前に
                               負号 -
Para-      立体の正反対の側の2面に対して、あるい  変化する部分の記号の前に
        はその上にある部分に対して行われる操作    p
Meta-      立体の正反対にはない2面に対して、あるい 変化する部分の記号の前に
          はその上にある部分に対して行われる操作   m
(以下では、左端の英語の用語はあまり使いません。英名を理解するための参考にしてください。)

これらの記号の実際の使い方は、この後で出てきます。
スティーブン・ダッチさんの記号は、各立体の名前に忠実に、元の立体にどういう操作を行ったかを示しています。
これに対して、私は以下では単位立体の組合せとして表記しています。
それでは、J1からJ92まで順に解説していきます。

------------------ 続 く ------------------

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