ショートショート×トールトール・ラバー【27】 | 虹色金魚熱中症

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チビキューピッド
 

ショートショート×トールトール・ラバー【27
 

 

 世の中にはそこそこの容姿でも、もてる人もいるわけで、またたいそうな容姿でも思った程もてないやつもいる。
 一番嫌なタイプが目の前にいるわけだが、背負った不幸さに愛の手を差し出してやってもいい。もても時として不幸を呼び寄せる。だけど一度は経験したいものだ。いや、喉から手が出るほど経験したい。
「またカメラ子ちゃん?」
 みなまで言うなと光圀はあたりを見回し首をすくめた。欲しいときには彼女を簡単に作れてしまう、たいそうな容姿で、もてる男の彼は肉食獣に怯える兎のようにぶるりと震えてみせた。普段大げさな身振りをするやつではないだけにその怯えは本物だろう。
「最近、とみにしつこいようだ」
 人差し指で眼鏡を押し上げ戸川が言う。ただし視線は手の中の文庫から剥がれない。
「口にするな。出てきそうな気がするだろ」
 まるで女子による黒光りの俊足昆虫への暴言だが、彼にとっては等しいことなのかもしれない。しかし光圀の怯えとは裏腹にその状況を羨ましいと指をくわえる男子がどれほどいることだろう。お前はその顔を与えたもうた神にもっと感謝すべきだと切に思う。俺は俺で、こんなちんちくりんにした神を呪ってもいいだろう。
 一学期の終わりごろから頻繁に光圀の周りをうろつくようになった二年の女子が、このところ俄然ヒートアップして光圀をべったりマークしている。女子に平気で冷たく接することができる光圀の攻撃をもろともせず、それはストーカーも真っ青の攻防をみせていた。
「もーつきあっちゃえば」
「馬鹿いうな」
 安直な案を口にして、返事を聞く前にぎくりとする。そんなことになれば、桐野さんになんと言えばいいだろう。
「大体、あいつはそういうんじゃないんだよ。写真とらせろってそればかりだろ。俺、そういうの好きじゃないから」
「出し惜しみしてるから食い下がられてるんだ。一発、ヌードでも撮らせたらどうだ。満足して成仏するんじゃないか」
 可愛い女子を怨霊扱いしているにもかかわらず、一理あると頷ける。トレードマークのように首からごついカメラを提げた後輩女子は自称写真部、期待のホープで、光圀を追い回すのも被写体としてらしい。こんな無表情の男を撮って何になるのかと不思議ではあるが、需要はあるのかもしれない。クラスの女子がその後輩――安藤夏香(あんどうなつか)に写真が取れたら買わせて欲しいと交渉しているのを見たことがある。美男というのは金にもなるらしい。
「屋上も嗅ぎ付けられた」
 ずっと掛かっていたはずの屋上への入り口の鍵が壊れていることを知ってから一月あまり逃げ場にしていたのだが、それも見つかってしまったらしい。カメラマンというのは鼻もきくのか。安住の地はもはや授業中の教室と男子トイレくらいなものだ。
 一見するに安藤女子は小柄で可愛い。男としては可愛い女子に 「先輩、先輩」 と追いかけられるのは悪い気分では無いはずだが、度が過ぎると悪夢にもなる。五分休みのたびに逃げ続け、昼休みまで男子トイレに篭らねばならないのであれば、それは十二分にホラーである。
「なぁ。一週間くらいなんだけど」
 思いつくままに口を開いた。心優しい男なのだ、俺は。
 大量の寄贈書が学校OBから送られていて、これを機に図書室のレイアウトも変えたいのだと図書委員顧問の上谷先生が言っていたのを思い出したからだ。人手として光圀ならば問題はあるまい。その代わりにレイアウト変更期間中は封鎖となる図書室を休み時間中、借りることはそう難しくないはずだ。

 力仕事を引き受けることに、面倒ごとの嫌いな光圀は嫌がるかとも思ったが二つ返事で了承した。よほどまいっているのだろう。
 上谷先生にも簡単に了解が取れた。図書委員の男手は少ないうえ、力仕事に向いている男子が少ないのだから両手を上げて大喜びだった。

 光圀も助かって先生は喜んで、いいこと尽くしだ。いいことついでに俺は桐野さんにも声をかけた。彼女のキューピッド役をどこまで担えるかは分からないけれど、それがとても良いことのように思えたからだ。

 

 
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