ショートショート×トールトール・ラバー【26】 | 虹色金魚熱中症

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虹色金魚の管理人カラムが詩とお話をおいています。

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好みの問題です
 

ショートショート×トールトール・ラバー【26
 

 

 渡り廊下をゆったりと歩く、最近では見慣れた後姿にそっと呼びかけた。小声にも関わらず、一番右端の少女が振り返る。長身の赤根井さんは軽く手を上げた。
「よ」

 隣に並ぶ佐伯さんも挨拶代わりに軽く微笑んでいた。
「写真、問題ないみたい」

 問いかけるまでもなく写真部の佐伯さんは目を細めて答えた。卒業写真の担当分を彼女経由で学年主任に渡してもらったのだ。見た目、柔道部や空手部の顧問でもおかしくない鬼瓦のような容貌の谷川先生は写真部の顧問である。
「ごめんね。ありが、と……う」

 言葉尻が急速にしぼんだ。赤根井さん、佐伯さんの傍で同じように私を振り返った華奢な少女は小波さんだった。色白で小動物を思わせる彼女のことは友達でもないのによく知っている。
 

 (そうだ。赤根井さんも佐伯さんも小波さんと同じクラス)
 

 それどころか仲良し三人組だ。固まった私に赤根井さんが首をかしげた。当人である小波さんも同じように首をかしげる。
 何か言わなくてはと口を開け、そして閉ざした。何を言えばいいのかわからない。この上ない挙動不審な態度で視線をうろうろさせていると、小波さんの小さな口から 「ああ」 と驚きとも納得とも思えるひとことが漏れ出た。
「優貴も友達?」

 赤根井さんが言うと、困ったように小波さんは唇を上げた。
「あの時は……あの、本当に」

 ようやく謝罪の言葉を繰り出せた私はペコペコとお辞儀を繰り返す。そんな私に小波さんは頭を横に振った。
「え? 何? 何?」
「いいの。いいの」

 面白い話が聞けるとでも思ったのか赤根井さんは好奇心まるだしで私と小波さんをうかがう。それを制するようにゆったりと小波さんは視線を上げた。
「ああ。じゃあ、桐野さんだ」

 急に名前を言われて意味もなくびくついた。例の体育館裏呼び出し事件で私は名乗っただろうか。記憶にない。

「池内君と写真係してるんでしょう?」

 やんわりとやわらかい声で彼女は笑った。本当に華奢でかわいい。声も仕草も。こんな女の子に生まれたいと思える彼女に見つめられて、頬が少し赤らんだ。
「はい。えっと」
「あ、そっか。池内に美弥、紹介したのって優貴だったっけ」

 がってんとばかりに赤根井さんが大きく頷いた。

 赤根井さんの紹介だと思っていたのだけれど、実際は少し違ったらしい。今しがた知ったのだが、池内君は図書委員らしいのだ。小波さんが図書委員ということは、上谷君がらみで知っていたけれど、まさか池内君が図書委員だとは思わなかった。およそ似合わない。思わず漏れ出た本音にカラカラと赤根井さんは笑い、小波さんも佐伯さんと目を合わせて笑った。
「まじめに仕事してるよ。三年はカウンター当番しなくても良いのに昼休みもね、ちゃんとお仕事してる。私もそんなに話したことなかったんだけど」
 写真係になったころ、カメラを持っていないのだとこぼしていた彼に同じくカウンター当番だった彼女が佐伯さんを紹介したのだという。
「健人君がいろんなカメラ持ってるって美弥、言ってたし」

 それに便乗して私も借りていたのだ。
「知らなくって、あの、ごめん、じゃなくて……ありがとう」

 小波さんがにっこりと笑う。

 上谷君でなくても惚れてしまう。そんなことを考えていたら思わず池内君が思い起こされた。不意に浮かんだ思いつきに顔をしかめる。

 
(もしかして?)
 

 私の悪い癖は考えなしに言葉にしてしまうことだ。それも自分で口にしたことに気づかない。目の前できょとんとした三人の顔に私も同じような顔で返した。
「ちょ、ないないない」

 赤根井さんが呆れたように手のひらをふる。
「それはないかなぁ」 佐伯さんも呟いて、小波さんは困ったような顔をした。
「あ、の」
「あいつさぁ、背の高い子が好きなんだよね」
「はぁ」

 思わず首を傾ける。あいつ? 背の高い子?
「まずないわ。優貴、身長どんくらいだっけ? 翔太と大差ないだろ? ないわー」

 ないないと言い続けながら首を振る。私は口に出していたのだとようやく気がつく。

 
『池内君が好きなのって小波さんなのかな』
 

 余計なお世話な一言に自分でも恥ずかしくなった。だけど、赤根井さんの言葉の方が衝撃的で目をしばたく。
「あれれ。透、翔太のこと知らないの。うんとー……。この間が確か恵だったろ。その前がアキ? その前、だれだっけ? 佐竹さん?」
 つらつらと同級生の名を指折りあげていく。

 私はぱちぱちと瞬きした。
「みんな……大きめの子だね」
「そう! あいつも身の程をなぁー。やっぱさ、女子としては自分よりでかいやつがいいじゃん? それをまぁ、こりもせず次から次へと振られて振られまくってる!」

 大げさな身振り手振りで最終的にはぷくくと笑った彼女に 「はぁ」 と間の抜けた返事をする。小波さんも小さく唇をかんで笑っていた。
「好みってあるもんね」 と佐伯さんは真顔で頷く。

 予鈴が鳴った。ホームルームの時間である。 「やばい」 と小さく舌打ちした赤根井さんにひっぱられる二人を見送りながら、もやもやと消化不足のような鳩尾に手を乗せた。
 

(好み……)
 

 池内君は背の高い子を好きになるという。そんなの変だとやっぱり思う。自分よりも背の高い女子。自分より背の高い彼女。
「池内君って……変なの」

 どう表現して良いのか分からず、 「変」 だと口にした。だけど、どうしてだか自分の口元がだらしなく緩むのを抑えることができなかった。

 

 
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