ショートショート×トールトール・ラバー【25】 | 虹色金魚熱中症

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虹色金魚の管理人カラムが詩とお話をおいています。

拙いコトバたちですが読んでいただければ幸いです。

遺伝ですから
 

ショートショート×トールトール・ラバー【25
 

 

 男は長身に限るのだと姉貴がこれ見よがしにでかい胸を張る。それを聞た俺も弟も無言で味噌汁をすする父を盗み見た。

 騒がしくも楽しくあるべき夕餉の席で一家団欒を激しく揺るがしたのは、人気のお笑い芸人が司会を務めるバラエティー番組である。バラエティーを前にあるまじき沈黙が食卓を制した。
 

 司会者が言う。

 
「ちゃいますよ。男は顔でも性格でもない。金ですよ」
「お前それも持ってないやん」
 

 中途半端なジョークもノリと勢いで笑いに変わる。そこに割り込んでの姉の一言である。
 我が家一番の身長を誇るのがこの姉、二十四歳独身である。身長は百八十に迫る勢い。それはもう態度もでかいが背も高い。それに次ぐのが母であって、何の因果か池内家の男は等しくチビである。

 父は百六十。弟はまだ中学生であるゆえの希望的観測はあるにしても百五十五。そして俺が百六十二センチメートルである。もちろん、俺もまだ希望を捨ててはいないが、それでも父を見る限り、儚い夢に終わりそうだと覚悟している。

 
「限るってもさ」
 

 父に気をつかってか、気のいい弟が口を尖らす。けれどこの場合、聞き逃した振りがベターだっただろう。まだ若いゆえ、その辺の機転がきかない。暗鬱な話題を掘り下げるべく口を開きかけた弟に箸を向けて抗議する姉の目が光った。

 
「背は大事よ。顔も良いにこした事はないけどね。顔はいじれても背はなかなかごまかせない」
 

 もっともなご意見である。

 
「最近の女子は背が高いのよ。その上、ヒールだってある。まずはヒール分ね、男は劣ってるのよ。そこからのスタート」

 
 もはや何が言いたいのか分からない。姉は熱く、暑苦しく語りだし、どんと机をたたいてみせた。一見クールに見える姉は癇癪もちである。

 
「だぁかぁらぁ! 足りてない分のハートを見せろってのよ!」
 

 まぁまぁと訳知り顔の母が笑う。

 
「りっちゃん、今度はもうちょっと背の高い人選べばいいのよ」
 

(ああ……)
 

 わけも分かって弟と頷く。姉はまた振られたらしい。

 
「なんで男にヒールがないんだよぅ」
 

 父の晩酌用の焼酎お湯割を奪い取り一気にあおる。姉はかなりの酒豪である。うい、うい、とわけの分からない声を上げながら素直に流れる涙をぬぐう。母が笑う。父は黙って飯を食う。弟は大きな溜息をついた。俺はぼんやり考えていた。やっぱり、背の高い女子は背の高い男子との方が釣り合うのだろう。

 
(桐野ちゃんと光圀……)
 

 想像はたやすい。少し困った笑顔の彼女といつもと変わらない光圀。

 
(友ならば……。一肌脱ぐべきなのか)

 
 そんなわけで、とんかつを片手に桐野さんと光圀の仲を取り持つべく動くことを決意した。

 
「兄貴、俺ら激しく性別間違って生まれてきたよな」
「何だよ。俺は女子が好きだ」
「いや、そうじゃなくて」
 

 弟は俺らと姉を交互に指差す。背の高い女の姉貴。背の低い男の俺ら。ああ、と頷く。確かにそうだ。体格的特徴が逆であれば人生とても楽しかろう。

 ぼそぼそと忍ばせた耳打ちを聞き漏らすことなく母が言う。

 
「遺伝だもの仕方がないわよ。好みも遺伝ね」
 

 年のわりに可愛らしい顔のつくりの母が父に向かって片目をつぶる。ウィンクだとは認めたくない。それは破壊力をともなって父に刺さった。咳き込む父の顔が赤い。
 

(なんで母さん、こんなチビがよかったんだか……)
 

 いたずらに笑う母が父に湯飲みを差し出した。

 
「好み……!」
 

 母の言葉を反芻して、俺は思い切り肩を落とす羽目になった。父の好きな母は背が高く、母の好きな父は背が低い。姉の好みは小柄なタイプで俺の好みはスレンダーな長身だ。
 

 つまりは遺伝だ。遺伝子レベル。
 

「意味ないじゃん……」
 

 背の低い子を好きになるぞキャンペーンはこれをもってお開きになった。
 

 
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